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10-8 アドニス 6
二人の驚いた顔を見て
ジルベールの表情に戸惑いが浮かんだ。
「え、あの……僕に何か?」
その瞬間。
アドニスの顔つきが険しくなる。
「……君がジルベールか。
サフィニアの婚約者だった男だな?
侍女と恋仲になって、
彼女を傷つけた……」
いつもは温厚なアドニスだが、
サフィニアのこととなると
別人のように怒りを滲ませた。
「え……!? な、なぜそのことを……!?」
ジルベールの顔に怯えが走る。
「アドニス様。
お気持ちは分かりますが……
いきなり、そのようにおっしゃられては……」
セザールが慌てて制止し、
アドニスは我に返った。
「あ……あぁ、そうだったな。すまない。
どうかしていた」
アドニスは深く息を吐いた。
ジルベールは顔を真っ青にし、
震える声で尋ねる。
「な、何故……あなた方は
サフィニア様のことを御存知なのですか……?
まさか……サフィニア様は……
生きておいでなのですか……!?」
興奮で声が震えていた。
セザールが静かに頷く。
「はい。サフィニア様は生きていらっしゃいます。
今はノルディア王国の王宮騎士団施設で、
メイドとして働いておられます」
「……メイドとして……?」
ジルベールの目に涙が浮かぶ。
「よかった……サフィニア様は……
ご無事だったのですね……
本当に……よかった……」
泣き笑いの表情で言うジルベールに、
セザールは続けた。
「こちらの方は『ミレア』王国の王太子、
アドニス様です。
今、サフィニア様を国元で
保護しておられます」
「えっ……! お、王太子様……!?
そ、そうとは知らず……とんだご無礼を……!
申し訳ございません!」
ジルベールが慌てて頭を下げると、
アドニスが短く言った。
「顔を上げろ」
「は、はい……」
おそるおそる顔を上げたジルベールに
アドニスは告げた。
「公女サフィニアは、
婚約者である君が侍女と恋仲になったことで
心を痛めていた。
自分がいなくなれば二人は結ばれるだろうと……
自ら『死』を偽装して旅立ったのだ」
「そ、そん……な……」
ジルベールの顔から血の気が引く。
「そして旅の途中で、奴隷商人に捕まった」
「え……!?
ど、奴隷商人に……ですか……!?」
「そうだ。
馬車には他にも大勢の女性や
子供たちが捕らえられていた。
そこを俺が率いる騎士団と共に救い出した」
「……そう……だったのですか……
サフィニア様は……ご無事だったのですね……
よかった……本当に……」
ジルベールの目から涙が溢れる。
その肩は震えていた。
アドニスは続ける。
「他の者たちは家族の元へ帰ったが、
サフィニアだけは違った。
行く宛てもないと言ったので、
城に連れて帰り、王宮騎士団施設のメイドとして雇った。
今は『ソフィア』と名乗って暮らしている」
「ソフィア……?」
「恐らくだが……
自分は湖で死んだことにしたので
本当の名を名乗れなかったのだろう」
ジルベールは涙を流しながら震える声で言った。
「サフィニア様が……
そんな恐ろしい目に……
でも……生きていて……
無事に暮らしておられるようで……
本当に……よかった……」
そして深々と頭を下げる。
「サフィニア様を助けてくださり……
本当に……ありがとうございます……!」
その姿を、アドニスとセザールは
困惑の表情を浮かべて見つめていた――
ジルベールの表情に戸惑いが浮かんだ。
「え、あの……僕に何か?」
その瞬間。
アドニスの顔つきが険しくなる。
「……君がジルベールか。
サフィニアの婚約者だった男だな?
侍女と恋仲になって、
彼女を傷つけた……」
いつもは温厚なアドニスだが、
サフィニアのこととなると
別人のように怒りを滲ませた。
「え……!? な、なぜそのことを……!?」
ジルベールの顔に怯えが走る。
「アドニス様。
お気持ちは分かりますが……
いきなり、そのようにおっしゃられては……」
セザールが慌てて制止し、
アドニスは我に返った。
「あ……あぁ、そうだったな。すまない。
どうかしていた」
アドニスは深く息を吐いた。
ジルベールは顔を真っ青にし、
震える声で尋ねる。
「な、何故……あなた方は
サフィニア様のことを御存知なのですか……?
まさか……サフィニア様は……
生きておいでなのですか……!?」
興奮で声が震えていた。
セザールが静かに頷く。
「はい。サフィニア様は生きていらっしゃいます。
今はノルディア王国の王宮騎士団施設で、
メイドとして働いておられます」
「……メイドとして……?」
ジルベールの目に涙が浮かぶ。
「よかった……サフィニア様は……
ご無事だったのですね……
本当に……よかった……」
泣き笑いの表情で言うジルベールに、
セザールは続けた。
「こちらの方は『ミレア』王国の王太子、
アドニス様です。
今、サフィニア様を国元で
保護しておられます」
「えっ……! お、王太子様……!?
そ、そうとは知らず……とんだご無礼を……!
申し訳ございません!」
ジルベールが慌てて頭を下げると、
アドニスが短く言った。
「顔を上げろ」
「は、はい……」
おそるおそる顔を上げたジルベールに
アドニスは告げた。
「公女サフィニアは、
婚約者である君が侍女と恋仲になったことで
心を痛めていた。
自分がいなくなれば二人は結ばれるだろうと……
自ら『死』を偽装して旅立ったのだ」
「そ、そん……な……」
ジルベールの顔から血の気が引く。
「そして旅の途中で、奴隷商人に捕まった」
「え……!?
ど、奴隷商人に……ですか……!?」
「そうだ。
馬車には他にも大勢の女性や
子供たちが捕らえられていた。
そこを俺が率いる騎士団と共に救い出した」
「……そう……だったのですか……
サフィニア様は……ご無事だったのですね……
よかった……本当に……」
ジルベールの目から涙が溢れる。
その肩は震えていた。
アドニスは続ける。
「他の者たちは家族の元へ帰ったが、
サフィニアだけは違った。
行く宛てもないと言ったので、
城に連れて帰り、王宮騎士団施設のメイドとして雇った。
今は『ソフィア』と名乗って暮らしている」
「ソフィア……?」
「恐らくだが……
自分は湖で死んだことにしたので
本当の名を名乗れなかったのだろう」
ジルベールは涙を流しながら震える声で言った。
「サフィニア様が……
そんな恐ろしい目に……
でも……生きていて……
無事に暮らしておられるようで……
本当に……よかった……」
そして深々と頭を下げる。
「サフィニア様を助けてくださり……
本当に……ありがとうございます……!」
その姿を、アドニスとセザールは
困惑の表情を浮かべて見つめていた――
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