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10-12 父と娘 2
セイラはウキウキしながら、
まるで夢見心地のように衣装箪笥へ駆け寄り、
両手で大きな扉を勢いよく開け放った。
中には、棚に丁寧に畳まれた
色とりどりのドレスがずらりと並んでいる。
その有様はまるで宝石箱のようだった。
その中から一番のお気に入りである
赤いドレスが入った箱を取り出すと、
セイラはメイドを呼びつけるベルを
チリンチリンと乱暴に鳴らした。
するとすぐに
二名のメイドが駆けつけてきた。
片方は箒を。
もう片方は洗濯籠を抱えている。
エストマン公爵邸では
セイラがベルを鳴らせば、
どんなに急ぎの用があっても
最優先で駆けつけなければならない――
そんな理不尽な決まりがあった。
「はい、セイラお嬢さま」
「お呼びでしょうか?」
怯えた様子で会釈するメイド達。
「遅い! もっと早く来れないの!?」
セイラの叱責が飛び、
メイドたちはビクリと肩を跳ね上げた。
「も、申し訳ございません……」
「次はもっと早く伺いますので、
お、お許しください……」
震えながら謝罪する二人に
セイラは鼻を鳴らす。
「フン、もういいわ。
今は時間がないからね!
お前たち、
このドレスを今すぐ私に着させなさい!
髪も整えて、メイクもするのよ!
何しろ『ミレア』王国の
王太子殿下が私に会いにいらしたのだから!」
「はい!」
「い、今すぐに!」
メイドたちは慌てふためきながら、
大柄なセイラにドレスを着せ、
髪を整え、メイクを施していく。
鏡に映る自分を見つめながら、
セイラは頬を紅潮させた。
(隣国の王太子殿下が、
遠路はるばる私に会いに来てくれるなんて……
やっと私の魅力に気付いた男性が現れたのね。
フフフ……今まで私を馬鹿にしてきた
貴族たちを見返してやるチャンスが来たのね……!)
鏡の中で笑みを浮かべるセイラの姿に、
メイドたちは怯えながら身支度を続けた――
****
その頃――
ツカツカと長い廊下に足音を響かせながら、
エストマン公爵とラファエルが歩いていた。
「急げ! ラファエル!
王太子殿下が応接室で
お待ちになられているのだ!」
前を歩く公爵が振り返りもせず声をかける。
「ですが父上、『ミレア』王国の
王太子殿下がセイラに会いに来たというのは
本当ですか?
どうにも俺には信じられないのですが……」
「何を言う?
この私が隣国の王家を示す封蝋が
分からないとでも言いたいのか!?
何より『ミレア』王国とは国交を結んでいる。
毎年多くの交換留学生だっているではないか!」
「まぁ、そうなのですが……」
「大体、殿下の手紙にははっきりと
『エストマン家の公爵令嬢について話をしたい』
と書いてあるのだぞ!」
「ええ、そこなんですよね……」
返事をしながら、
ラファエルは別のことを考えていた。
(高位貴族でありながら、
誰からも見向きもされないセイラに
王太子が縁談を求めてくると
本気で思っているのだろうか?
それよりも……もしかして……)
そこでラファエルは首を振った。
(まぁいい。
俺は傍で観察させてもらうだけだ。
セイラがどうなろうと、
こっちは関係ないしな。
暇つぶしにはなるだろう)
ラファエルは歩調を速めた。
****
アドニスは一人、応接室のソファで
エストマン公爵が現れるのを待っていた。
室内には贅沢な美術品と調度品が並び、
豪奢な空気が漂っている。
(サフィニアをあんなみすぼらしい
離宮に追いやり、自分たちはこんな
贅沢な暮らしをしているなんて……!)
王太子でありながら騎士団長を務める
アドニスは贅沢を好まない。
常に庶民の生活向上を念頭に置く彼にとって、
この光景は怒りを増幅させるだけだった。
そのとき。
「お待たせいたしました、王太子殿下!」
軽やかな声とともに、
満面の笑顔を浮かべたエストマン公爵と、
愛想笑いを貼りつけたラファエルが
応接室に現れた。
「いえ。こちらこそ突然訪問してしまい
申し訳ありません。
ですが……お会いできて光栄です、
エストマン公爵」
アドニスは立ち上がり、
穏やかな笑みを浮かべた――
まるで夢見心地のように衣装箪笥へ駆け寄り、
両手で大きな扉を勢いよく開け放った。
中には、棚に丁寧に畳まれた
色とりどりのドレスがずらりと並んでいる。
その有様はまるで宝石箱のようだった。
その中から一番のお気に入りである
赤いドレスが入った箱を取り出すと、
セイラはメイドを呼びつけるベルを
チリンチリンと乱暴に鳴らした。
するとすぐに
二名のメイドが駆けつけてきた。
片方は箒を。
もう片方は洗濯籠を抱えている。
エストマン公爵邸では
セイラがベルを鳴らせば、
どんなに急ぎの用があっても
最優先で駆けつけなければならない――
そんな理不尽な決まりがあった。
「はい、セイラお嬢さま」
「お呼びでしょうか?」
怯えた様子で会釈するメイド達。
「遅い! もっと早く来れないの!?」
セイラの叱責が飛び、
メイドたちはビクリと肩を跳ね上げた。
「も、申し訳ございません……」
「次はもっと早く伺いますので、
お、お許しください……」
震えながら謝罪する二人に
セイラは鼻を鳴らす。
「フン、もういいわ。
今は時間がないからね!
お前たち、
このドレスを今すぐ私に着させなさい!
髪も整えて、メイクもするのよ!
何しろ『ミレア』王国の
王太子殿下が私に会いにいらしたのだから!」
「はい!」
「い、今すぐに!」
メイドたちは慌てふためきながら、
大柄なセイラにドレスを着せ、
髪を整え、メイクを施していく。
鏡に映る自分を見つめながら、
セイラは頬を紅潮させた。
(隣国の王太子殿下が、
遠路はるばる私に会いに来てくれるなんて……
やっと私の魅力に気付いた男性が現れたのね。
フフフ……今まで私を馬鹿にしてきた
貴族たちを見返してやるチャンスが来たのね……!)
鏡の中で笑みを浮かべるセイラの姿に、
メイドたちは怯えながら身支度を続けた――
****
その頃――
ツカツカと長い廊下に足音を響かせながら、
エストマン公爵とラファエルが歩いていた。
「急げ! ラファエル!
王太子殿下が応接室で
お待ちになられているのだ!」
前を歩く公爵が振り返りもせず声をかける。
「ですが父上、『ミレア』王国の
王太子殿下がセイラに会いに来たというのは
本当ですか?
どうにも俺には信じられないのですが……」
「何を言う?
この私が隣国の王家を示す封蝋が
分からないとでも言いたいのか!?
何より『ミレア』王国とは国交を結んでいる。
毎年多くの交換留学生だっているではないか!」
「まぁ、そうなのですが……」
「大体、殿下の手紙にははっきりと
『エストマン家の公爵令嬢について話をしたい』
と書いてあるのだぞ!」
「ええ、そこなんですよね……」
返事をしながら、
ラファエルは別のことを考えていた。
(高位貴族でありながら、
誰からも見向きもされないセイラに
王太子が縁談を求めてくると
本気で思っているのだろうか?
それよりも……もしかして……)
そこでラファエルは首を振った。
(まぁいい。
俺は傍で観察させてもらうだけだ。
セイラがどうなろうと、
こっちは関係ないしな。
暇つぶしにはなるだろう)
ラファエルは歩調を速めた。
****
アドニスは一人、応接室のソファで
エストマン公爵が現れるのを待っていた。
室内には贅沢な美術品と調度品が並び、
豪奢な空気が漂っている。
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離宮に追いやり、自分たちはこんな
贅沢な暮らしをしているなんて……!)
王太子でありながら騎士団長を務める
アドニスは贅沢を好まない。
常に庶民の生活向上を念頭に置く彼にとって、
この光景は怒りを増幅させるだけだった。
そのとき。
「お待たせいたしました、王太子殿下!」
軽やかな声とともに、
満面の笑顔を浮かべたエストマン公爵と、
愛想笑いを貼りつけたラファエルが
応接室に現れた。
「いえ。こちらこそ突然訪問してしまい
申し訳ありません。
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アドニスは立ち上がり、
穏やかな笑みを浮かべた――
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