嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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番外編 カウベリーの事件簿 ④

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 ルドルフの家を出て小雪の舞い散る中、2人の警察官が馬に乗りながら会話をしていた。

「いや~それにしても驚きましたね。警部補。」

若手の警察官が声を掛けて来た。

「何が驚きなんだね?カール巡査。火災事件にグレースとイワンが絡んでいたことか?それとも伯爵令嬢が火災事件の犯人として親子の縁を切られて追い出されたことか?」

手綱を持ち、しっかりと前を向きながら馬に乗る警部補はチラリと若手警察官を見た。

「いえ・・それも驚きなんですけどね・・・まさかあのルドルフ君がたった15歳で伯爵令嬢と婚約していたって事が一番驚きなんですよ。俺なんかもう21歳なのに、いまだに結婚相手が見つからなくて・・。」

ハハハと笑いながらカールと呼ばれた巡査は言う。

「別に・・珍しいことでは無いだろう?何しろ彼らは貴族なのだからな。中には幼い内からもう結婚相手が決められている者達だっているのだから。」

「そうですよね、俺達平民と違って彼らは貴族ですからね~・・。いや・・・それにしても彼も気の毒ですよね。婚約者が父親から縁を切られて爵位を失ってしまった挙句に、この町を追い出されてしまったなんて・・・。」

「・・・だから、そのためにルドルフ君は我らを頼ってきたのだろう?自分の婚約者の無実を信じて・・。」

ポツリと警部補は言う。

「ええ、そうですね。でも・・本当にイワンは火災事件に関わっていたのでしょうか?」

「・・・分からん。だが・・ルドルフ君はそう思っている。とにかく今はイワンと・・グレースの関係性を探るのが先決だ。」

「はい、そうですね。」

そして2人は表情を引き締めると、イワンの家へ向けて馬を走らせた―。



 イワンの家は町はずれのさびれた場所にあった。
付近の住宅はまばらで、建っている家のどれもが粗末な造りの小屋であった。

警部補とカール巡査がイワンの家の前に着くと、そこは黄色のバリケードテープが入り口に貼られていた。警部補はテープをベリベリと剥がすと言った。

「よし、では中へ入ってみるか。」

「はい。」

そして2人の警察官は今は誰も住んでいないイワンの家へ足を踏み入れた。

イワンの家は貧しく、本当に必要最低限の物しかなかった。リビングとダイニングの共有スペースには年季の入った木製の楕円形のテーブルに、やはり古びた椅子が2脚のみ。そして2人掛け用のソファが置いてあるが、あちこち破けて繕った跡が残されている。
家人のいなくなってしまった暖炉には蜘蛛の巣が張ってあり、部屋の中は外と殆ど大差ない程に冷え切っている。

「本当に・・・何も無い貧しい家ですね・・・。先程のルドルフ君の屋敷とは大違いですね。」

カール巡査は手をこすり合わせて、白い息を吐きながら言った。

「ああ・・・そうだな。そう言えばあそこに扉がある。ひょっとしてイワンの部屋ではないだろうか?」

警部補はドアに歩み寄ると、がちゃりとドアを開けた。するとそこはやはりイワンの部屋であった。小さな部屋に木製の粗末なベッドが置かれ。古びた引き出し付きの机と椅子が窓際に置かれていた。洋服ダンスは無く、いくつか床にカゴが置かれており、そこに衣類が入っていた。そしてハンガーには駅の清掃員の制服がぶら下げてあった。

「・・随分と惨めな暮らしぶりだったのだな・・・。」

警部補はポツリと呟いた。恐らく駅の清掃員の仕事では母1人子1人が暮らしていくには十分といえる給金は貰えていなかっただろう。ましてや母親は身体が弱く、まともに働けないと聞いている。

「1人息子に・・自殺と言う形で先立たれ・・今どんな気持ちなのだろうな・・・。」

「警部補・・・。」

警部補は帽子を脱ぐと、イワンの部屋で黙とうをささげた。それを見たカール巡査も慌てて帽子を脱ぎ、黙祷を捧げた。

 黙祷を終えた2人はイワンの部屋の捜索を行った。

「イワンは・・何も遺書は残していなかったんですよね?」

カール巡査はイワンの部屋に置いてある小さな本棚を探しながら尋ねてきた。

「ああ。そんな話は何も聞いていないな・・。」

警部補は答えながらイワンの机の引き出しの中身を探していたが・・・ふと手を止めた。

引き出しの中には便箋が入っていた―。



 
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