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2−6 目撃したもの
しおりを挟む特に行き先を決めていなかったし、この辺りはまだ不案内だった私はとりあえず正門を出ると真っ直ぐ道なりに歩き始めた。
「ふふ…きれいな町並みだわ」
学園は町中にあり、道は綺麗に石畳で舗装されて歩くたびにカツカツと良い靴音が響き渡る。私が住んでいる町とは雲泥の差だった。何しろあの場所は本当に田舎で町も道が舗装されてはいないからだ。
「こうやって町を散策するだけでも楽しいわね」
ゆっくり歩いていると、やがて町の中心部であろうか…大きな噴水がある広場が見えてきた。広い道の中央に作られた噴水からは水が勢いよく吹き出している。道の端の方にはベンチが何台か置かれている。そして大勢の人々が道を行き交っている。
「賑やかな通りね…あら?」
何気なく目をやると、可愛らしい赤いとんがり屋根の建物が目についた。どうやらそこはお店の様で、私ぐらいの年齢の女性達が店先に並んでいる。
「あれは何のお店なのかしら?」
私が買える値段のお店では無いかもしれないけれど…ウィンドウショッピングする位なら…。私は店に向かった。
そのお店はクッキー専門店だった。お店の窓越しからは大きな瓶に入った様々な種類いのクッキーが並べられているのが見える。お客さん達はトレーを持ってトングで楽し気に商品を選んでいる。
「1枚から買えるのかしら?あれ位の品物なら私でも買えるかも…」
店内に入ろうとした時、私はある人物を見つけて驚いた。何と店の中にいたのはイアソン王子とフランシスか様だったのだ。2人は紙袋を大事そうに抱えて店を出る処だった。
大変!見つかってしまうっ!
慌てて店から離れて隣の建物からそっと様子を伺っていると、イアソン王子とフランシスカ様が楽しげな様子で店から出て来た。2人とも笑顔で何やら話をしながら、そのまま広場を突っ切って、どこへともなく歩き去って行った。
「…やっぱりレナート様が仰っていた通り…フランシスカ様はイアソン王子とお出かけしていたのね…」
フランシスカ様は何故、あんなに素敵な婚約者のレナート様がいるのにイアソン王子と一緒にいるのだろう?フランシスカ様の話をしている時の悲し気なレナート様の顔を思い浮かべると胸が痛んだ。…何てお気の毒なのだろう。
フランシスカ様とイアソン王子の仲睦まじげな姿を目の当たりにして、一気に気がそがれてしまった。
「…寮に戻りましょう。…やっぱりクッキーを買うなんて…贅沢だわ」
田舎に住む父や弟たちは貧しい生活を強いられ、食べるものだって困る日があると言うのに、私だけ贅沢するわけにはいかない。
「そうだわ、実家に手紙を書いて…フレディに着れなくなった服を送って貰いましょう」
私が持っている普段着はほんの僅か。週末、平民の学生達は皆里帰りするならあの寮で1人で過ごす事になる。
「男の子服を着ていても…おかしくないわよね」
なるべく自分の手持ちの服を駄目にしない為には弟が着れなくなった服を着て過ごそう。
「今日中に手紙を出したいから、早く寮に戻らなくちゃ」
私は急ぎ足で寮に向かった―。
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