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12-11 2人の門出 <完>
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「ル、ルペルト様…」
いきなり力強く抱きしめられて、顔が真っ赤に染まるのが自分でも分かった。
「ロザリー。実はね、君を始めて見た時からずっと気になっていたんだ。それに僕の描いた絵にあんなに興味を持ってくれたのも君が初めてだった。一緒に絵を描いていた時はとても幸せな気持ちにもなれたよ」
ルペルト様の熱を持った声が私の心臓の鼓動をますます大きくさせる。
「だから思ったんだ…。君が僕の婚約者だったらどんなにかいいのにって。それで君の名前と婚約者の名前が同じだったときは…本当に驚いたよ。でも…多分名前が同じというだけで、恐らく別人だろうって思っていた。けれど学園の名前が一致したときは…間違いないって思ったよ。余程僕が君の婚約者だと、どれほど名乗りたかったことか…」
そしてルペルト様は私から少し身体を離すと、じっと見つめてきた。
「だけど、大叔父様に言われたんだ。どうやらロザリーはこの婚約に乗り気じゃないようだって。然も賭けをしているっていうじゃないか。もしロザリーがこの学園に通っている間に結婚を約束する相手が現れたら、婚約を解消するっていう賭けを…。それで僕はいてもたってもいられなくなって、今年卒業するにも関わらず、この学園に交換留学生としてやってきたんだ。君の真意を知る為にね?」
「ルペルト様…そ、それでは私に会うために…留学してきたのですか…?」
「勿論だよ。そうでなければ…こんな上下関係が激しい学園になんか転校してこなかったよ。でも…来てよかった。だってロザリーの気持ちを確認することが出来たのだから」
ルペルト様は私の頬に右手でそっと触れてきた。
「ロザリー…もう一度聞くけど…イアソン王子とは本当に何も…無いんだよね?」
「も、勿論です!そんなことあり得ませんから!」
「良かった…」
するとルペルト様の顔が近づいてきた。
ま、まさか…。
それでも目を閉じると、私の唇にルペルト様の唇が触れてきた。
「!」
そしてそのまま強く押し付けられる。
それは、私にとってのファーストキスだった。
ルペルト様…。
心臓がますます激しく脈打ち、今にも飛び出しそうだった。
するとルペルト様の唇が私から離れていく。
「ロザリー。僕は君に学園生活は楽しいかいと尋ねたら…良く分からないと答えたよね?」
「は、はい…い、言いました…」
「でも、確かにこんな学園ではそう思うのは無理も無いよ…。そこで提案だけど、僕が卒業したら…学園をやめないかい?」
「え?!」
あまりにも思いがけない提案だった。
「こんなに貴族ばかりを優遇する学園…通う意味もないよ」
「ルペルト様…」
「結婚しよう?ロザリー。君が18歳になったら」
「!」
それは突然の申し出だった。
「ロザリー。君には…もう帰る場所が無いんだよね?だったら今日から僕の居場所が君の帰ってくる場所だよ。僕が、君の居場所になりたいんだ。駄目…かな?」
「ルペルト様…」
ルペルト様の言葉が嬉しすぎて涙が出そうになって来た。
「ロザリー…返事…聞かせて貰えるかな?」
照れたように私を見ているルペルト様。
「も、勿論…ハイです!」
するとルペルト様は嬉しそうな笑みを浮かべ…私たちは再びキスをした―。
****
そして、時は流れ…8月―。
3年生の卒業式が行われ、ルペルト様はこの学園を卒業し、私は今日付けでこの学園を退学することになった。
「いや~めでたい。まさかロザリーがこんなに早くルペルトと結婚する気になってくれたとはな…」
卒業式に出席したユーグ様が目を細めてルペルト様の隣に立つ私を見た。
「はい。まだまだ不束者ですが、『ローデン』公国に行きましたら、色々多くのことを学びたいと思っています」
「大叔父様の決めた通り、ロザリーが学園を卒業する年齢になるまでは結婚を待ちます。その間にロザリーは色々学んでくれればいいと思っています」
するとユーグ様は笑った。
「いや、ロザリーはもう充分立派だよ。考え方も大人だし、働き者だ。それに控えめで慎ましやかなところも好感が持てる。私が後50年若ければと思うくらいだよ」
「駄目ですよ、大叔父様。ロザリーは渡しませんから」
ルペルト様が私の肩を引き寄せた。
するとユーグ様は笑いながら言った。
「それにしても…イアソン王子は姿を見せないな。ルペルトの卒業式なのに姿を現さないとは」
ユーグ様が首を傾げる。
「きっと…ショックだったんですよ」
そしてルペルト様は意味ありげな目で私を見た。
「?」
一体どういう意味なのだろう。
「よし、それでは私は学園長に挨拶をしてくるのでに2人は馬車に乗っていなさい」
ユーグ様は私たちに声を掛けると行ってしまった。
「それじゃ僕たちは馬車に乗ろう?」
「はい」
