60 / 214
3-3 ヘスティア 3
しおりを挟む
5台の荷馬車には家具が積まれており、そのうちの1台からは10人前後の使用人たちが降りて来た。
彼らはセザールの指示で次々と家具を離宮へ運んでいく。その様子を邪魔にならないように外で見守るサフィニアとヘスティア。
(すごい家具の量だわ……もしかしてヘスティアさんの実家から運んで来たのかしら?)
好奇心が持ち上がり、ヘスティアは尋ねることにした。
「あの、ヘスティアさん……」
声をかけるとヘスティアは笑顔で言った。
「私はサフィニア様の侍女になるのですから、どうぞヘスティアとお呼びください」
「そう? ならヘスティアと呼ばせて貰うわね。あの家具、もしかして自分の家から運んできたの?」
するとヘスティアの顔が赤くなる。
「い、いえ……違います。私の家は伯爵家とはいえ、落ちぶれてしまっているので……一切家からは持ってきていません。全て、公爵様が用意して下さいました」
「え!?」
ヘスティアの話を聞いて、サフィニアは驚いた。
(お父様は私には何もしてくれないのに……?)
「公爵様は、優しくて御立派な方ですよね。侍女の私に、あんなに立派な家具やドレスまでプレゼントして下さるのですから。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「そ、そうね……」
何と返事をすれば良いか分からなかったサフィニアは無難な返事をすることにした。
そこへ全ての荷物を運び終えたセザールが笑顔でこちらへ近づいてきた。
「セザ……」
「セザール様!」
サフィニアが口を開きかけるより早く、ヘスティアがセザールの名を呼んで駆け寄っていく。
「セザール様。家財道具を運んでいただき、ありがとうございます」
ヘスティアがセザールに礼を述べ、頭を下げる。
「いえ、いいのですよ。エストマン公爵からの指示ですから。礼には及びません」
その時、セザールはサフィニアの視線に気づいて声をかけた。
「サフィニア様、今日は突然のことで驚かれたことでしょう。申し訳ございませんでした」
「私なら大丈夫だから謝らなくていいわよ」
するとヘスティアが会話に入ってきた。
「セザール様。私の部屋に案内していただけませんか?」
「ええ、いいですよ。では、ご案内いたしましょう」
「ありがとうございます!」
笑顔で会話をしているサフィニアとセザールの姿を、サフィニアはぼんやりと眺めていた。
「サフィニア様も御一緒しましょう」
不意にセザールがサフィニアに声をかけてきたが、咄嗟に断るサフィニア。
「私はいいわ。まだここでグミの実を摘んでいるから」
「え? グミの実って何でしょうか?」
するとヘスティアが首を傾げる。
「これがグミの実よ」
サフィニアは手にしていたカゴのクロスを外した。そこには摘み取ったグミの実が入っている。
「これがグミの実ですか? 何だか少しだけ形がチェリーに似てますね」
「そうね、確かに味はチェリーに似ているかもしれないわ」
するとヘスティアはニコリと笑みを浮かべた。
「サフィニア様は植物に詳しいのですね? 素晴らしいです。教えていただき、ありがとうございました」
そして次にセザールを見上げる。
「それではセザール様、お部屋に案内していただけますか?」
「はい、もちろんです」
セザールは返事をすると、サフィニアに声をかけた。
「サフィニア様。ヘスティア様を案内してまいります」
「分かったわ」
返事をすると、セザールはヘスティアと一緒に屋敷の中へ入って行った。
2人が去って行く後ろ姿を見つめながら、サフィニアはポツリと呟く。
「……私、どうしてセザールの誘いを断ってしまったのかしら……」
その声には寂しさが滲んでいた――
彼らはセザールの指示で次々と家具を離宮へ運んでいく。その様子を邪魔にならないように外で見守るサフィニアとヘスティア。
(すごい家具の量だわ……もしかしてヘスティアさんの実家から運んで来たのかしら?)
好奇心が持ち上がり、ヘスティアは尋ねることにした。
「あの、ヘスティアさん……」
声をかけるとヘスティアは笑顔で言った。
「私はサフィニア様の侍女になるのですから、どうぞヘスティアとお呼びください」
「そう? ならヘスティアと呼ばせて貰うわね。あの家具、もしかして自分の家から運んできたの?」
するとヘスティアの顔が赤くなる。
「い、いえ……違います。私の家は伯爵家とはいえ、落ちぶれてしまっているので……一切家からは持ってきていません。全て、公爵様が用意して下さいました」
「え!?」
ヘスティアの話を聞いて、サフィニアは驚いた。
(お父様は私には何もしてくれないのに……?)
