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50 ニコルの忠告
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キーンコーンカーンコーン
1限目の経営学の授業が終わった。机の上の荷物を片付けながらキャロルが声を掛けてきた。
「良かったわ、テア。腕の怪我・・良くなったみたいで。」
「ええ、昨日はノート取ってくれてありがとう。そう言えば、キャロルの足の具合はどう?」
「私も大分良くなったわ。松葉杖もいらない程度になったし。まだちょっと歩くと痛いけど・・でも平気よ。」
「まあ、そうなの?それは良かったわ。」
その時、どこかから視線を感じたのでそちらを見るとじっとこちらを見つめているヘンリーがいた。けれど私と目が合うと、慌てて視線を逸らす。
「ヘンリー・・・。」
小声でつぶやくと、キャロルが尋ねてきた。
「どうしたの?テア。」
「あ・・ううん。ヘンリーがこっちを見ていたから・・。」
「ああ・・そうなのね。」
何故か興味なさげにキャロルが言う。昨日から何となくヘンリーに対するキャロルの態度が冷たい気がしたので私は尋ねてみる事にした。
「ねえ・・・キャロル。ヘンリーと何か・・・あった?」
「え?」
「何だか・・・ヘンリーに対する態度が初めて会った時と違う気がしたから・・・。」
「それは・・・。テアが・・。」
「え?私が・・何?」
キャロルは何か言いかけて、コホンと咳払いすると言った。
「そ、それはね、ヘンリーが・・・テアの腕を怪我させたからよ。だから言ったの。テアに優しく出来ないなら私には話しかけないでって。」
「え・・?キャロル・・そんな事言ったの?」
「ええ?・・ひょっとして・・駄目だったの?」
どこか悲し気な目でキャロルが私を見つめる。
「ううん、そんな事無いわ。キャロルのその気持ち・・とても嬉しいわ。でも・・・。」
「でも・・何?」
「ヘンリーの事は・・もういいのよ。私はヘンリーにふさわしくないから。だから・・もっと彼にふさわしい女性がお付き合いするべきなのよ。」
そう・・たとえば、キャロル。貴女みたいな・・・。
「ねえ・・・それは、許婚の話は無かったことにするって事?」
キャロルは食いつき気味に尋ねて来る。
「え、えっと・・・ヘンリーが承諾すれば・・そうなるわね・・・。でもきっと彼なら喜んで承諾するかもね。」
母もヘンリーの事を反対しているのだから、やっぱりこの辺が引き際なのかもしれない・・。
「まあ!大変っ!」
突然キャロルが声を上げた。
「な、何?」
「もう次の講義の人達が入ってきているわ。私達も早く次の教室へ移動しないと!」
「ええ、そうね。急ぎましょう。」
そして私はキャロルに肩を貸して教室を出ると・・・。
「あ・・・。」
何と教室の外にはヘンリーがいた。私は咄嗟にヘンリーから視線を外した。その様子を見たキャロルが代わりにヘンリーに尋ねた。
「ヘンリー・・こんなところで何をしていたの?」
「あ・・・俺は・・・。」
そして意味深な目で私を見る。ああ・・そうか、きっと私は邪魔なんだ。
「あの、私・・・先に教室へ行ってるから・・・。」
「え?テア?」
キャロルが驚いたように声を掛けてきたが、私は笑顔で言った。
「私の事なら気にしないで。それじゃあね。」
「あ、おい。テア!」
ヘンリーも私の名を呼ぶが、振り返らなかった。私はヘンリーとキャロルの仲を応援すると決めたのだから。ヘンリー。キャロルの事よろしくね・・・。少しの胸の痛みを抑えて私は次の教室へと急ぎ足で歩いていると、前方に見知った人物が歩いていた。
「ニコルッ!」
するとニコルが振り向いて笑顔で挨拶してくれた。
「やあ、テア。おはよう。あれ?キャロルは?」
並んで歩きながら私は答えた。
「キャロルならヘンリーと一緒よ。あの2人、お似合いだと思わない?」
「え?!」
すると何故かニコルが驚いたような顔を向けてきた。
「え?どうかしたの?」
「テア・・・ヘンリーとキャロルはお似合いだと思ってるの?」
「え?ええ・・・。だって、2人共お互いの事、想いあっているんじゃないの?私という人間がいるから、気持ちを伝え合えないと思うのよ。私・・ヘンリーから身を引こうと思っているの。これ以上ヘンリーに嫌われたくないし、キャロルは私にとって大切な親友だから。」
「・・・・。」
しかし、ニコルは難しい顔をして黙っている。そして口を開いた。
「テア・・・。2人の様子をもう一度・・よく観察してみたほうがいいと思うよ?」
「そ、そう・・・?分ったわ。」
「うん、そうした方がいい。ところでテアは次は何の授業なんだい?」
「次?次は貿易学よ。」
「そうか、それじゃ俺と一緒だね。よし、一緒に行こう。」
