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6-20 別れのホーム
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父とダミアンが馬車に乗って外出してから30分後―
「え?姉ちゃん?どうしたんだよ、その恰好は」
コート姿にトランクケースを引きずってリビングへ現れた私をテーブルの前に座っていたフレディが驚いた様子で声を掛けて来た。フレディの前には長い麻ひもと大量の切り花が並べられている。
「ドライフラワーを作ろうとしていたのね?」
「うん、そうだよ。これも立派な売り物になるからね」
私の問いにフレディが花の茎をハサミでパチンと切りながら返事をした。
「そう、家事仕事以外にも頑張って働いているのね」
弟たちは仕事をしているのに、自分だけ学校で学ばせて貰っているので罪悪感が込み上げて来る。
「ところで姉ちゃん。その恰好まるで…今から帰るみたいじゃないか」
「帰るみたい…じゃなくて、本当に帰るのよ」
「えっ?!何でだよっ!帰って来たばかりじゃないかっ!」
フレディが、目を見開いて立ち上がった。
「…ごめんね、フレディ」
「違うって!俺が聞きたいのは謝罪じゃなくて理由だよ!」
「実は…ユーグ様に呼ばれているの…」
私は嘘をついた。フレディには本当の事など話せるはずは無かった。
まさかダミアンが私の事を、姉では無く1人の女性として…好いているからだとは。そんな事を知ればフレディはショックを受けるに決まってる。だって彼は私が本当の姉だと思っているのだから…。
「な、何だよ。それ…やっぱり姉ちゃんは俺達よりもそっちを優先するのかよ…」
フレディの悲し気な言葉が胸に突き刺さって来る。
「本当にごめんなさい…それじゃ、私行くから…」
「…」
けれど、フレディは返事をしない。
「元気でね。お父さんやダミアンと仲良くしてね…」
悲しい気持ちを押さえて私はフレディに声を掛けると、戸口へ向かった。
駅までは距離があるけれども、歩いている途中で辻馬車が拾えるかもしれないだろう。
すると…。
「待ってよ、姉ちゃん」
背後で声を掛けられた。
「どうしたの?」
振り向くとフレディが上着を着こんでいる所だった。
「…駅まで送るよ」
「え?だって仕事中でしょう?」
「ちょっとくらい大丈夫だよ」
フレディは私の前を通り過ぎながら言った。
「馬車を出してくるよ」
****
ガラガラガラガラ…
御者台の上に乗ったフレディは駅までの道のりは始終無口だった。私は何と声を掛ければよいのか分からず、黙って荷馬車に乗りながら最後になるかもしれない村の景色をじっと見つめた。
村はすっかり冬景色に変わり、馬車道を挟んだ木々はすっかり葉を落としていた。
途中、ポツリポツリと点在するレンガ造りの家々はどれも小さくて古い。
この村がそれだけ貧しい証拠だ。
私はこの光景を目に焼き付けておくために、じっと見つめていた―。
「ありがとう、フレディ」
駅に到着した私は荷物を降ろしてくれたフレディにお礼を言った。
「別に…礼なんて…だけど、お父さんや兄ちゃんには何て言うのさ」
「お父さんは…もう知ってるの。私が…きょう、ここを出て行く事」
「え?!そうだったのか?!それじゃ知らないのは兄ちゃんだけなの?!」
「ええ、そうよ」
頷く私にフレディは問い詰めて来る。
「何でだよ!」
「それは…」
言いかけた時―。
ボーッ…
蒸気機関車が発車を知らせる汽笛を鳴らした。
「ごめんね、フレディ。私…もう行かなくちゃ」
「あ…!姉ちゃんっ!」
背後でフレディの声が聞こえるも、それを振り切って私は汽車に乗り込み…デッキへと向かった。
「姉ちゃん!」
そこへフレディが駆け寄って来る。
「フレディ…元気でね…」
デッキの上から私はフレディに声を掛けた。
「う、うん…」
やがて汽車は大きな汽笛を鳴らして蒸気を噴き上げながらゆっくりとホームを離れていく。
フレディが大きく手を振ったので、私も手を振った。
その時―
誰かがフレディの背後から走って来た。そしてあっという間に戸惑っているフレディの脇を走り抜けると、必死になって汽車に向かって駆けて来る人物が見えた。
「姉さんっ!」
それは…ダミアンだった。
「ダ…ダミアンッ!!」
う、嘘…何でダミアンが…?