****
「ロザリー。実はイアソン王子から君宛に手紙を預かっているんだ」
馬車に乗り込むとルペルト様が手紙を渡してきた。
「イアソン王子から…ですか?」
「うん、読んでごらん?」
ルペルト様に促され、私は早速開封して手紙を広げた。
『ロザリー、お前までレナートやフランシスカのように途中で退学するとは思わなかったよ。だが、おめでとう。ルペルトと幸せにな。ユーグ大公と賭けをしていることを知って、代わりに俺がお前を貰ってやろうかと思ったが結局納まるところに納まったんだな。2年後の結婚式には是非呼んでくれ。その際は俺も婚約者を伴って出席させてもらうよ』
イアソン王子らしい、そっけない手紙だった。
「何て書いてあったんだい?」
「はい、おめでとう。お幸せにと書いてありました。式には呼んで欲しいとあります」
「うん、そうだね。是非呼ぼう。他にロザリーは結婚式には誰を呼びたい?」
「そうですね…フランシスカ様とレナート様。それに父と弟のフレディを呼びたいです」
ダミアンを呼ぶのは恐らく不可能だろう。ダミアンは重度の精神疾患を患っているとの診断を受け、遠い国にある療養所に入院中なのだ。今は自分の名前すら分からないらしい。
「ダミアンのことは気にする必要は無いよ。ロザリーは何も悪くないんだから」
「ルペルト様…でも…」
するとルペルト様がキスをしてきて、私の言葉は塞がれる。
「彼は今の方が…きっと幸せなんだと思うよ」
「はい…」
療養所からの報告では今ではダミアンに大分笑顔が戻って来たらしい。私のことはもう記憶にも残されていないとのことだった。
その時…。
「待たせたな。2人とも」
馬車の扉が開かれ、ユーグ様が乗り込んできた。
「では出発しようか?2人の新しい門出を祝ってな?」
「「はい」」
私とユーグ様は笑顔で答えた。
そして馬車はゆっくりと走りだし、学園が遠くなっていく。
私はリーガル学園を振り返った。
たった1年しか在籍しなかったけれど、この学園で過ごした1年は私にとって忘れられないものとなった。
今日で私はこの学園とはお別れする。
辛いことが多い学園生活ではあったけれども、こんなに早く自分の婚約者に出会えたのは、この学園に通っていたお陰なのかもしれない。
さよなら、『リーガル学園』。
1年間、お世話になりました。
これから私は幸せになります。
ふと視線を感じて顔を上げると、そこには優しい笑みを称えたルペルト様がいる。
私もルペルト様に笑顔を向け…2人で固く手を繋ぎあった――。
<完>
いきなり力強く抱きしめられて、顔が真っ赤に染まるのが自分でも分かった。
「ロザリー。実はね、君を始めて見た時からずっと気になっていたんだ。それに僕の描いた絵にあんなに興味を持ってくれたのも君が初めてだった。一緒に絵を描いていた時はとても幸せな気持ちにもなれたよ」
ルペルト様の熱を持った声が私の心臓の鼓動をますます大きくさせる。
「だから思ったんだ…。君が僕の婚約者だったらどんなにかいいのにって。それで君の名前と婚約者の名前が同じだったときは…本当に驚いたよ。でも…多分名前が同じというだけで、恐らく別人だろうって思っていた。けれど学園の名前が一致したときは…間違いないって思ったよ。余程僕が君の婚約者だと、どれほど名乗りたかったことか…」
そしてルペルト様は私から少し身体を離すと、じっと見つめてきた。
「だけど、大叔父様に言われたんだ。どうやらロザリーはこの婚約に乗り気じゃないようだって。然も賭けをしているっていうじゃないか。もしロザリーがこの学園に通っている間に結婚を約束する相手が現れたら、婚約を解消するっていう賭けを…。それで僕はいてもたってもいられなくなって、今年卒業するにも関わらず、この学園に交換留学生としてやってきたんだ。君の真意を知る為にね?」
「ルペルト様…そ、それでは私に会うために…留学してきたのですか…?」
「勿論だよ。そうでなければ…こんな上下関係が激しい学園になんか転校してこなかったよ。でも…来てよかった。だってロザリーの気持ちを確認することが出来たのだから」
ルペルト様は私の頬に右手でそっと触れてきた。
「ロザリー…もう一度聞くけど…イアソン王子とは本当に何も…無いんだよね?」
「も、勿論です!そんなことあり得ませんから!」
「良かった…」
するとルペルト様の顔が近づいてきた。
ま、まさか…。
それでも目を閉じると、私の唇にルペルト様の唇が触れてきた。
「!」
そしてそのまま強く押し付けられる。
それは、私にとってのファーストキスだった。
ルペルト様…。
心臓がますます激しく脈打ち、今にも飛び出しそうだった。
するとルペルト様の唇が私から離れていく。
「ロザリー。僕は君に学園生活は楽しいかいと尋ねたら…良く分からないと答えたよね?」
「は、はい…い、言いました…」
「でも、確かにこんな学園ではそう思うのは無理も無いよ…。そこで提案だけど、僕が卒業したら…学園をやめないかい?」
