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7-19 目覚め
サフィニア救出から一夜明けた翌朝――
落とし穴を掘ったフットマンたちは王宮の地下牢に拘束されていた。
アドニスに追放を言い渡されたものの、正式な裁きが下るまでは証言者として監視下に置かれている。
副隊長のグレイがアドニスを説得し、このような措置が置かれることになったのだった。
鉄格子の向こうで肩を寄せ合い、裁きを待つフットマンたち。
彼等は一晩のうちに、すっかりやつれ切った表情を浮かべていた――
****
真っ暗な穴の底で、サフィニアは必死に叫んでいた。
『お願い! 誰か! ここから出してー!』
すると頭上から冷たい声が響いていた。
『さよなら。せいぜいそこで怯えて震えているがいいわ』
見上げると、バネッサが上から自分を見下ろしている。
『バ、バネッサ様……』
サフィニアの声が震える。
バネッサは冷たい笑みを浮かべると踵を返し、闇の向こうへ消えていく。
『待ってください! お願いです! ここから出してください!』
必死に追いすがろうとするが、足が重くていうこと聞かない。
2人の距離はどんどん遠くなり、叫び声は虚しく響くだけだった。
『お願いです! 何でも言うことを聞くので……置いて行かないでください!』
バネッサの姿は見えなくなり、サフィニアはとうとう力尽きて座り込んだ。
『お願い……誰か……助けて……』
何時しか懇願するように弱々しい声しか出てこない。
その時、突然背後から声がした。
『助ける……? どうやって?』
『!』
驚いて振り向くと、悲しげな瞳のヘスティアが立っていた。
『ヘ、ヘスティア……』
サフィニアの声が震える。
『サフィニア様は御自分で命を絶たれたのですよね?』
『え!?』
さらに別の声が聞こえ、サフィニアは振り返った。
そこには感情のこもらない瞳でじっと自分を見つめるジルベール。
『『もう、貴女は死んでいるのですよね?』』
2人の声が重なり……徐々に姿が遠ざかっていき……完全に消えた。
『これは……罰なの? 私は……色々な人を騙したから……? ごめんなさい……ごめんなさい……』
うずくまり、震えながら謝罪の言葉を言い続け――
「あ……」
その瞬間、サフィニアは目を覚ました。
目の前には見たこともない高い天井。豪華なシャンデリアが吊り下げられ、上質な寝具に身を横たえていることに気付く。
「ここ……は……?」
首を動かすと、レースのカーテンから差し込む太陽の光が室内を明るく照らしている。
「私……死ななかったのね……」
ポツリと呟いたとき。
――カチャ
突然扉が開いてメイドが現れ、サフィニアが起きていることに気付いて目を見開いた。
「あら? あなた、目が覚めたのね!」
「はい……あの、ここは……?」
戸惑いながら、サフィニアはベッドから身を起こした。
「ここは王宮の客室よ。昨夜、意識の無いあなたをアドニス様が自らここに運ばれたのよ」
「アドニス様が……!?」
その言葉は驚きでしかなかった。
「今、報告してくるわ!」
メイドはスカートを翻すと部屋を出ていき、1人残されたサフィニアは青ざめる。
(王宮……? そんな……ここにはエリーゼ様もバネッサ様もいるのに……!)
昨夜の恐怖と夢のことを思い出す。
「早くここから出て行かないと……!」
ベッドから降りようとした瞬間――右足首に激痛が走る。
「いたっ……!」
痛む足首に触れて包帯が巻かれていることに気付き、あの時の怪我を思い出す。
「これでは……動けないわ……どうしよう……」
困惑していると、突然名前を呼ばれた。
「ソフィアさん!」
息を切らしたアドニスが開け放たれたドアから飛び込んできた。
「あ……アドニス様。この度はご迷惑を……」
言い終える前にアドニスが駆け寄り、サフィニアは強く抱きしめられた。
「良かった……目が覚めて……!」
驚きに息を呑むサフィニア。そして逞しい腕の感触に、あの時穴から引き上げられた記憶が蘇る。
(あの腕……アドニス様だったのだわ……)
――すると。
「ご、ごめん! いきなり抱きしめてしまって……!」
慌てて離れるアドニスの顔は赤く染まっていた。
「いえ……大丈夫です」
サフィニアは居住まいを正し、動揺を隠すと会釈した。
するとアドニスの顔が歪む。
「……怖かっただろう? あんな穴の中に落とされて……誰にやられたんだい?」
優しく問いかけるアドニスに、サフィニアは首を振った。
「いいえ、誰にも何もされていません。そのことなのですが……実は私、昨日森に山菜取りに行って……誤って落とし穴に落ちてしまいました。皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「え……?」