「公爵様は、優しくて御立派な方ですよね。侍女の私に、あんなに立派な家具やドレスまでプレゼントして下さるのですから。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「そ、そうね……」
何と返事をすれば良いか分からなかったサフィニアは無難な返事をすることにした。
そこへ全ての荷物を運び終えたセザールが笑顔でこちらへ近づいてきた。
「セザ……」
「セザール様!」
サフィニアが口を開きかけるより早く、ヘスティアがセザールの名を呼んで駆け寄っていく。
「セザール様。家財道具を運んでいただき、ありがとうございます」
ヘスティアがセザールに礼を述べ、頭を下げる。
「いえ、いいのですよ。エストマン公爵からの指示ですから。礼には及びません」
その時、セザールはサフィニアの視線に気づいて声をかけた。
「サフィニア様、今日は突然のことで驚かれたことでしょう。申し訳ございませんでした」
「私なら大丈夫だから謝らなくていいわよ」
するとヘスティアが会話に入ってきた。
「セザール様。私の部屋に案内していただけませんか?」
「ええ、いいですよ。では、ご案内いたしましょう」
「ありがとうございます!」
笑顔で会話をしているサフィニアとセザールの姿を、サフィニアはぼんやりと眺めていた。
「サフィニア様も御一緒しましょう」
不意にセザールがサフィニアに声をかけてきたが、咄嗟に断るサフィニア。
「私はいいわ。まだここでグミの実を摘んでいるから」
「え? グミの実って何でしょうか?」
するとヘスティアが首を傾げる。
「これがグミの実よ」
サフィニアは手にしていたカゴのクロスを外した。そこには摘み取ったグミの実が入っている。
「これがグミの実ですか? 何だか少しだけ形がチェリーに似てますね」
「そうね、確かに味はチェリーに似ているかもしれないわ」
するとヘスティアはニコリと笑みを浮かべた。
「サフィニア様は植物に詳しいのですね? 素晴らしいです。教えていただき、ありがとうございました」
そして次にセザールを見上げる。
「それではセザール様、お部屋に案内していただけますか?」
「はい、もちろんです」
セザールは返事をすると、サフィニアに声をかけた。
「サフィニア様。ヘスティア様を案内してまいります」
「分かったわ」
返事をすると、セザールはヘスティアと一緒に屋敷の中へ入って行った。
2人が去って行く後ろ姿を見つめながら、サフィニアはポツリと呟く。
「……私、どうしてセザールの誘いを断ってしまったのかしら……」
その声には寂しさが滲んでいた――
343
あなたにおすすめの小説
私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話
睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。
4人の女
猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。
うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。
このご婦人方には共通点がある。
かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。
『氷の貴公子』の異名を持つ男。
ジルベール・タレーラン公爵令息。
絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。
しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。
この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。
こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
あなたのことを忘れない日はなかった。
仏白目
恋愛
ノウス子爵家には2人の娘がいる
しっかり者の20歳の長女サエラが入婿をとり子爵家を継いだ、
相手はトーリー伯爵家の三男、ウィルテル20歳 学園では同級生だつた とはいえ恋愛結婚ではなく、立派な政略結婚お互いに恋心はまだ存在していないが、お互いに夫婦として仲良くやって行けると思っていた。 結婚するまでは・・・
ノウス子爵家で一緒に生活する様になると
ウィルテルはサエラの妹のリリアンに気があるようで・・・
*作者ご都合主義の世界観でのフィクションでございます。
忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
硝子の婚約と偽りの戴冠
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から、第一王女アリアと隣国の王子レオンは、誰もが疑わない「未来の国王夫妻」として育てられてきた。
政略で結ばれた関係でありながら、二人の間には確かな絆があった。幼馴染として共に過ごした年月の中で、アリアは感情を表に出さないながらも、レオンをただ一人、深く愛していた。
すべてが順調に進んでいるはずだった。
戴冠式と成婚を目前に控えた、その日までは。
歯車が狂い始めたのは、妹のセシルが涙に濡れた顔で、突然アリアの元へ駆け込んできた夜だった。
震える声で語られたのは、信じ難い言葉――
「……レオン様に、愛を告白されたの」
アリアは即座に否定した。信じるはずがない。あのレオンが、そんな裏切りをするはずがないと。
だが、その確信は、夜の庭園で無惨に打ち砕かれる。
月明かりの下。
レオンは、確かにセシルを抱き寄せていた。
後に明らかになる真実は、あまりにも残酷だった。
姉に対する劣等感を長年募らせてきたセシルが仕掛けた、周到な罠。そして――レオンが決して知られてはならない「ある弱み」を、彼女が握っていたという事実。
それは、愛ではなかった。
だが、アリアの未来を根こそぎ奪うには、十分すぎる裏切りだった。
(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話
のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。
お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる