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2-13 突然の話 2
部屋に戻って来たサフィニアは、すっかり暇になってしまった。
今朝も昨日同様、とても良い天気だった。
そこで窓際に椅子を寄せて座り、外の景色を眺めることにした。窓の外は美しい芝生が広がり、メイドたちが楽し気に会話をしながら洗濯物を洗っている。
「……暇だわ。セザールから何か本でも借りておけば良かったかしら」
サフィニアの部屋は殺風景だった。この部屋で暮らし始めて4年になるが、物は殆ど増えていない。当然、本棚もなければ本も無い。
小さなロッカーダンスには予備のメイド服と、寝間着。それに普段着用の服が何着かあるだけだった。
サフィニアはエストマン公爵家からお金を貰ってていない。ポルトスから資金援助を受けてはいたが、申し訳なく思い、使うことが出来ずにいたのだ。
なので私物は殆ど無かった。普段着用の服は全て他のメイドたちからのお下がりばかりを着ていたのである。
「もし今日1日何も仕事が無いのなら、ママのお墓参りをしてこようかしら……」
仕事が休みの日は、庭師から花を分けてもらって母親の墓参りに行くのがサフィニアの日課となっていた。
ぼんやり窓から外を眺めていた時。
――コンコン
部屋の扉がノックされた。
「誰かしら?」
扉を開けると、目の前にはポルトスの姿があった。
「え? ポルトスさん? どうかしたのですか?」
滅多に部屋を訪ねてこないポルトスが現れたので、サフィニアは首を傾げた。
「お迎えに上がりました、サフィニア様」
「迎えって……何のことですか?」
「今日でサフィニア様はここを出ることが決まったのですよ」
その言葉にサフィニアは青ざめた。
(まさか……昨日のお茶会で、私が出すぎた真似をしてしまったから公爵様の怒りを買ってしまったの……? ここを追い出されたら、私行く場所がない……!)
しかし、ポルトスは予想外のセリフを口にした。
「メイドの仕事は今日限りで終わりになります。今後はまた離宮で暮らすことが決定しました。荷物は後で人を使って運ばせますので、今はまず離宮に行きましょう」
笑みを浮かべるポルトスだが、サフィニアには何が起きているのか理解できなかった。
「あの、今日でメイドの仕事は終わりってどういうことなのでしょうか?」
「はい。昨日行われたヘレン様のお茶会で、サフィニア様がエストマン公爵の御令嬢だということが世間の明るみに出ました。そこでメイドの仕事は終わりになったのです」
けれど何故屋敷ではなく、離宮で暮らすことになるのかをポルトスは説明できなかった。理由を話せば、サフィニアが傷つくと思ったからだ。
しかし……。
「本当ですか? 私、また離宮で暮らすことが出来るのですか?」
ポルトスの予想に反して、サフィニアは笑顔を見せた。
「え? ええ。そのとおりです」
「ありがとうございます! 私、ずっと前から離宮に戻りたいと思っていたんです! 荷造りならすぐに出来ます。わざわざ誰かに運んでもらう必要はありません。少しだけ待っていてもらえますか?」
サフィニアは急いでロッカーを開けると、ハンガーにかかっていた服を外し、床に置かれたカゴに入れた。
「ポルトスさん、用意が出来ました。いつでも離宮へ行けます」
あまりにも少ない荷物に、ポルトスは目を見張った。
「サフィニア様……荷物はそれだけなのですか?」
「はい、そうです」
「え!? そ、そんな……サフィニア様。私が今までサフィニア様に支援金としてお渡ししていたお金はどうしているのです?」
するとサフィニアは顔を赤らめる。
「あの……ポルトスさんから頂いたお金は使っていません。何だか悪い気がして」
「サフィニア様……」
まだたった10歳なのに、大人びた考えを持つサフィニアにポルトスは胸が潰れそうな気持になった。
(お気の毒に……欲しいものは沢山あるはずなのに、一切お金に手を付けていなかったなんて……大人びた考えを持つようになってしまったのは、全て我々のせいだ……)
ポルトスは一度唇をかみしめ、次に笑顔で言った。
「良いですか? サフィニア様、これからは本当の貴族令嬢として振舞うことになるのです。その為には身なりを整える必要がありますので、どうかそのお金はご自由にお使いください」
「……はい。ポルトスさんが言うなら、そうします」
素直に頷くサフィニア。
「では、離宮へ向かいましょう。お荷物は私がお持ちいたします」
「はい。ポルトスさん」
こうして、サフィニアは4年間メイドとして暮らした東棟を後にした――
今朝も昨日同様、とても良い天気だった。
そこで窓際に椅子を寄せて座り、外の景色を眺めることにした。窓の外は美しい芝生が広がり、メイドたちが楽し気に会話をしながら洗濯物を洗っている。
「……暇だわ。セザールから何か本でも借りておけば良かったかしら」
サフィニアの部屋は殺風景だった。この部屋で暮らし始めて4年になるが、物は殆ど増えていない。当然、本棚もなければ本も無い。
小さなロッカーダンスには予備のメイド服と、寝間着。それに普段着用の服が何着かあるだけだった。
サフィニアはエストマン公爵家からお金を貰ってていない。ポルトスから資金援助を受けてはいたが、申し訳なく思い、使うことが出来ずにいたのだ。
なので私物は殆ど無かった。普段着用の服は全て他のメイドたちからのお下がりばかりを着ていたのである。
「もし今日1日何も仕事が無いのなら、ママのお墓参りをしてこようかしら……」
仕事が休みの日は、庭師から花を分けてもらって母親の墓参りに行くのがサフィニアの日課となっていた。
ぼんやり窓から外を眺めていた時。
――コンコン
部屋の扉がノックされた。
「誰かしら?」
扉を開けると、目の前にはポルトスの姿があった。
「え? ポルトスさん? どうかしたのですか?」
滅多に部屋を訪ねてこないポルトスが現れたので、サフィニアは首を傾げた。
「お迎えに上がりました、サフィニア様」
「迎えって……何のことですか?」
「今日でサフィニア様はここを出ることが決まったのですよ」
その言葉にサフィニアは青ざめた。
(まさか……昨日のお茶会で、私が出すぎた真似をしてしまったから公爵様の怒りを買ってしまったの……? ここを追い出されたら、私行く場所がない……!)
しかし、ポルトスは予想外のセリフを口にした。
「メイドの仕事は今日限りで終わりになります。今後はまた離宮で暮らすことが決定しました。荷物は後で人を使って運ばせますので、今はまず離宮に行きましょう」
笑みを浮かべるポルトスだが、サフィニアには何が起きているのか理解できなかった。
「あの、今日でメイドの仕事は終わりってどういうことなのでしょうか?」
「はい。昨日行われたヘレン様のお茶会で、サフィニア様がエストマン公爵の御令嬢だということが世間の明るみに出ました。そこでメイドの仕事は終わりになったのです」
けれど何故屋敷ではなく、離宮で暮らすことになるのかをポルトスは説明できなかった。理由を話せば、サフィニアが傷つくと思ったからだ。
しかし……。
「本当ですか? 私、また離宮で暮らすことが出来るのですか?」
ポルトスの予想に反して、サフィニアは笑顔を見せた。
「え? ええ。そのとおりです」
「ありがとうございます! 私、ずっと前から離宮に戻りたいと思っていたんです! 荷造りならすぐに出来ます。わざわざ誰かに運んでもらう必要はありません。少しだけ待っていてもらえますか?」
サフィニアは急いでロッカーを開けると、ハンガーにかかっていた服を外し、床に置かれたカゴに入れた。
「ポルトスさん、用意が出来ました。いつでも離宮へ行けます」
あまりにも少ない荷物に、ポルトスは目を見張った。
「サフィニア様……荷物はそれだけなのですか?」
「はい、そうです」
「え!? そ、そんな……サフィニア様。私が今までサフィニア様に支援金としてお渡ししていたお金はどうしているのです?」
するとサフィニアは顔を赤らめる。
「あの……ポルトスさんから頂いたお金は使っていません。何だか悪い気がして」
「サフィニア様……」
まだたった10歳なのに、大人びた考えを持つサフィニアにポルトスは胸が潰れそうな気持になった。
(お気の毒に……欲しいものは沢山あるはずなのに、一切お金に手を付けていなかったなんて……大人びた考えを持つようになってしまったのは、全て我々のせいだ……)
ポルトスは一度唇をかみしめ、次に笑顔で言った。
「良いですか? サフィニア様、これからは本当の貴族令嬢として振舞うことになるのです。その為には身なりを整える必要がありますので、どうかそのお金はご自由にお使いください」
「……はい。ポルトスさんが言うなら、そうします」
素直に頷くサフィニア。
「では、離宮へ向かいましょう。お荷物は私がお持ちいたします」
「はい。ポルトスさん」
こうして、サフィニアは4年間メイドとして暮らした東棟を後にした――
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