アドニスの顔が青ざめた――
落とし穴を掘ったフットマンたちは王宮の地下牢に拘束されていた。
アドニスに追放を言い渡されたものの、正式な裁きが下るまでは証言者として監視下に置かれている。
副隊長のグレイがアドニスを説得し、このような措置が置かれることになったのだった。
鉄格子の向こうで肩を寄せ合い、裁きを待つフットマンたち。
彼等は一晩のうちに、すっかりやつれ切った表情を浮かべていた――
****
真っ暗な穴の底で、サフィニアは必死に叫んでいた。
『お願い! 誰か! ここから出してー!』
すると頭上から冷たい声が響いていた。
『さよなら。せいぜいそこで怯えて震えているがいいわ』
見上げると、バネッサが上から自分を見下ろしている。
『バ、バネッサ様……』
サフィニアの声が震える。
バネッサは冷たい笑みを浮かべると踵を返し、闇の向こうへ消えていく。
『待ってください! お願いです! ここから出してください!』
必死に追いすがろうとするが、足が重くていうこと聞かない。
2人の距離はどんどん遠くなり、叫び声は虚しく響くだけだった。
『お願いです! 何でも言うことを聞くので……置いて行かないでください!』
バネッサの姿は見えなくなり、サフィニアはとうとう力尽きて座り込んだ。
『お願い……誰か……助けて……』
何時しか懇願するように弱々しい声しか出てこない。
その時、突然背後から声がした。
『助ける……? どうやって?』
『!』
驚いて振り向くと、悲しげな瞳のヘスティアが立っていた。
『ヘ、ヘスティア……』
サフィニアの声が震える。
『サフィニア様は御自分で命を絶たれたのですよね?』
『え!?』
さらに別の声が聞こえ、サフィニアは振り返った。
そこには感情のこもらない瞳でじっと自分を見つめるジルベール。
『『もう、貴女は死んでいるのですよね?』』
2人の声が重なり……徐々に姿が遠ざかっていき……完全に消えた。
『これは……罰なの? 私は……色々な人を騙したから……? ごめんなさい……ごめんなさい……』
うずくまり、震えながら謝罪の言葉を言い続け――
「あ……」
その瞬間、サフィニアは目を覚ました。
目の前には見たこともない高い天井。豪華なシャンデリアが吊り下げられ、上質な寝具に身を横たえていることに気付く。
「ここ……は……?」
首を動かすと、レースのカーテンから差し込む太陽の光が室内を明るく照らしている。
「私……死ななかったのね……」
ポツリと呟いたとき。
――カチャ
突然扉が開いてメイドが現れ、サフィニアが起きていることに気付いて目を見開いた。
「あら? あなた、目が覚めたのね!」
「はい……あの、ここは……?」
戸惑いながら、サフィニアはベッドから身を起こした。
「ここは王宮の客室よ。昨夜、意識の無いあなたをアドニス様が自らここに運ばれたのよ」
「アドニス様が……!?」
その言葉は驚きでしかなかった。
「今、報告してくるわ!」
メイドはスカートを翻すと部屋を出ていき、1人残されたサフィニアは青ざめる。
(王宮……? そんな……ここにはエリーゼ様もバネッサ様もいるのに……!)
昨夜の恐怖と夢のことを思い出す。
「早くここから出て行かないと……!」
ベッドから降りようとした瞬間――右足首に激痛が走る。
「いたっ……!」
痛む足首に触れて包帯が巻かれていることに気付き、あの時の怪我を思い出す。
「これでは……動けないわ……どうしよう……」
困惑していると、突然名前を呼ばれた。
「ソフィアさん!」
息を切らしたアドニスが開け放たれたドアから飛び込んできた。
「あ……アドニス様。この度はご迷惑を……」
言い終える前にアドニスが駆け寄り、サフィニアは強く抱きしめられた。
「良かった……目が覚めて……!」
驚きに息を呑むサフィニア。そして逞しい腕の感触に、あの時穴から引き上げられた記憶が蘇る。
(あの腕……アドニス様だったのだわ……)
――すると。
「ご、ごめん! いきなり抱きしめてしまって……!」
慌てて離れるアドニスの顔は赤く染まっていた。
「いえ……大丈夫です」
サフィニアは居住まいを正し、動揺を隠すと会釈した。
するとアドニスの顔が歪む。
「……怖かっただろう? あんな穴の中に落とされて……誰にやられたんだい?」
優しく問いかけるアドニスに、サフィニアは首を振った。
「いいえ、誰にも何もされていません。そのことなのですが……実は私、昨日森に山菜取りに行って……誤って落とし穴に落ちてしまいました。皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
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