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12-7 権威の末路
「ふざけないでください!」
床に崩れ落ちていた宰相は
突然立ち上がった。
その顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「こんなことが許されるとでも
お思いですか!?
陛下! 私は先代の頃から
ずっと宰相としてこの国を
支えてきたのですぞ!?」
今の宰相は
地位を失う恐怖よりも、激しい怒りの
方が勝っていた。
「……」
しかし国王は無言で宰相を見下ろすのみ。
「……往生際が悪いぞ、宰相」
アドニスは冷たい瞳で宰相を一瞥すると、
視線をディエゴに向ける。
「ディエゴ」
「はっ!」
扉の前に控えていたディエゴが即座に返事をする。
「宰相を取り押さえろ」
「はい!」
ディエゴは素早い動きで駆け寄ると、
背後から宰相の腕を掴んでねじり上げた。
「な、何をする! 離せ! 私は宰相だぞ!」
暴れる宰相に
エリーゼが悲痛な声を上げる。
「やめて!
お父様に乱暴な真似はしないで!」
宰相は必死に腕を振り払おうとするが、
ディエゴは容赦なく押さえつけた。
「ぐっ……! は、離せ!」
痛みに顔を歪めながらも暴れる宰相。
「お父様! やめて! 離して!」
エリーゼがディエゴの腕をつかんだ瞬間。
「エリーゼ。
父親のように拘束されたいのか?」
アドニスが冷たく言い放つ。
「!」
その言葉に慌ててディエゴの腕を放し、
涙目で拘束されている父を見つめる。
「騎士の分際で……無礼だぞ!
この手を離すのだ!」
激しく抵抗しながら喚く宰相。
しかし、力の強い騎士に適うはずもない。
「アドニス様。この男……
拘束具を用いても、よろしいでしょうか?」
ディエゴは宰相を押さえつけたまま、
アドニスに尋ねた。
「な、何だと!?」
青ざめる宰相を無視し、頷くアドニス。
「ああ、構わん。やってくれ」
「はっ!」
ディエゴは腰に下げていた革製の手枷を取り出し、
宰相の手首に素早く装着した。
「お、おい! 本気なのか!?
本気でこの私にそのような物を……!
よせ! やめろー!!」
今までにないくらい激しく暴れる。
しかし……。
――カチリ
金具が冷たい音を立て、
宰相の両手は後ろで固定された。
「いやああ! お父様!」
父親が拘束されたことにより、
エリーゼは悲鳴を上げる。
「くっ……貴様……!」
憎々しげにディエゴを睨みつけた宰相は、
次に国王へ視線を向けた。
「陛下! アドニス様はまだ
王太子殿下ですぞ!?
未だに執務より騎士団長の
任務を優先されている!
私を裁く権限があるとは到底思えません!
陛下のお考えをお聞かせください!」
あろうことか、
宰相はアドニスを蔑ろにしようとした。
その様子を見ていた国王は重々しく
口を開いた。
「アドニスは既に騎士団長を辞している。
私は近く王位を譲るつもりだ。
……なるほど。
次期国王を仰げぬのであれば、
なおさらお前に宰相の職務は任せられぬな。」
「! へ、陛下……?」
国王は声を張り上げた。
「衛兵よ!」
「「はっ!」」
重厚な扉が開き、二人の衛兵が現れる。
「この二人を地下牢へ連れて行け」
「「御意!!」」
「陛下! 陛下!!」
暴れる宰相。
エリーゼは抵抗する気力もないまま
衛兵に腕を掴まれたまま引きずられていく。
――バタン……
扉が閉ざされ、謁見室に静寂が戻った――
床に崩れ落ちていた宰相は
突然立ち上がった。
その顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「こんなことが許されるとでも
お思いですか!?
陛下! 私は先代の頃から
ずっと宰相としてこの国を
支えてきたのですぞ!?」
今の宰相は
地位を失う恐怖よりも、激しい怒りの
方が勝っていた。
「……」
しかし国王は無言で宰相を見下ろすのみ。
「……往生際が悪いぞ、宰相」
アドニスは冷たい瞳で宰相を一瞥すると、
視線をディエゴに向ける。
「ディエゴ」
「はっ!」
扉の前に控えていたディエゴが即座に返事をする。
「宰相を取り押さえろ」
「はい!」
ディエゴは素早い動きで駆け寄ると、
背後から宰相の腕を掴んでねじり上げた。
「な、何をする! 離せ! 私は宰相だぞ!」
暴れる宰相に
エリーゼが悲痛な声を上げる。
「やめて!
お父様に乱暴な真似はしないで!」
宰相は必死に腕を振り払おうとするが、
ディエゴは容赦なく押さえつけた。
「ぐっ……! は、離せ!」
痛みに顔を歪めながらも暴れる宰相。
「お父様! やめて! 離して!」
エリーゼがディエゴの腕をつかんだ瞬間。
「エリーゼ。
父親のように拘束されたいのか?」
アドニスが冷たく言い放つ。
「!」
その言葉に慌ててディエゴの腕を放し、
涙目で拘束されている父を見つめる。
「騎士の分際で……無礼だぞ!
この手を離すのだ!」
激しく抵抗しながら喚く宰相。
しかし、力の強い騎士に適うはずもない。
「アドニス様。この男……
拘束具を用いても、よろしいでしょうか?」
ディエゴは宰相を押さえつけたまま、
アドニスに尋ねた。
「な、何だと!?」
青ざめる宰相を無視し、頷くアドニス。
「ああ、構わん。やってくれ」
「はっ!」
ディエゴは腰に下げていた革製の手枷を取り出し、
宰相の手首に素早く装着した。
「お、おい! 本気なのか!?
本気でこの私にそのような物を……!
よせ! やめろー!!」
今までにないくらい激しく暴れる。
しかし……。
――カチリ
金具が冷たい音を立て、
宰相の両手は後ろで固定された。
「いやああ! お父様!」
父親が拘束されたことにより、
エリーゼは悲鳴を上げる。
「くっ……貴様……!」
憎々しげにディエゴを睨みつけた宰相は、
次に国王へ視線を向けた。
「陛下! アドニス様はまだ
王太子殿下ですぞ!?
未だに執務より騎士団長の
任務を優先されている!
私を裁く権限があるとは到底思えません!
陛下のお考えをお聞かせください!」
あろうことか、
宰相はアドニスを蔑ろにしようとした。
その様子を見ていた国王は重々しく
口を開いた。
「アドニスは既に騎士団長を辞している。
私は近く王位を譲るつもりだ。
……なるほど。
次期国王を仰げぬのであれば、
なおさらお前に宰相の職務は任せられぬな。」
「! へ、陛下……?」
国王は声を張り上げた。
「衛兵よ!」
「「はっ!」」
重厚な扉が開き、二人の衛兵が現れる。
「この二人を地下牢へ連れて行け」
「「御意!!」」
「陛下! 陛下!!」
暴れる宰相。
エリーゼは抵抗する気力もないまま
衛兵に腕を掴まれたまま引きずられていく。
――バタン……
扉が閉ざされ、謁見室に静寂が戻った――
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