「姉さんっ!行かないでくれよっ!」
ダミアンは泣き顔で追いかけて来るも汽車はグングン速度を上げて引き離して行く。
「駄目よっ!ダミアンッ!危ないから来ちゃ駄目っ!」
私は必死で叫んだけれどもダミアンは何かを叫びつつ、走るのをやめない。
けれども汽車とダミアンの距離は増々離れてゆく。
そして…ついにダミアンの姿は見えなくなってしまった―。
「え?姉ちゃん?どうしたんだよ、その恰好は」
コート姿にトランクケースを引きずってリビングへ現れた私をテーブルの前に座っていたフレディが驚いた様子で声を掛けて来た。フレディの前には長い麻ひもと大量の切り花が並べられている。
「ドライフラワーを作ろうとしていたのね?」
「うん、そうだよ。これも立派な売り物になるからね」
私の問いにフレディが花の茎をハサミでパチンと切りながら返事をした。
「そう、家事仕事以外にも頑張って働いているのね」
弟たちは仕事をしているのに、自分だけ学校で学ばせて貰っているので罪悪感が込み上げて来る。
「ところで姉ちゃん。その恰好まるで…今から帰るみたいじゃないか」
「帰るみたい…じゃなくて、本当に帰るのよ」
「えっ?!何でだよっ!帰って来たばかりじゃないかっ!」
フレディが、目を見開いて立ち上がった。
「…ごめんね、フレディ」
「違うって!俺が聞きたいのは謝罪じゃなくて理由だよ!」
「実は…ユーグ様に呼ばれているの…」
私は嘘をついた。フレディには本当の事など話せるはずは無かった。
まさかダミアンが私の事を、姉では無く1人の女性として…好いているからだとは。そんな事を知ればフレディはショックを受けるに決まってる。だって彼は私が本当の姉だと思っているのだから…。
「な、何だよ。それ…やっぱり姉ちゃんは俺達よりもそっちを優先するのかよ…」
フレディの悲し気な言葉が胸に突き刺さって来る。
「本当にごめんなさい…それじゃ、私行くから…」
「…」
けれど、フレディは返事をしない。
「元気でね。お父さんやダミアンと仲良くしてね…」
悲しい気持ちを押さえて私はフレディに声を掛けると、戸口へ向かった。
駅までは距離があるけれども、歩いている途中で辻馬車が拾えるかもしれないだろう。
すると…。
「待ってよ、姉ちゃん」
背後で声を掛けられた。
「どうしたの?」
振り向くとフレディが上着を着こんでいる所だった。
「…駅まで送るよ」
「え?だって仕事中でしょう?」
「ちょっとくらい大丈夫だよ」
フレディは私の前を通り過ぎながら言った。
「馬車を出してくるよ」
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ガラガラガラガラ…
御者台の上に乗ったフレディは駅までの道のりは始終無口だった。私は何と声を掛ければよいのか分からず、黙って荷馬車に乗りながら最後になるかもしれない村の景色をじっと見つめた。
村はすっかり冬景色に変わり、馬車道を挟んだ木々はすっかり葉を落としていた。
途中、ポツリポツリと点在するレンガ造りの家々はどれも小さくて古い。
この村がそれだけ貧しい証拠だ。
私はこの光景を目に焼き付けておくために、じっと見つめていた―。
「ありがとう、フレディ」
駅に到着した私は荷物を降ろしてくれたフレディにお礼を言った。
「別に…礼なんて…だけど、お父さんや兄ちゃんには何て言うのさ」
「お父さんは…もう知ってるの。私が…きょう、ここを出て行く事」
「え?!そうだったのか?!それじゃ知らないのは兄ちゃんだけなの?!」
「ええ、そうよ」
頷く私にフレディは問い詰めて来る。
「何でだよ!」
「それは…」
言いかけた時―。
ボーッ…
蒸気機関車が発車を知らせる汽笛を鳴らした。
「ごめんね、フレディ。私…もう行かなくちゃ」
「あ…!姉ちゃんっ!」
背後でフレディの声が聞こえるも、それを振り切って私は汽車に乗り込み…デッキへと向かった。
「姉ちゃん!」
そこへフレディが駆け寄って来る。
「フレディ…元気でね…」
デッキの上から私はフレディに声を掛けた。
「う、うん…」
やがて汽車は大きな汽笛を鳴らして蒸気を噴き上げながらゆっくりとホームを離れていく。
フレディが大きく手を振ったので、私も手を振った。
その時―
誰かがフレディの背後から走って来た。そしてあっという間に戸惑っているフレディの脇を走り抜けると、必死になって汽車に向かって駆けて来る人物が見えた。
「姉さんっ!」
それは…ダミアンだった。
「ダ…ダミアンッ!!」
う、嘘…何でダミアンが…?
「姉さんっ!行かないでくれよっ!」
ダミアンは泣き顔で追いかけて来るも汽車はグングン速度を上げて引き離して行く。
「駄目よっ!ダミアンッ!危ないから来ちゃ駄目っ!」
私は必死で叫んだけれどもダミアンは何かを叫びつつ、走るのをやめない。
けれども汽車とダミアンの距離は増々離れてゆく。
そして…ついにダミアンの姿は見えなくなってしまった―。
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