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7-12 バネッサの暗躍
――太陽が西に傾き始めた頃。
王宮使節団の奥に広がる森に3人の人影があった。
オレンジ色の太陽の光が木々の間から差し込み、地面に長い影を落としている。
「ほら、もっとしっかり掘りなさい! その調子では、あっという間に日が暮れてしまうわよ!」
バネッサの叱咤する声が森に響く。
彼女の傍らでは2人の若いフットマンがスコップを手に、黙々と土を掘っていた。
制服の袖をまくり、額に汗を滲ませながら何度も何度もスコップを地面に突きさして土を掘り起こす。
「……俺たち……一体何故、森の中で穴なんか掘らされてるんです?」
「獲物でも仕留めるつもりですか…‥? 別に明日でも良くないですか? こんな急に……」
息を切らしながら不満げに尋ねる彼らに、バネッサは冷ややかな声で言い放った。
「お黙り! お前たち、黙って穴を掘りなさい」
その声には、有無を言わせない威圧感があった。
フットマンたちは思わず一瞬手を止めるも、何も言い返せない。
それもそのはず。
相手は宰相の娘、エリーゼの侍女。貴族の身分でもある。
平民出身の彼らが歯向かえるはずもない。
「お前たち……確か、借金があるはずよね? しかも高利貸しから借りているので生活が苦しいと聞いているわよ」
二人の顔が強張る。
「な、何故その話を……」
「一体どこで……」
その事実を彼女が知っていることに驚く2人。
「そんなことは、お前たちが知ることではないわ。このことをバラされたくないなら黙って穴を掘り、決して誰にも言わないことよ。もし約束を守るというなら、代わりに借金を返してあげる。それどころか、謝礼金も払ってあげるわよ。……どう?」
バネッサの言葉に2人は顔を見合わせ……そして、無言で頷いた。
その後彼らは何も聞かずに、再び土を掘り始めた。
そして辺りがすっかり薄暗くなる頃、ようやく深さ2メートルほどの穴を完成させることができた。
「よくやったわ。お前たち、このくらい掘ればいいわよ」
近くの木にロープを括り付けると、穴に垂らすバネッサ。
2人のフットマンは、ロープを掴んで何とか穴から這い上がってきた。
「どう? この穴、ひとりで出てこられると思う?」
バネッサは彼らに尋ねた。
「無理ですよ。ロープがなければ、這い上がれません」
「絶対不可能ですね」
頷く彼ら。
「そう……」
バネッサは冷たい笑みを浮かべると。
「なら謝礼金をあげるわ」
用意していた小袋をポケットから取り出しすと2人に金を手渡した。
「いい? このことは絶対に他言無用よ。もし誰かに喋ったりすれば……お前たちが何故借金を作ったのか、宰相に報告するわ」
2人の顔が青ざめた。
彼らは若気の至りで、賭博に手を染めていたのだ。
賭け事は王宮の雇用規約で厳しく禁じられている。
もしバレれば罰を与えられただけでなく、職を失うことになる。
「わ、わかりました」
「絶対に誰にも言いません」
震えながら返事をする2人。
「それでいいわ。なら早くここから出るわよ」
「「はい」」
3人はバネッサを先頭に、森を後にした――
****
その夜のこと――
バネッサはエリーゼの部屋を訪れていた。
テーブルの上に置かれたアルコールランプの炎が揺らめきながら室内を照らしている。
「……そう、本当に掘ってきたのね」
エリーゼはカウチソファに腰掛けたまま、バネッサを見つめた。
「はい、エリーゼ様」
「深さはどれくらい? 落ちても問題ない深さなのよね? さすがに怪我をさせるわけにはいかないから」
「ええ、もちろんです。せいぜい腰の高さです。何しろ少し驚かせるだけですから。反省させて、もう二度とアドニス様の前に姿を見せないと銀髪メイドに誓わせます。エリーゼ様の為に」
バネッサは不敵に笑った。
その笑みは忠誠ではなく……冷酷な満足の色を帯びている。
エリーゼは、その本心を知る由もなかった――
王宮使節団の奥に広がる森に3人の人影があった。
オレンジ色の太陽の光が木々の間から差し込み、地面に長い影を落としている。
「ほら、もっとしっかり掘りなさい! その調子では、あっという間に日が暮れてしまうわよ!」
バネッサの叱咤する声が森に響く。
彼女の傍らでは2人の若いフットマンがスコップを手に、黙々と土を掘っていた。
制服の袖をまくり、額に汗を滲ませながら何度も何度もスコップを地面に突きさして土を掘り起こす。
「……俺たち……一体何故、森の中で穴なんか掘らされてるんです?」
「獲物でも仕留めるつもりですか…‥? 別に明日でも良くないですか? こんな急に……」
息を切らしながら不満げに尋ねる彼らに、バネッサは冷ややかな声で言い放った。
「お黙り! お前たち、黙って穴を掘りなさい」
その声には、有無を言わせない威圧感があった。
フットマンたちは思わず一瞬手を止めるも、何も言い返せない。
それもそのはず。
相手は宰相の娘、エリーゼの侍女。貴族の身分でもある。
平民出身の彼らが歯向かえるはずもない。
「お前たち……確か、借金があるはずよね? しかも高利貸しから借りているので生活が苦しいと聞いているわよ」
二人の顔が強張る。
「な、何故その話を……」
「一体どこで……」
その事実を彼女が知っていることに驚く2人。
「そんなことは、お前たちが知ることではないわ。このことをバラされたくないなら黙って穴を掘り、決して誰にも言わないことよ。もし約束を守るというなら、代わりに借金を返してあげる。それどころか、謝礼金も払ってあげるわよ。……どう?」
バネッサの言葉に2人は顔を見合わせ……そして、無言で頷いた。
その後彼らは何も聞かずに、再び土を掘り始めた。
そして辺りがすっかり薄暗くなる頃、ようやく深さ2メートルほどの穴を完成させることができた。
「よくやったわ。お前たち、このくらい掘ればいいわよ」
近くの木にロープを括り付けると、穴に垂らすバネッサ。
2人のフットマンは、ロープを掴んで何とか穴から這い上がってきた。
「どう? この穴、ひとりで出てこられると思う?」
バネッサは彼らに尋ねた。
「無理ですよ。ロープがなければ、這い上がれません」
「絶対不可能ですね」
頷く彼ら。
「そう……」
バネッサは冷たい笑みを浮かべると。
「なら謝礼金をあげるわ」
用意していた小袋をポケットから取り出しすと2人に金を手渡した。
「いい? このことは絶対に他言無用よ。もし誰かに喋ったりすれば……お前たちが何故借金を作ったのか、宰相に報告するわ」
2人の顔が青ざめた。
彼らは若気の至りで、賭博に手を染めていたのだ。
賭け事は王宮の雇用規約で厳しく禁じられている。
もしバレれば罰を与えられただけでなく、職を失うことになる。
「わ、わかりました」
「絶対に誰にも言いません」
震えながら返事をする2人。
「それでいいわ。なら早くここから出るわよ」
「「はい」」
3人はバネッサを先頭に、森を後にした――
****
その夜のこと――
バネッサはエリーゼの部屋を訪れていた。
テーブルの上に置かれたアルコールランプの炎が揺らめきながら室内を照らしている。
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「はい、エリーゼ様」
「深さはどれくらい? 落ちても問題ない深さなのよね? さすがに怪我をさせるわけにはいかないから」
「ええ、もちろんです。せいぜい腰の高さです。何しろ少し驚かせるだけですから。反省させて、もう二度とアドニス様の前に姿を見せないと銀髪メイドに誓わせます。エリーゼ様の為に」
バネッサは不敵に笑った。
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エリーゼは、その本心を知る由もなかった――
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