私の初恋の男性が、婚約者に今にも捨てられてしまいそうです

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
7 / 221

1−7 教室での騒ぎ

しおりを挟む
「ほら、ロザリー。やっぱり私達、同じクラスになれたでしょう?」

クラス分けの掲示板を見ながらアニータが声を掛けてきた。

「本当だわ…良かった…」

私はほっと胸を撫で下ろした。この事は誰にも話せないのだが、私は中等部に通ったことが無い。それは家が貧しくて学校に通う事が出来なかったからだ。その為、勉強は全て父が教えてくれた。知り合いも誰もいない場所で…大勢の生徒たちと一緒に勉強をする自信が正直無かったので、アニータが同じクラスだと言うことは、私にとって心強いものだった。

「ほら、それだけじゃないわ。サリーとアリエルも同じクラスよ」

掲示板を指差すアニータ。

「ええ、そうね。あの2人も一緒なんて心強いわ…え?」

まさか…。
私は目を擦って再度、掲示板を見た。

「あら、レナート様も同じクラスじゃないの」

「ええ…」

私は胸が高鳴るのを感じた―。



****

 アニータと2人でAクラスの教室に行くと、すでに大勢の生徒たちが集まっていた。窓際の日当たりの良い席には白い制服の生徒たちが座り、中央の列には紺色の制服の生徒たちが座っている。そして、日当たりのあまり良くない廊下側には平民の生徒が座っている。

「いい?校則で決められているわけではないけれど、絶対に窓際と中央の座席には座っては駄目よ。覚えておいてね」

アニータがそっと耳元で教えてくれた。

「ありがとう、覚えておくわ」

それにしても校則で決められてもいないのに、暗黙の了解があるなんて…。恐らくこの学園の理事長は建前では全ての学生は身分差に関係なく平等だとうたっているけれども、本当は絶対的な階級制度を無言の圧力で強要しているのだろう。
だからこそ…あの方は私をこの学園に入れたのかもしれない。

「大丈夫?ロザリー。やっぱり…いくら校則で決められていないとは言え…気分はあまり良くないわよね?」

アニータが益々小声で囁いてきた。

「いいえ、大丈夫よ。ただ少し…驚いただけだから」

「そう?なら良かった。それじゃ空いてる席に座りましょう?」

「ええ」

アニータに促され、私達は後ろから2番めの席に並んで座ると、前方の列からサリーとアリエルが手を振っているのが見えた。

「フフ…見て。2人がいるわよ」

アニータが笑みを浮かべながら2人に手を振る。私も彼女に習って手を振ろうとした時、騒ぎが起こった。

「てめぇっ!何処に座ってるんだよっ!!」

突然乱暴な怒鳴り声が教室に響き渡る。

「え?」

驚いて声の方を振り向くと、そこには下級貴族の男子生徒が平民の男子生徒を睨みつけていたのだ。よく見るとその生徒が座っている席は窓際…上級貴族が座る席だった。震える男子生徒をニヤニヤと見つめているのは上級貴族の生徒たちである。

「あ~あ…可哀想に…きっとあの生徒は高等部から編入してきたのね。だから何も知らずにあの席に座ってしまったのね」

アニータが小声で言う。

「おいっ!何処に座ってるかって聞いてるんだよっ!!」

「あ、あの…窓際の席です…」

可哀想に、男子生徒は先程からガタガタと震えている。下級貴族の生徒は容赦ない言葉で彼を責め立てるが、止める者は誰もいない。

「ね、ねぇ…助けなくていいのかしら…」

するとアニータが言う。

「無理よ…私達平民の生徒が太刀打ち出来ると思う?」

確かに平民の生徒達は皆見てみぬふりをしている。

「先生を呼びに行けば…」

「無駄よ」

「え…?無駄…?」

「ええ、先生たちだって上級貴族には逆らえないわよ。この学園の先生たちはせいぜい下級貴族か平民出身だから」

「そ、そんな…!」

何て事だろう…ここまで平民と貴族が差別されていたなんて…。でもこのままではあの生徒が…。

その時―。

「おい!お前っ!何をしているんだっ!」

教室に声が響き渡り、一瞬で教室が静まり返った。声の主はやはりレナート様であった。レナート様は大股で教室に入ってくると、怒鳴りつけていた生徒を睨みつけた後…今度は上級貴族の生徒たちを睨みつけた。

「彼に…この生徒をいたぶるように命令したのか?」

「あ…そ、それは…あの男が…窓際の席に座ったから…」

1人の上級貴族の男子生徒が口を開いた。恐らく彼が命じたのかもしれない。

「だから?立場を利用して何も事情を知らない彼をいたぶっていたのか?大体、校則では誰が何処の席に座ろうが自由なはずだ。違うか?」

レナート様は上級貴族の生徒たちをグルリと睨みつけるように言う。誰もその言葉に反論出来る者はいない。それはレナート様がそれだけ、爵位が高いと言う事の現れなのだろう。
すると1人の上級貴族の男子生徒が口を開いた。

「だ、だけど…良い場所を貴族に譲るのは平民の義務ではないですか?」

するとその言葉に頷く上級貴族の生徒達。一方の平民生徒達は無言で俯いている。

「…くだらない。窓際の席がいい?まるで君たちは子供と一緒だな。第一窓際の席が良い場所なんて誰が決めたんだ?だったらいい。僕は今日から廊下側に座るよ」

その言葉に一斉に教室中がざわめく。レナート様は無言で廊下側の一番後ろの席に座ると、突然拍手が響き渡った。
その場にいた全員が振り向くと手を叩いていたのはイアソン王子だった。
まさか、彼まで同じクラスだったなんて―。

イアソン王子は拍手を終えると言った。

「面白いね…いい物を見せて貰ったよ」

「イアソン王子…」

レナート様がイアソン王子を見た。

「そうだな、廊下側の席だって意外といいかも知れない。よし、決めた。俺も今日から廊下側に座るとしよう」

そして、イアソン王子はよりにもよって、レナート様の隣の席…私の真後ろに座ってしまった―。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...