「ええ、そうね。」
そして私とニコルは一緒に次のクラスへ向かった―。
1限目の経営学の授業が終わった。机の上の荷物を片付けながらキャロルが声を掛けてきた。
「良かったわ、テア。腕の怪我・・良くなったみたいで。」
「ええ、昨日はノート取ってくれてありがとう。そう言えば、キャロルの足の具合はどう?」
「私も大分良くなったわ。松葉杖もいらない程度になったし。まだちょっと歩くと痛いけど・・でも平気よ。」
「まあ、そうなの?それは良かったわ。」
その時、どこかから視線を感じたのでそちらを見るとじっとこちらを見つめているヘンリーがいた。けれど私と目が合うと、慌てて視線を逸らす。
「ヘンリー・・・。」
小声でつぶやくと、キャロルが尋ねてきた。
「どうしたの?テア。」
「あ・・ううん。ヘンリーがこっちを見ていたから・・。」
「ああ・・そうなのね。」
何故か興味なさげにキャロルが言う。昨日から何となくヘンリーに対するキャロルの態度が冷たい気がしたので私は尋ねてみる事にした。
「ねえ・・・キャロル。ヘンリーと何か・・・あった?」
「え?」
「何だか・・・ヘンリーに対する態度が初めて会った時と違う気がしたから・・・。」
「それは・・・。テアが・・。」
「え?私が・・何?」
キャロルは何か言いかけて、コホンと咳払いすると言った。
「そ、それはね、ヘンリーが・・・テアの腕を怪我させたからよ。だから言ったの。テアに優しく出来ないなら私には話しかけないでって。」
「え・・?キャロル・・そんな事言ったの?」
「ええ?・・ひょっとして・・駄目だったの?」
どこか悲し気な目でキャロルが私を見つめる。
「ううん、そんな事無いわ。キャロルのその気持ち・・とても嬉しいわ。でも・・・。」
「でも・・何?」
「ヘンリーの事は・・もういいのよ。私はヘンリーにふさわしくないから。だから・・もっと彼にふさわしい女性がお付き合いするべきなのよ。」
そう・・たとえば、キャロル。貴女みたいな・・・。
「ねえ・・・それは、許婚の話は無かったことにするって事?」
キャロルは食いつき気味に尋ねて来る。
「え、えっと・・・ヘンリーが承諾すれば・・そうなるわね・・・。でもきっと彼なら喜んで承諾するかもね。」
母もヘンリーの事を反対しているのだから、やっぱりこの辺が引き際なのかもしれない・・。
「まあ!大変っ!」
突然キャロルが声を上げた。
「な、何?」
「もう次の講義の人達が入ってきているわ。私達も早く次の教室へ移動しないと!」
「ええ、そうね。急ぎましょう。」
そして私はキャロルに肩を貸して教室を出ると・・・。
「あ・・・。」
何と教室の外にはヘンリーがいた。私は咄嗟にヘンリーから視線を外した。その様子を見たキャロルが代わりにヘンリーに尋ねた。
「ヘンリー・・こんなところで何をしていたの?」
「あ・・・俺は・・・。」
そして意味深な目で私を見る。ああ・・そうか、きっと私は邪魔なんだ。
「あの、私・・・先に教室へ行ってるから・・・。」
「え?テア?」
キャロルが驚いたように声を掛けてきたが、私は笑顔で言った。
「私の事なら気にしないで。それじゃあね。」
「あ、おい。テア!」
ヘンリーも私の名を呼ぶが、振り返らなかった。私はヘンリーとキャロルの仲を応援すると決めたのだから。ヘンリー。キャロルの事よろしくね・・・。少しの胸の痛みを抑えて私は次の教室へと急ぎ足で歩いていると、前方に見知った人物が歩いていた。
「ニコルッ!」
するとニコルが振り向いて笑顔で挨拶してくれた。
「やあ、テア。おはよう。あれ?キャロルは?」
並んで歩きながら私は答えた。
「キャロルならヘンリーと一緒よ。あの2人、お似合いだと思わない?」
「え?!」
すると何故かニコルが驚いたような顔を向けてきた。
「え?どうかしたの?」
「テア・・・ヘンリーとキャロルはお似合いだと思ってるの?」
「え?ええ・・・。だって、2人共お互いの事、想いあっているんじゃないの?私という人間がいるから、気持ちを伝え合えないと思うのよ。私・・ヘンリーから身を引こうと思っているの。これ以上ヘンリーに嫌われたくないし、キャロルは私にとって大切な親友だから。」
「・・・・。」
しかし、ニコルは難しい顔をして黙っている。そして口を開いた。
「テア・・・。2人の様子をもう一度・・よく観察してみたほうがいいと思うよ?」
「そ、そう・・・?分ったわ。」
「うん、そうした方がいい。ところでテアは次は何の授業なんだい?」
「次?次は貿易学よ。」
「そうか、それじゃ俺と一緒だね。よし、一緒に行こう。」
「ええ、そうね。」
そして私とニコルは一緒に次のクラスへ向かった―。
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