「え?!」
あまりにも思いがけない提案だった。
「こんなに貴族ばかりを優遇する学園…通う意味もないよ」
「ルペルト様…」
「結婚しよう?ロザリー。君が18歳になったら」
「!」
それは突然の申し出だった。
「ロザリー。君には…もう帰る場所が無いんだよね?だったら今日から僕の居場所が君の帰ってくる場所だよ。僕が、君の居場所になりたいんだ。駄目…かな?」
「ルペルト様…」
ルペルト様の言葉が嬉しすぎて涙が出そうになって来た。
「ロザリー…返事…聞かせて貰えるかな?」
照れたように私を見ているルペルト様。
「も、勿論…ハイです!」
するとルペルト様は嬉しそうな笑みを浮かべ…私たちは再びキスをした―。
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そして、時は流れ…8月―。
3年生の卒業式が行われ、ルペルト様はこの学園を卒業し、私は今日付けでこの学園を退学することになった。
「いや~めでたい。まさかロザリーがこんなに早くルペルトと結婚する気になってくれたとはな…」
卒業式に出席したユーグ様が目を細めてルペルト様の隣に立つ私を見た。
「はい。まだまだ不束者ですが、『ローデン』公国に行きましたら、色々多くのことを学びたいと思っています」
「大叔父様の決めた通り、ロザリーが学園を卒業する年齢になるまでは結婚を待ちます。その間にロザリーは色々学んでくれればいいと思っています」
するとユーグ様は笑った。
「いや、ロザリーはもう充分立派だよ。考え方も大人だし、働き者だ。それに控えめで慎ましやかなところも好感が持てる。私が後50年若ければと思うくらいだよ」
「駄目ですよ、大叔父様。ロザリーは渡しませんから」
ルペルト様が私の肩を引き寄せた。
するとユーグ様は笑いながら言った。
「それにしても…イアソン王子は姿を見せないな。ルペルトの卒業式なのに姿を現さないとは」
ユーグ様が首を傾げる。
「きっと…ショックだったんですよ」
そしてルペルト様は意味ありげな目で私を見た。
「?」
一体どういう意味なのだろう。
「よし、それでは私は学園長に挨拶をしてくるのでに2人は馬車に乗っていなさい」
ユーグ様は私たちに声を掛けると行ってしまった。
「それじゃ僕たちは馬車に乗ろう?」
「はい」
****
「ロザリー。実はイアソン王子から君宛に手紙を預かっているんだ」
馬車に乗り込むとルペルト様が手紙を渡してきた。
「イアソン王子から…ですか?」
「うん、読んでごらん?」
ルペルト様に促され、私は早速開封して手紙を広げた。
『ロザリー、お前までレナートやフランシスカのように途中で退学するとは思わなかったよ。だが、おめでとう。ルペルトと幸せにな。ユーグ大公と賭けをしていることを知って、代わりに俺がお前を貰ってやろうかと思ったが結局納まるところに納まったんだな。2年後の結婚式には是非呼んでくれ。その際は俺も婚約者を伴って出席させてもらうよ』
イアソン王子らしい、そっけない手紙だった。
「何て書いてあったんだい?」
「はい、おめでとう。お幸せにと書いてありました。式には呼んで欲しいとあります」
「うん、そうだね。是非呼ぼう。他にロザリーは結婚式には誰を呼びたい?」
「そうですね…フランシスカ様とレナート様。それに父と弟のフレディを呼びたいです」
ダミアンを呼ぶのは恐らく不可能だろう。ダミアンは重度の精神疾患を患っているとの診断を受け、遠い国にある療養所に入院中なのだ。今は自分の名前すら分からないらしい。
「ダミアンのことは気にする必要は無いよ。ロザリーは何も悪くないんだから」
「ルペルト様…でも…」
するとルペルト様がキスをしてきて、私の言葉は塞がれる。
「彼は今の方が…きっと幸せなんだと思うよ」
「はい…」
療養所からの報告では今ではダミアンに大分笑顔が戻って来たらしい。私のことはもう記憶にも残されていないとのことだった。
その時…。
「待たせたな。2人とも」
馬車の扉が開かれ、ユーグ様が乗り込んできた。
「では出発しようか?2人の新しい門出を祝ってな?」
「「はい」」
私とユーグ様は笑顔で答えた。
そして馬車はゆっくりと走りだし、学園が遠くなっていく。
私はリーガル学園を振り返った。
たった1年しか在籍しなかったけれど、この学園で過ごした1年は私にとって忘れられないものとなった。
今日で私はこの学園とはお別れする。
辛いことが多い学園生活ではあったけれども、こんなに早く自分の婚約者に出会えたのは、この学園に通っていたお陰なのかもしれない。
さよなら、『リーガル学園』。
1年間、お世話になりました。
これから私は幸せになります。
ふと視線を感じて顔を上げると、そこには優しい笑みを称えたルペルト様がいる。
私もルペルト様に笑顔を向け…2人で固く手を繋ぎあった――。
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