孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
67 / 217

3-10 セイラの驚くべき提案

しおりを挟む
 小太りの身体に膨張色のオレンジ色のドレスを着たセイラは、意地悪そうな笑みを浮かべて腕組みしている。

そしてまた、セイラに付き添った侍女も冷たい視線でサフィニアを見つめていた。

「セイラ様に御挨拶申し上げます」

サフィニアは慌てて立ち上がると、挨拶をした。

「セイラ様……?」

ヘスティアは小声で名前を呟き、すぐに来客が誰か気付いて慌てて頭を下げる。
2人が挨拶の姿勢を崩さない様子を、少しの間セイラは無言で見つめていたが……。

「あんたたち、顔を上げなさいよ」

セイラに言われて、恐る恐る顔を上げる2人。
するとセイラは、じっとヘスティアを見つめる。

「あ、あの……どうかされましたか?」

セイラがあまりにもジロジロと自分を見つめるのでヘスティアは尋ねた。

「あんたがヘスティア・キャンベルね? サフィニアの新しい侍女になったっていう」

「はい、そうですが……」

「ふ~ん。……全く。お父様といいい、あんたといい物好きね。こんな卑しいメイドが生んだ娘の侍女になるなんて」

「!」

卑しいメイドの娘と言われ、サフィニアの顔がカッと熱くなる。

「ねぇ、聞いたわよ? あんたはお金の為にサフィニアの侍女になったんだって? あんなのの侍女なんかやめてしまいなさい。その代わり私の侍女にしてあげるわよ」

「「「え!?」」」

セイラの提案に、ヘスティアとサフィニア。さらにはセイラの侍女まで、驚いた顔になる。

「あんた、中々人目を惹く容姿をしているから連れて歩くにはいいと思うのよね? どう? もし侍女になったら、私からも同じだけの手当てを月々払ってあげる。ど悪い話じゃないでしょう?」

すると真っ先に反応したのは、セイラの侍女だった。

「あの、セイラ様。あの者を侍女にしても、私はまだセイラ様の侍女を続けられるのですよね?」

媚びを売るような笑顔で尋ねる侍女。

「はぁ? 何言ってるの。私には専属メイドが何人もいるのよ? だから侍女なんて一人で十分。もし彼女を侍女に決めたら、あんたなんかいらない。クビよ、クビ。それくらい当然でしょう?」

「そ、そんな……!」

侍女の顔が真っ青になる。しかし、セイラは気にする素振りも見せず、再度ヘスティアに尋ねた。

「それで、どうするの? 私の侍女になる気はあるの? もしなれば身の回りの世話をするメイドは沢山いるのだから、仕事がずっと楽になるわよ。今だって貴族令嬢として嗜みを、な~んにも分かっていないから教えてあげていたんでしょう? 出来の悪い主を持つと苦労が増えるだけよ? だけど私の処に来れば仕事は減って、お金は沢山貰えるわ。こんな良い話、他にはないでしょう?」

「……」

ヘスティアは黙ってセイラの話を聞いている。
隣にいるサフィニアはヘスティアの顔を見つめた。

(そうだわ、セイラ様の言う通りだわ。ヘスティアはお金の為に、私の侍女になってくれた。より沢山のお金を貰えるのなら……セイラ様の侍女になるのが一番よね。私ではヘスティアの為に何もしてあげられないもの。私の侍女を断りにくいなら、こちらから提案してあげるべきよね?)

「あのね、ヘスティア……」

その時。

「申し訳ございませんが、侍女のお話はお断りさせていただきます」

ヘスティアは、きっぱりと言った――
しおりを挟む
感想 385

あなたにおすすめの小説

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

処理中です...