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6-32 三人の話し合い
セザールは応接間の扉を開けると、背後にいるサフィニアとレオンに声をかけた。
「お二人とも、どうぞお入りください」
二人は応接室に入ると、セザールはソファを勧めてきた。
「どうぞこちらのソファにお掛けください」
サフィニアとレオンは部屋に入り、ソファに腰を下ろした。
応接室は落ち着いた調度品に囲まれており、窓から差す太陽の光が室内を明るく照らしている。
「僕がお二人のために、紅茶を淹れてきましょう。それまで二人でお話しください」
セザールの申し出に、レオンは慌てて立ち上がりかけた。
「そ、そんな……セザール様に紅茶を淹れていただくなんて……」
一方、サフィニアは笑顔になる。
「本当? セザールが淹れてくれるのね?」
「ええ、もちろんです」
セザールが頷くと、サフィニアはレオンに視線を向けた。
「レオンさん、セザールの淹れてくれた紅茶は格別においしいんですよ?」
「そうなのですね?」
目を見開くレオン。
「ではサフィニア様のお好きなローズティーを淹れてまいります。それまで、お二人でお話されてください」
会釈するとセザールは部屋を後にした。
……レオンのために。
セザールが部屋を出るとサフィニアは少しだけ視線を落とし、直ぐに謝罪の言葉を述べた。
「……レオンさん、ごめんなさい」
「え? 何故謝るのですか? どうぞ、お顔を上げてください」
当然驚くレオン。
サフィニアは顔を上げ、レオンをじっと見つめると……語り始めた。
「……昨日、施設の前でレオンさんと再会した時、最初は私を連れ戻しに来たのだと思ったのです」
「え……?」
連れ戻すと言う、思いがけない言葉にレオンは戸惑う。
「けれど、レオンさんはそんな素振りは一度も見せませんでした……」
「……」
何といえばよいか分からず、ただ黙ってサフィニアの言葉を聞いていた。
「レオンさん。もしかして……私の偽装死を手伝ったことで、ノルディア王国に居づらくなって旅に出たのではありませんか?」
「い、いえ。そんなことはありません。ただ……サフィニア様が旅立って、色々思うことがあって……悩んでいた時期がありました。そんな僕を見た神父様がおっしゃったのです。それなら旅に出て見分を広げてみたらどうかと。それで旅に出る決意をしました。そして神父様から餞別として、荷馬車を頂きました」
その言葉は嘘ではなかったが……正しくもなかった。
「それで、いざ旅に出てみると……色々苦労の連続で……サフィニア様は無事に旅を続けているのか心配になって……ここまで……来てしまいました……」
慎重に言葉を選びながら話し終えると、レオンは項垂れた。
サフィニアは少しの間、無言でレオンを見つめていたが――
「レオンさん、ありがとうございます。それでは私を心配して、ここまで来てくださったということですね?」
「! は、はい……」
顔を上げたレオンは驚いた。サフィニアが口元に笑みを浮かべて、自分をじっと見つめていたからだ。
その声は優しく、美しい緑の瞳には自分だけが映し出され……思わずレオンの顔が赤く染まる。
サフィニアはレオンの隠している真の思いには気づいていない。
けれど自分に向けてくる笑顔は、レオンの胸に染み入った。
(公女様なのに、僕のような平民に笑顔を向けてくださるなんて……)
その時。
「お待たせしました」
あらかじめ開かれていた扉から、セザールがトレーを手に戻ってきた。するとローズティーの香りがフワリと部屋に広がる。
「サフィニア様のお好きなローズティーをお持ちいたしました。レオンさんにはレモンティーを淹れてみました」
「ありがとう、セザール」
サフィニアは笑顔でカップを受け取った。
「ありがとうございます……」
レオンも少し緊張しながら礼を述べる。
セザールはソファに座ると、2人を見渡した。
「それでは、今からレオンさんの今後について、お話ししませんか?」
「ええ」
サフィニアが頷くとセザールはレオンに視線を向けた。
「レオンさん。もしよければ、この国に滞在しませんか? ここはとても素敵なところです。人々も皆、気さくで優しい方ばかりですから」
昨夜と同じ話をするセザール。
「ですが……」
レオンはチラリとサフィニアを見つめた。
(セザール様の提案は嬉しいし、ありがたいけれど……『偽造死』を手伝った僕が、この国に滞在してサフィニア様はイヤではないのだろうか? 僕がここにいることが迷惑なら……)
しかし――
「そうですね。もし行く宛てが無いのなら、レオンさんも『ミレナ王国』に滞在しませんか? 皆親切で優しい人たちばかりですよ? それに……」
サフィニアは少しだけ俯き……再びレオンに視線を向ける。
「レオンさんは、『サフィニア』という名前で呼んでくれる……数少ない人なので」
「え……?」
レオンは首を傾げる。
「だって、この名前は大好きな母がつけてくれた名前だから……」
サフィニアは今、『ソフィア』として生きている。
けれど心のどこかでは、母がくれた名前を大切に思う気持ちが今も残っているのだ。
「……分かりました。ではこれからも人前以外では『サフィニア様』と呼ばせていただきますね」
「はい、レオンさん」
すると今まで口を閉ざしていたセザールが会話に入ってきた。
「レオンさん、僕の前でも『サフィニア様』とお呼びになって大丈夫ですからね?」
セザールの言葉にサフィニアは笑顔で頷いた。
話も一段落したところで、サフィニアはカップを手に取り、紅茶を口にした。
「美味しい……。セザールの淹れてくれた紅茶は世界一美味しいわ」
サフィニアは再び紅茶を口に運ぶ。
「……ありがとうございます」
セザールは、美味しそうに紅茶を飲むサフィニアを見つめている。
彼の口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。
その姿にレオンは、ハッとした。
(もしかして……セザール様も本当はサフィニア様のことを……?)
レオンの心は、少しだけ痛むのだった――
「お二人とも、どうぞお入りください」
二人は応接室に入ると、セザールはソファを勧めてきた。
「どうぞこちらのソファにお掛けください」
サフィニアとレオンは部屋に入り、ソファに腰を下ろした。
応接室は落ち着いた調度品に囲まれており、窓から差す太陽の光が室内を明るく照らしている。
「僕がお二人のために、紅茶を淹れてきましょう。それまで二人でお話しください」
セザールの申し出に、レオンは慌てて立ち上がりかけた。
「そ、そんな……セザール様に紅茶を淹れていただくなんて……」
一方、サフィニアは笑顔になる。
「本当? セザールが淹れてくれるのね?」
「ええ、もちろんです」
セザールが頷くと、サフィニアはレオンに視線を向けた。
「レオンさん、セザールの淹れてくれた紅茶は格別においしいんですよ?」
「そうなのですね?」
目を見開くレオン。
「ではサフィニア様のお好きなローズティーを淹れてまいります。それまで、お二人でお話されてください」
会釈するとセザールは部屋を後にした。
……レオンのために。
セザールが部屋を出るとサフィニアは少しだけ視線を落とし、直ぐに謝罪の言葉を述べた。
「……レオンさん、ごめんなさい」
「え? 何故謝るのですか? どうぞ、お顔を上げてください」
当然驚くレオン。
サフィニアは顔を上げ、レオンをじっと見つめると……語り始めた。
「……昨日、施設の前でレオンさんと再会した時、最初は私を連れ戻しに来たのだと思ったのです」
「え……?」
連れ戻すと言う、思いがけない言葉にレオンは戸惑う。
「けれど、レオンさんはそんな素振りは一度も見せませんでした……」
「……」
何といえばよいか分からず、ただ黙ってサフィニアの言葉を聞いていた。
「レオンさん。もしかして……私の偽装死を手伝ったことで、ノルディア王国に居づらくなって旅に出たのではありませんか?」
「い、いえ。そんなことはありません。ただ……サフィニア様が旅立って、色々思うことがあって……悩んでいた時期がありました。そんな僕を見た神父様がおっしゃったのです。それなら旅に出て見分を広げてみたらどうかと。それで旅に出る決意をしました。そして神父様から餞別として、荷馬車を頂きました」
その言葉は嘘ではなかったが……正しくもなかった。
「それで、いざ旅に出てみると……色々苦労の連続で……サフィニア様は無事に旅を続けているのか心配になって……ここまで……来てしまいました……」
慎重に言葉を選びながら話し終えると、レオンは項垂れた。
サフィニアは少しの間、無言でレオンを見つめていたが――
「レオンさん、ありがとうございます。それでは私を心配して、ここまで来てくださったということですね?」
「! は、はい……」
顔を上げたレオンは驚いた。サフィニアが口元に笑みを浮かべて、自分をじっと見つめていたからだ。
その声は優しく、美しい緑の瞳には自分だけが映し出され……思わずレオンの顔が赤く染まる。
サフィニアはレオンの隠している真の思いには気づいていない。
けれど自分に向けてくる笑顔は、レオンの胸に染み入った。
(公女様なのに、僕のような平民に笑顔を向けてくださるなんて……)
その時。
「お待たせしました」
あらかじめ開かれていた扉から、セザールがトレーを手に戻ってきた。するとローズティーの香りがフワリと部屋に広がる。
「サフィニア様のお好きなローズティーをお持ちいたしました。レオンさんにはレモンティーを淹れてみました」
「ありがとう、セザール」
サフィニアは笑顔でカップを受け取った。
「ありがとうございます……」
レオンも少し緊張しながら礼を述べる。
セザールはソファに座ると、2人を見渡した。
「それでは、今からレオンさんの今後について、お話ししませんか?」
「ええ」
サフィニアが頷くとセザールはレオンに視線を向けた。
「レオンさん。もしよければ、この国に滞在しませんか? ここはとても素敵なところです。人々も皆、気さくで優しい方ばかりですから」
昨夜と同じ話をするセザール。
「ですが……」
レオンはチラリとサフィニアを見つめた。
(セザール様の提案は嬉しいし、ありがたいけれど……『偽造死』を手伝った僕が、この国に滞在してサフィニア様はイヤではないのだろうか? 僕がここにいることが迷惑なら……)
しかし――
「そうですね。もし行く宛てが無いのなら、レオンさんも『ミレナ王国』に滞在しませんか? 皆親切で優しい人たちばかりですよ? それに……」
サフィニアは少しだけ俯き……再びレオンに視線を向ける。
「レオンさんは、『サフィニア』という名前で呼んでくれる……数少ない人なので」
「え……?」
レオンは首を傾げる。
「だって、この名前は大好きな母がつけてくれた名前だから……」
サフィニアは今、『ソフィア』として生きている。
けれど心のどこかでは、母がくれた名前を大切に思う気持ちが今も残っているのだ。
「……分かりました。ではこれからも人前以外では『サフィニア様』と呼ばせていただきますね」
「はい、レオンさん」
すると今まで口を閉ざしていたセザールが会話に入ってきた。
「レオンさん、僕の前でも『サフィニア様』とお呼びになって大丈夫ですからね?」
セザールの言葉にサフィニアは笑顔で頷いた。
話も一段落したところで、サフィニアはカップを手に取り、紅茶を口にした。
「美味しい……。セザールの淹れてくれた紅茶は世界一美味しいわ」
サフィニアは再び紅茶を口に運ぶ。
「……ありがとうございます」
セザールは、美味しそうに紅茶を飲むサフィニアを見つめている。
彼の口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。
その姿にレオンは、ハッとした。
(もしかして……セザール様も本当はサフィニア様のことを……?)
レオンの心は、少しだけ痛むのだった――
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