孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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10-17 エストマン公爵家 5

 アドニスの話を聞いた公爵は
震える声で叫んだ。

「そ、そんな書類は知りません!
私は……私はそんなものに
署名した覚えなど、ありません!」

青ざめた顔で必死に否定する。

「では、この筆跡は誰のものだ?」

アドニスは公爵の前に文書を突き付けた。
公爵は反射的に文書を覗き込み、
その場で凍りついた。

そこに記されていたのは
紛れもなく自分の筆跡だったのだ。

「そ、そんな馬鹿な……
私は……こんな物にサインなど……」

しかし……脳裏に
かつて執事、ポルトスと交わした会話が蘇る。

****

『……公爵様、こちらにご署名をお願いします』

『内容は?』

『いつもと同じ、変わらないものでございます』

『そうか、分かった。
サインすれば良いのだな?』

『ええ、さようでございます……』

****


ポルトスが差し出した書類の束。

大した内容も読まずに署名した日々。
その中にサフィニアの出生証明書もあったのだ。

「そ、そんな……ばかな……
ま、待ってください……私は……
知らなかった……
何も知らなかったのです!」

頭を抱え、震える公爵。
アドニスは冷たい眼差しで見つめる。

「知らなかったでは済まされない。
公爵は【公女の誕生】という重大な文書を、
確認もせずに署名したのだ」

セイラは青ざめ、
ラファエルは口を閉ざしている。

「サフィニアは正式な公女。
あなた方がどれほど否定しようと、
それは変わらない事実だ」

アドニスの言葉に
応接室の空気が重くなる。

そのとき――

「酷い! お父様!」

セイラが椅子を蹴る勢いで
立ち上がった。
その衝撃で椅子が軋み、床が揺れる。

「エストマン家の公女は私だけだと
言っていたのに……!
よりにもよってサフィニアを
正式な公女として認めていたなんて!
あんまりだわ!
あんな……あんな卑しい
メイドの血を引く女を!」

怒りで顔を真っ赤にし、
涙まで浮かべている。
しかし、その叫びを遮ったのは
ラファエルだった。

「だがなぁ……こう言っては何だが、
サフィニアの方がお前より
よほど公女らしいと思うぞ?」

「……は?」

セイラが固まる。
ラファエルは肩をすくめ、続けた。

「気品もあるし、賢い。
何より、美人だしな」

「ちょっと! ラファエル!」

セイラは絶叫した。

「アンタはどっちの味方なのよ!」

「さぁな。だが、別に俺は
サフィニアに今まで一度だって
嫌がらせはしたことは無いぞ。
そうですよね? 父上」

ラファエルは青ざめて震えている
エストマンに尋ねた。

「あ、あぁ……そ、そうだな。
ラファエルよ、お前は一度も
サフィニアに嫌がらせはしたことがなかったな」

エストマンは、これ以上自分に
不利な状況を作らせないために、
必死にコクコクと頷いた。

「何よ! 
単にサフィニアに何の関心も
示さなかっただけでしょう!」

セイラが噛みつく。

「黙れ、セイラ! 
これ以上余計な話はするな!」

「俺を巻き込むなよ!」

公爵は叱責し、ラファエルが怒鳴り返す。

「俺はなぁ、
サフィニアの捜索手配だってやったし、
葬儀だって執り行ってやったんだ!
文句ばかり言うお前に
言われる筋合いはない!」

「何ですって!? 
あんたなんか――!」

ついに3人はアドニスの前で口論を始めた。

ジルベールはオロオロとその様子を眺め、
ヘスティアはセザールの袖を掴んで訴える。

「セザール様……
早くサフィニア様に会わせてください……!」

「もうすぐ会えますよ。落ち着いてください」

セザールが優しく宥める。

応接室は、もはや修羅場と化していた。

そして――

「いい加減にしろ!」

アドニスの鋭い声が応接室に響き渡った――


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