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4-14 見られた幸福 2
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――その頃。
本邸に住むセイラは苛立ちを募らせていた。
その理由はサフィニア。
実は屋敷の廊下を歩いていた彼女の耳に、またしてもメイドたちの噂話が飛び込んできたのが原因だ。
「離宮に住む公女様の話、聞いた? 今日は何とあの有名なデザイナー、マダム・ポリーがドレスを作るために訪ねてきたそうよ」
「それに、歴史を教える家庭教師の先生が、すごく褒めてたって」
「庭もすっかり綺麗になっていたって聞いたわ」
セイラは立ち止まり、指先が白くなるほど両手を強く握りしめた。
(……何よ。また、あの子の話!?)
マダム・ポリーは、人を選ぶデザイナーと言うことでも有名だった。たとえ相手がどれ程高貴な血筋の者でも、自分がドレスを作りたいと思える人物しか相手にしない。
当然、醜く太ったセイラが相手にされるはず等無かった。
そして歴史が専門分野の家庭教師。
彼はセイラの家庭教師でもあるが、物覚えが悪いセイラはいつも厳しく叱責されている。
(マダム・ポリーは私を相手にしないし、あの意地悪教師はいつも私を怒ってばかりで、お父様に告げ口している……それなのに、サフィニアは……!)
悔しさが募り、セイラは唇を強く嚙み締めた。
(あの娘は、この家の恥でずっと誰にも知られてはいけない存在だったのに……それが何!? 今では公女扱いなの!? マダム・ポリーにドレスを作ってもらって、あの意地悪で厳しい家庭教師に褒められている? そんなの……許されるはずないじゃない! しかもセザールはサフィニアをかまってばかり……セザールは私の物なのに!)
「滑稽ね。メイドの娘が、貴族の真似事なんて……。」
いつしか、言葉になって口から出ていた。サフィニアへの憎悪は増々大きくなっていく。
「……確かめてやるわ」
****
「馬車を出しなさい!」
セイラは、自らの足で馬繋場へ向かうと待機していた御者に命じた。
「え? セイラ様!? 何故こちらへ!?」
御者が驚くのは無理もない。いつもなら使用人が馬車を出すよう、伝えに来るのにセイラ自らが馬繋場へ来たからだ。
「いいから、四の五の言わずに馬車を出すのよ!」
ダンッ!
片足で地面を踏みつけるセイラ。
「は、はい! ただいま!」
御者は慌てて返事をすると馬車の用意を始めた――
「さ、どうぞお乗りください」
御者に言われ、セイラは頷くと馬車に乗り込み御者を睨みつけた。
「いい? 行先は離宮よ。私が今日馬車を出して離宮へ行ったことは絶対誰にも言うんじゃないわよ? もしバラしたら……お前をクビにしてやるから!」
「は、はい! 口が裂けても申しません!」
御者は震えながら返事をすると、早速馬車を離宮へ向かって走らせた。
馬車が出発すると、セイラは窓の外を見つめながら、唇を噛みしめた。
道沿いの木々が流れていく。その景色が、なぜか遠く感じられた。
(私の妹だなんて……絶対、誰が認めるものですか)
サフィニアの離宮は屋敷から少し離れた静かな場所にある。
古く朽ち果てそうになっていた離宮には、メイドだったローズとその娘がひっそりと暮らしていた。
それが、今では「公女の住まい」として立派に整備されている。その事実だけでセイラは激しい怒りがこみあげてならない。
「なんて生意気な小娘なの……卑しい血を引くメイドの子のくせに……!」
やがて離宮に到着し、セイラは門の前で馬車を止めさせた。
「ここで止まりなさい!」
「え? よ、よろしいのでしょうか?」
御者がおっかなびっくり尋ねてくる。
「いいのよ。お前はここで待っていなさい」
中に入りたくは無かった。自分のプライドがそれを許さなかったのだ。
セイラは馬車から降りると庭の外れにある林の陰へと歩いていく。
足元の草が、ドレスの裾をかすめる。
風が吹き抜け、赤い髪が揺れた。
セイラは木々の隙間から離宮の窓を見つめ……目を見開いた。
以前訪ねた時は補修が必要な程あちこち崩れ、廃墟同然だった離宮が今では見違えるほど立派になっていたのだ。
「……やっぱり噂は本当だったのね……あんな卑しいメイドの子供に……」
手配したのが父親だと言うのは分かり切っていた。父への憎しみもフツフツと湧き上がってくる。
しかし……。
「フ、フン! どうせ少し飾っただけの部屋でしょう。あの子が私より幸せになるなんて……!」
だが、窓の向こうに見えた光景は、セイラの予想を裏切った。
サフィニアは鏡の前でドレスを纏っていた。
淡い水色のシルクが彼女の肌に馴染み、髪は丁寧に結い上げられている。
その表情は、穏やかで気品があった。
その姿にセイラは息を呑んだ。
美しい——不覚にもそう思ってしまった自分に激しい嫌悪が湧いた。
(……滑稽ね。メイドの娘が貴族の真似事するなんて)
セイラは唇を噛みしめた。
「サフィニア……あんたは邪魔なのよ。絶対に排除してやる……!」
セイラの低い呟きは、風に乗って消えて行った――
本邸に住むセイラは苛立ちを募らせていた。
その理由はサフィニア。
実は屋敷の廊下を歩いていた彼女の耳に、またしてもメイドたちの噂話が飛び込んできたのが原因だ。
「離宮に住む公女様の話、聞いた? 今日は何とあの有名なデザイナー、マダム・ポリーがドレスを作るために訪ねてきたそうよ」
「それに、歴史を教える家庭教師の先生が、すごく褒めてたって」
「庭もすっかり綺麗になっていたって聞いたわ」
セイラは立ち止まり、指先が白くなるほど両手を強く握りしめた。
(……何よ。また、あの子の話!?)
マダム・ポリーは、人を選ぶデザイナーと言うことでも有名だった。たとえ相手がどれ程高貴な血筋の者でも、自分がドレスを作りたいと思える人物しか相手にしない。
当然、醜く太ったセイラが相手にされるはず等無かった。
そして歴史が専門分野の家庭教師。
彼はセイラの家庭教師でもあるが、物覚えが悪いセイラはいつも厳しく叱責されている。
(マダム・ポリーは私を相手にしないし、あの意地悪教師はいつも私を怒ってばかりで、お父様に告げ口している……それなのに、サフィニアは……!)
悔しさが募り、セイラは唇を強く嚙み締めた。
(あの娘は、この家の恥でずっと誰にも知られてはいけない存在だったのに……それが何!? 今では公女扱いなの!? マダム・ポリーにドレスを作ってもらって、あの意地悪で厳しい家庭教師に褒められている? そんなの……許されるはずないじゃない! しかもセザールはサフィニアをかまってばかり……セザールは私の物なのに!)
「滑稽ね。メイドの娘が、貴族の真似事なんて……。」
いつしか、言葉になって口から出ていた。サフィニアへの憎悪は増々大きくなっていく。
「……確かめてやるわ」
****
「馬車を出しなさい!」
セイラは、自らの足で馬繋場へ向かうと待機していた御者に命じた。
「え? セイラ様!? 何故こちらへ!?」
御者が驚くのは無理もない。いつもなら使用人が馬車を出すよう、伝えに来るのにセイラ自らが馬繋場へ来たからだ。
「いいから、四の五の言わずに馬車を出すのよ!」
ダンッ!
片足で地面を踏みつけるセイラ。
「は、はい! ただいま!」
御者は慌てて返事をすると馬車の用意を始めた――
「さ、どうぞお乗りください」
御者に言われ、セイラは頷くと馬車に乗り込み御者を睨みつけた。
「いい? 行先は離宮よ。私が今日馬車を出して離宮へ行ったことは絶対誰にも言うんじゃないわよ? もしバラしたら……お前をクビにしてやるから!」
「は、はい! 口が裂けても申しません!」
御者は震えながら返事をすると、早速馬車を離宮へ向かって走らせた。
馬車が出発すると、セイラは窓の外を見つめながら、唇を噛みしめた。
道沿いの木々が流れていく。その景色が、なぜか遠く感じられた。
(私の妹だなんて……絶対、誰が認めるものですか)
サフィニアの離宮は屋敷から少し離れた静かな場所にある。
古く朽ち果てそうになっていた離宮には、メイドだったローズとその娘がひっそりと暮らしていた。
それが、今では「公女の住まい」として立派に整備されている。その事実だけでセイラは激しい怒りがこみあげてならない。
「なんて生意気な小娘なの……卑しい血を引くメイドの子のくせに……!」
やがて離宮に到着し、セイラは門の前で馬車を止めさせた。
「ここで止まりなさい!」
「え? よ、よろしいのでしょうか?」
御者がおっかなびっくり尋ねてくる。
「いいのよ。お前はここで待っていなさい」
中に入りたくは無かった。自分のプライドがそれを許さなかったのだ。
セイラは馬車から降りると庭の外れにある林の陰へと歩いていく。
足元の草が、ドレスの裾をかすめる。
風が吹き抜け、赤い髪が揺れた。
セイラは木々の隙間から離宮の窓を見つめ……目を見開いた。
以前訪ねた時は補修が必要な程あちこち崩れ、廃墟同然だった離宮が今では見違えるほど立派になっていたのだ。
「……やっぱり噂は本当だったのね……あんな卑しいメイドの子供に……」
手配したのが父親だと言うのは分かり切っていた。父への憎しみもフツフツと湧き上がってくる。
しかし……。
「フ、フン! どうせ少し飾っただけの部屋でしょう。あの子が私より幸せになるなんて……!」
だが、窓の向こうに見えた光景は、セイラの予想を裏切った。
サフィニアは鏡の前でドレスを纏っていた。
淡い水色のシルクが彼女の肌に馴染み、髪は丁寧に結い上げられている。
その表情は、穏やかで気品があった。
その姿にセイラは息を呑んだ。
美しい——不覚にもそう思ってしまった自分に激しい嫌悪が湧いた。
(……滑稽ね。メイドの娘が貴族の真似事するなんて)
セイラは唇を噛みしめた。
「サフィニア……あんたは邪魔なのよ。絶対に排除してやる……!」
セイラの低い呟きは、風に乗って消えて行った――
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