63 / 221
4−8 風邪を引いた私
しおりを挟む
「あ…こ、こんばんは。フランシスカ様。…レナート様…」
レナート様はガス灯の明かりを背に立っているので、その表情はうかがえなかった。
「こんな処で一体何をしていたの?もうすぐ19時になるのよ?」
「19時…?」
フランシスカ様の言葉に驚いた。まさかそんなに時間が経過していたなんて…。
9月とは言え、夜の風は冷たい。道理で私の身体が冷え切っていたはずだ。
「ロザリー?どうしたの?何だか顔色が悪いわよ?」
フランシスカ様は私に近付いてくるとそっと右手に触れて来た。
「やだっ!こんなに冷えて…まるで氷のようじゃないのっ!もしかして今までずっと外にいたのっ?!」
その様子は本当に私の事を心配しているように見えた。
こんな身分の高い伯爵令嬢のフランシスカ様に、たかだか平民の私が心配して貰えるなんて…。
一方のレナート様は先程から無言でこちらを見つめている。その表情からは…何も読み取れなかった。
「あ、あの…今夜は夜空がとても美しかったので…外で時間が経つのも忘れて眺めていたんです。ご心配おかけしました。それでは私…これで失礼しますね」
通り過ぎようとすると、フランシスカ様に呼び止められた。
「待って!ロザリー。何だか足元もふらついているし…心配だわ。ついて行ってあげる」
その言葉にレナート様が反応した。駄目だ…今そんな事をしてもらえば私はますます…レナート様から不評を買ってしまうかもしれない…っ!
「いえ、大丈夫です。1人で帰れます。それに…私と一緒に歩いている所を他の方達に見られたら、フランシスカ様の評判を落としかねないので」
それだけじゃなかった。まるでお姫様のような素敵なドレスを着たフランシスカ様の側で粗末な服を着た私と歩いて恥をかかせたくなかった。
「けど…」
「本当に平気です。心配して下さってありがとうございます」
頭を下げると、私は足早にその場を立ち去った。…結局、レナート様からは一言も声を掛けられる事は無かった。
それが…無性に悲しかった―。
そしてその夜…再び私は誰もいない寂しい寮でベッドの中に潜り込み、泣きながら眠りについた―。
****
翌朝―
「今朝は大丈夫そうね…」
鏡を覗き込みながら自分の姿を確認する。
「頭が痛いわ…」
ズキズキする頭の痛みに加え、寒気がするし、肌が擦れただけで痛みを感じる。
立っているのもやっとだった。
「どうしよう…風邪をひいてしまったのかもしれないわ…」
今日も10時から17時までアルバイトがあるのに、こんな体では歩く事もままならない。
「寮母さんにお薬が無いか聞いてみましょう…」
私はふらつきながら部屋を出ると、寮母さんの部屋を目指した。
何とか寮母さんの部屋に辿り着くと、扉をノックした。
コンコン
「…」
しかし、中からは何の反応も無い。
「留守かしら…」
もう一度扉をノックしてみる。
コンコン
それでも応答する気配が無い。そして寮母さんの部屋の前のカウンターに『不在中』の紙が貼られてあることに気付いた。
「そ、そんな…」
寮母さんに薬を貰い、出来ることなら花屋に電話を入れて欠勤させて貰えないか連絡を入れさせてもらおうと思っていただけにショックだった。
「も、もう…自分の足で伝えに行くしかないわね…」
覚悟を決めると、廊下の壁を支えに自分の部屋に引き返していった―。
レナート様はガス灯の明かりを背に立っているので、その表情はうかがえなかった。
「こんな処で一体何をしていたの?もうすぐ19時になるのよ?」
「19時…?」
フランシスカ様の言葉に驚いた。まさかそんなに時間が経過していたなんて…。
9月とは言え、夜の風は冷たい。道理で私の身体が冷え切っていたはずだ。
「ロザリー?どうしたの?何だか顔色が悪いわよ?」
フランシスカ様は私に近付いてくるとそっと右手に触れて来た。
「やだっ!こんなに冷えて…まるで氷のようじゃないのっ!もしかして今までずっと外にいたのっ?!」
その様子は本当に私の事を心配しているように見えた。
こんな身分の高い伯爵令嬢のフランシスカ様に、たかだか平民の私が心配して貰えるなんて…。
一方のレナート様は先程から無言でこちらを見つめている。その表情からは…何も読み取れなかった。
「あ、あの…今夜は夜空がとても美しかったので…外で時間が経つのも忘れて眺めていたんです。ご心配おかけしました。それでは私…これで失礼しますね」
通り過ぎようとすると、フランシスカ様に呼び止められた。
「待って!ロザリー。何だか足元もふらついているし…心配だわ。ついて行ってあげる」
その言葉にレナート様が反応した。駄目だ…今そんな事をしてもらえば私はますます…レナート様から不評を買ってしまうかもしれない…っ!
「いえ、大丈夫です。1人で帰れます。それに…私と一緒に歩いている所を他の方達に見られたら、フランシスカ様の評判を落としかねないので」
それだけじゃなかった。まるでお姫様のような素敵なドレスを着たフランシスカ様の側で粗末な服を着た私と歩いて恥をかかせたくなかった。
「けど…」
「本当に平気です。心配して下さってありがとうございます」
頭を下げると、私は足早にその場を立ち去った。…結局、レナート様からは一言も声を掛けられる事は無かった。
それが…無性に悲しかった―。
そしてその夜…再び私は誰もいない寂しい寮でベッドの中に潜り込み、泣きながら眠りについた―。
****
翌朝―
「今朝は大丈夫そうね…」
鏡を覗き込みながら自分の姿を確認する。
「頭が痛いわ…」
ズキズキする頭の痛みに加え、寒気がするし、肌が擦れただけで痛みを感じる。
立っているのもやっとだった。
「どうしよう…風邪をひいてしまったのかもしれないわ…」
今日も10時から17時までアルバイトがあるのに、こんな体では歩く事もままならない。
「寮母さんにお薬が無いか聞いてみましょう…」
私はふらつきながら部屋を出ると、寮母さんの部屋を目指した。
何とか寮母さんの部屋に辿り着くと、扉をノックした。
コンコン
「…」
しかし、中からは何の反応も無い。
「留守かしら…」
もう一度扉をノックしてみる。
コンコン
それでも応答する気配が無い。そして寮母さんの部屋の前のカウンターに『不在中』の紙が貼られてあることに気付いた。
「そ、そんな…」
寮母さんに薬を貰い、出来ることなら花屋に電話を入れて欠勤させて貰えないか連絡を入れさせてもらおうと思っていただけにショックだった。
「も、もう…自分の足で伝えに行くしかないわね…」
覚悟を決めると、廊下の壁を支えに自分の部屋に引き返していった―。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる