孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
69 / 217

3-12 離宮に来た理由

しおりを挟む
「え? セザール!? どうしてここに!?」

セザールに好意を抱いているセイラは慌てて、鞭を背中に隠した。

「セイラ様が離宮に向かわれたと話を聞いて、後を追ってきたのですよ」

するとセイラが不機嫌な顔になる。

「何よ、それってつまりサフィニアが心配でここへ来たっていうわけなのね。……そうよ、セザール! あなたは、私の執事になったんじゃなかったの!? なのに、何故サフィニアを構うのよ! こんな、メイドの子供なんかに!」

セイラがサフィニアを指さした途端。

ドサッ!

鞭が床に落ちる音が響いた。隠し持っていた鞭を床に落としてしまったのだ。

「鞭……」

セザールがポツリと口にすると、セイラは慌てて拾い上げた。

「ち、違うのよ! こ、これは……そう! この侍女がサフィニアを鞭で打とうとしたから私が取り上げたのよ!」

「ええ!? そんな! セイラ様!?」

セイラに指さされた侍女は悲痛な声を上げる。

「……残念ですが、先ほど僕はセイラ様がサフィニア様に鞭を振るおうとしているところを目にしております。噓をつくのはやめていただけますか?」

セザールはため息をついた。

「なっ……!」

途端にセイラの顔が真っ赤に染まる。

「セイラ様、先ほどセイラ様は何故僕がここに来たのかを尋ねましたよね?」

「え、ええ。聞いたわ。どうせサフィニアを気にかけて、ここへ来たのでしょう? 何しろサフィニアはセザールのお気に入りなのだからね!」

憎しみを込めた目で、セイラはサフィニアを睨みつけた。しかし、セザールは静かに首を振る。

「いいえ、僕がこちらへ来たのはセイラ様を追ってきたのです。僕はセイラ様の忠実な執事ですから」

「セ、セザール……」

セザールに見つめられ、セイラの頬が赤く染まる。

「でも、サフィニア様に鞭を振るおうとしていたのを目にするとは思いませんでした。まさかお優しいセイラ様が、そのような真似をなさるなんて……僕はセイラ様のことを買い被っていたのでしょうか?」

「ち、違うわ! ほ、本当に誤解なのよ! 相手に鞭打ちをすると、どれほど痛いか教えてあげようと思っただけよ! そ、その……サフィニアに、むやみと人に鞭打ちをするような主になって欲しくなかったから!」

悲し気に目を伏せるセザールに対して苦しい言い訳をするセイラ。
すると途端にセザールは笑顔になる。

「本当ですか!? それなら安心しました。やはりセイラ様は僕の見立て通り、お優しい方だったのですね? ……ところでセイラ様。本日は何故わざわざ離宮に足を運ばれたのですか?」

「あ、そうだったわ! 今の話で思い出したわ」

セイラは鋭い目つきでサフィニアを見ると、ポケットから1通の手紙を取り出した。

「ほら、あんたに招待状が届いているわよ!」

「招待状……ですか?」

「ええ、そうよ! ほら、受け取りなさい! どうせまともに教育も受けていないだろうから、あんたの専属侍女にでも手紙を読んでもらえばいいでしょう!?」

嫌味をたっぷり含ませながらセイラはサフィニアに手紙を突き付けた。

「……ありがとうございます」

サフィニアは手紙を受け取ると、宛名を読んだ。

「リーネ・ウィルソン侯爵……?」

「そうよ。リーネ・ウィルソン侯爵……えぇ!? 何で文字が読めるのよ!」

すると今まで沈黙していたヘスティアが言った。

「サフィニア様は文字の読み書きが出来ますよ。今はこの国の歴史の本を読んでいらっしゃいます」

「何ですって!? 歴史を!?」

勉強が大嫌いなセイラは憎々し気にサフィニアを見つめた。

「ウィルソン侯爵家はとても名家ですね。確か再来週はリーネ侯爵令嬢の15歳の誕生パーティーが開催されることになっておりましたね。もしかして招待状でしょうか?」

セイラの注意を引くため、セザールが会話に入ってきた。

「え、ええ。そうよ。私と彼女は親友でね。つい最近腹違いの妹がいることを話したの。そうしたら、彼女が自分の誕生パーティーに招待したいと言ったのよ。盛大なダンスパーティーが開かれることになっているの。どう? 嬉しいでしょう? 貴族が集まるパーティーに参加できるのだから」

セイラは意地悪な笑みを浮かべる。

「ダンスもあるのですか……?」

サフィニアは小声で尋ねた。

「ええ、そうよ。楽しいパーティーになるはずよ。この私に感謝しなさい」

胸をそらせるセイラ。

(ふん、どうせあの娘にダンスが踊れるはずないわ。せいぜい思いっきり恥をかくがいいわ)

今からサフィニアの失態を考えてほくそ笑むセイラ。
その様子を少しの間、セザールは見守っていたが……。

「セイラ様、そろそろピアノのレッスンが始まる頃です。屋敷に戻りましょう」

「ええ、そうね。戻りましょう、行くわよ」

セイラは背後にいる侍女に声をかけると、セザールと一緒にリビングを出て行った。
セザールはリビングを出る直前、一瞬サフィニアに視線を向けて会釈した。

(セザール……!)

サフィニアとヘスティアは3人が去って行くのを無言で見届けるのだった――


しおりを挟む
感想 385

あなたにおすすめの小説

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...