孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
206 / 292

9-4 ヘスティア 4

 するとその時。

開いたままの扉から、ふらりとラファエルが姿を現した。

「へぇ……サフィニアは自分の婚約者だって?
それ、本気で言ってるのか?」

突然のラファエルの登場にジルベールは驚き、息を呑む。

「貴方は……?」

今まで一度もラファエルに会ったことがないジルベールは眉をひそめる。

「何? ラファエル、それはどういう意味だ?」

公爵がラファエルに問い返した。
するとヘスティアがヒステリックに叫ぶ。

「当然ではありませんか! 何を仰っているのです!?
 ラファエル様!」

「ヘスティア嬢、公爵様の御前ですよ? 
お願いです、どうか落ち着いて下さい!」

ジルベールは必死になってヘスティアを宥める。
そんな2人の様子を眺めていたラファエル。
彼は薄ら笑いを浮かべ、肩をすくめた。

「父上、2人がこんなにサフィニアのために訴えているのです。
ここは使用人たちに命じて湖に捜索を出したらいかがです?」

「う~む……」

公爵は肘掛けを指で叩きながら考え込んだ。
ジルベールの必死な様子。そして、一応彼は自分が選んだサフィニアの婚約者。
さらにはラファエルも捜索に賛成している。

「よし、分かった。お前たちの訴えを聞いてやろう。
使用人たちに湖を捜索させることにしよう。
だが、公にしたくは無いからな。警察には通報しない。
何しろ、もとよりサフィニアは正式な公女ではない。
世間に知られてはならない存在なのだ」

この期に及んで、未だに非常な言葉を口にする公爵。

「公爵様! またサフィニア様を侮辱なさるのですか!?」

再び食って掛かろうとするヘスティアだが、ジルベールは冷静に頷く。

「はい、それでかまいません。
公爵様、ありがとうございます」

「なら今すぐ! 湖に捜索する人を寄こして下さい!」

泣きながら訴えるヘスティアを煩わしげに見る公爵。

「全く……先ほどから騒がしくて適わん。
早くその娘を連れて出ていけ」

追い払うような言い方をする公爵に、ジルベールは会釈する。

「はい、それでは失礼いたします。行きましょう、ヘスティア嬢」

ジルベールは興奮しているヘスティアを連れて出て行こうとした。

その時――

「待てよ」

ラファエルが呼び止めた。

「はい、何でしょう?」

ジルベールが振り返り、足を止める。

「そんなに必死にサフィニアの捜索を頼むのは、
ひょっとして何か後ろめたいことでもあるからか?」

尋ねるラファエルはどこか楽し気だ。

「何? それは一体どういう意味だ?」

公爵が尋ねるも、ジルベールは首を傾げる。

「一体何のことでしょう? 僕もヘスティア嬢も
本当にサフィニア様を心配しているので
捜索のお願いをしているのです。
それでは失礼いたします」

ジルベールは深く頭を下げ、ヘスティアを連れて書斎を後にした。
ラファエルはその背中を見送りながら、薄ら笑いを浮かべる。

彼は微塵もサフィニアの心配などしていなかったのだ。
ただ「面白いことになりそうだ」という好奇心から
サフィニアの捜索を提案したに過ぎなかったのだった――


****

――その後。

直ぐにサフィニアの捜索は始められた。
湖周辺を何日もかけて探したが、サフィニアの痕跡は一切見つからない。
近隣の住民に尋ねても、誰一人として「銀の髪の女性」を見た者はない。

ジルベールは毎日捜索に加わり、帰るたびに
「今日も見つからなかった」とヘスティアに報告する日々が続いた。
そのたびにヘスティアは狂ったように泣き叫び、
ジルベールは必死で彼女を宥める。

「必ず見つかります……だから、どうか落ち着いてください」

そう言いながらも、ジルベールは罪悪感で押しつぶされそうだった。
捜索に駆り出された使用人たちも疲弊していった。
泣き叫ぶヘスティアを相手にする者たちも、日に日に消耗していく。
屋敷全体が、蝕まれていった。
サフィニアの不在とヘスティアの狂乱によって。

――そして捜索開始から1カ月後。

ついに捜索は打ち切られ、
「サフィニアは死んだ」ことにされた。

その瞬間。
ヘスティアの心は完全に壊れてしまったのだった――

感想 484

あなたにおすすめの小説

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

妃が微笑んだまま去った日、夫はまだ気づいていなかった

柴田はつみ
恋愛
「セラフィーヌ、君は少し、細かすぎる」 三秒、黙る それから妃は微笑んで、こう言った。 「そうですね。私の目が曇っていたようです」 翌朝から、読書室に妃の姿はなかった。 夫への礼は完璧。公務も完璧。微笑みも完璧。 ただ妻の顔だけが、どこにもなかった。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

学園の華たちが婚約者を奪いに来る

nanahi
恋愛
「私の方がルアージュ様に相応しいわ」 また始まった。毎日のように王立学園の華たちが私のクラスにやってきては、婚約者のルアージュ様をよこせと言う。 「どんな手段を使って王太子殿下との婚約を取り付けたのかしら?どうせ汚い手でしょ?」 はぁ。私から婚約したいと申し出たことなんて一度もないのに。見目麗しく、優雅で優しいルアージュ様は令嬢達にとても人気がある。それなのにどうして元平民の私に婚約の話が舞い込んだのか不思議で仕方がない。 「シャロン。メガネは人前では外さないように。絶対にだ」 入学式の日、ルアージュ様が私に言った。きっと、ひどい近視で丸メガネの地味な私が恥ずかしいんだ。だからそんなことを言うのだろう。勝手に私はそう思いこんでいたけど、どうやら違ったみたいで……?

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。