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2章 1 父の葬儀
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「お父様……お父様……うっうっうっ……」
見送る人の殆どいない静かな教会で、弟ニコルの鳴き声が響く。
「お父様……」
棺にしがみつくように泣き崩れているニコルの肩をそっと抱き寄せながら私も父の顔を見つめる。
横たえられた父はまるで眠っているかのような穏やかな顔をしていた。
父が亡くなっていることに気づいたのは朝だった。
暖炉の火は欠かさずに燃やすように心がけていた私は、その日も5時に暖炉の様子を見に行った。
新たな薪をくべて父の様子を見に行くと、ベッドの上から父の腕がずり落ちていた。
そこで腕を上掛けの中に戻してあげようとしたとき、様子がおかしく感じた。
「お父様?」と呼んでも全く反応がない。しかも手に触れてみると氷のように冷たい。
慌てて口元に手をあててみると息をしていないことに気付いたのだ。
そこから先は大変だった。
ニコルを起こすと夜明け前にも関わらず、私は主治医の元へ走った。
30分かけて主治医の元へ駆けつけると、扉を激しく叩いて先生を起こした。
事情を説明し、2人で先生の馬車に乗り込むと我が家へ戻った。
家に戻ると、ニコルは父の側でずっと泣きながらしがみついていた。
そこで彼を父から引き離し、先生が父の状態を確認し……亡くなっていると告げられたのだ。
私が、もっと早くに父の異変に気づいていれば……いや、寝ずの看病をしていれば父は死なずにすんだかもしれない。
私は父を見殺しにしてしまったのだ――
「冷たいお嬢さんね……父親が亡くなったというのに、涙一つ流さないなんて」
「ええ、本当ね」
私が泣いていないことに、葬儀の参列者がヒソヒソ話している言葉が耳に届く。
違う、私が泣かないのは……泣きたくても泣けないからだ。
父を見殺しにしてしまった私には泣く資格など無いのだから……。
「あの姉弟はこれからどうするのだろう?」
「誰かに引き取られるのかしら?」
「噂では、かなり借金があるようだ」
「だが、姉のほうは確か19歳だ。成人年齢に達しているじゃないか」
葬儀に来てくれた人たちは、誰も父が亡くなったことを悲しんではいない。ただ、興味と好奇心の目を私とニコルに向けてくるだけだ。
思わず、唇を噛み締めた時。
「お姉様……」
ニコルが涙で濡れた顔をこちらに向けた。
「何? ニコル」
「僕たち……これからどうなるの……?」
「ニコル……」
そうだ、私が泣くことも出来ないもう一つの理由は今後の生活をどうすればいいのか頭を悩ませていたからだ。
今住んでいる家は自分の家ではあるけれども、抵当に入っている。ただ、父の病状が思わしくなく、他に行くあてもないので不動産屋が目を瞑って住まわせてくれているだけなのだ。
しかも、父が存命中の間だけ。
けれど父が亡くなった今となっては、もうあの家に住むことも出来ない。
半月以内に出ていくように言われている。
「お姉様……何故黙っているの……?」
一度唇を強く噛みしめると、私は笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、ニコル。あなたは何の心配もしなくても。だから安心して頂戴」
そっとニコルの頭を撫でる。
不躾だとは思ったけれども、リリスとクリフには父が亡くなったことと、葬儀が今日であることも伝えてある。
今はまだ教会に2人の姿は現れないけれども……きっと来てくれるはず。
そうしたら、恥をしのんで借金の申し入れをしよう。
ニコルと2人で暮らしていけるアパートメントを探し、私は今以上に働いて……借金は分割で返済させてもらう。
私は貧しくて中等部までしか通うことが出来なかったが、弟のニコルにだけは上の学校に通わせたい。
それが父の願いでもあったから。
そのとき。
「フローネ・シュゼット様」
背後で声をかけられ、振り向くと黒いスーツ姿の白髪混じりの男性が立っていた。
「あ……あなたは……?」
「はい、私はクレイマー家の執事長です。この度は大変ご愁傷様です」
「……ありがとうございます」
「実はフローネ様にリリスお嬢様から伝言があります」
「伝言……? もしかして、葬儀には来られないのですか?」
背筋に冷たいものが走る。
「はい、申し訳ございません……実は、リリス様は昨夜からお風邪を召されてしまいまい、ベッドに伏せている状態なのです」
「え? そうだったのですか?」
まさか、風邪を引いてしまっていたなんて。
「さようでございます。それで……代わりにこちらをお預かりしてまいりました」
執事長は懐から封筒をとりだし、差し出してきた。
「心ばかりのお金ではありますが……どうぞ何かに御活用下さいませ」
「! あ、ありがとうございます……ありがたく受け取らせて頂きます。まさか執事長様自らがいらして下さるなんて。本当にありがとうございます」
リリスの心遣いが嬉しかった。
「い、いえ……どうぞお気になさらないで下さい。それでは私はこれで失礼致します」
執事長は足早に去って行った。
その後、私とニコルは教会の椅子に着席し葬儀が始まるのを静かに待っていた時。
「フローネさん」
不意に声をかけられ、私は顔を上に向けた――
見送る人の殆どいない静かな教会で、弟ニコルの鳴き声が響く。
「お父様……」
棺にしがみつくように泣き崩れているニコルの肩をそっと抱き寄せながら私も父の顔を見つめる。
横たえられた父はまるで眠っているかのような穏やかな顔をしていた。
父が亡くなっていることに気づいたのは朝だった。
暖炉の火は欠かさずに燃やすように心がけていた私は、その日も5時に暖炉の様子を見に行った。
新たな薪をくべて父の様子を見に行くと、ベッドの上から父の腕がずり落ちていた。
そこで腕を上掛けの中に戻してあげようとしたとき、様子がおかしく感じた。
「お父様?」と呼んでも全く反応がない。しかも手に触れてみると氷のように冷たい。
慌てて口元に手をあててみると息をしていないことに気付いたのだ。
そこから先は大変だった。
ニコルを起こすと夜明け前にも関わらず、私は主治医の元へ走った。
30分かけて主治医の元へ駆けつけると、扉を激しく叩いて先生を起こした。
事情を説明し、2人で先生の馬車に乗り込むと我が家へ戻った。
家に戻ると、ニコルは父の側でずっと泣きながらしがみついていた。
そこで彼を父から引き離し、先生が父の状態を確認し……亡くなっていると告げられたのだ。
私が、もっと早くに父の異変に気づいていれば……いや、寝ずの看病をしていれば父は死なずにすんだかもしれない。
私は父を見殺しにしてしまったのだ――
「冷たいお嬢さんね……父親が亡くなったというのに、涙一つ流さないなんて」
「ええ、本当ね」
私が泣いていないことに、葬儀の参列者がヒソヒソ話している言葉が耳に届く。
違う、私が泣かないのは……泣きたくても泣けないからだ。
父を見殺しにしてしまった私には泣く資格など無いのだから……。
「あの姉弟はこれからどうするのだろう?」
「誰かに引き取られるのかしら?」
「噂では、かなり借金があるようだ」
「だが、姉のほうは確か19歳だ。成人年齢に達しているじゃないか」
葬儀に来てくれた人たちは、誰も父が亡くなったことを悲しんではいない。ただ、興味と好奇心の目を私とニコルに向けてくるだけだ。
思わず、唇を噛み締めた時。
「お姉様……」
ニコルが涙で濡れた顔をこちらに向けた。
「何? ニコル」
「僕たち……これからどうなるの……?」
「ニコル……」
そうだ、私が泣くことも出来ないもう一つの理由は今後の生活をどうすればいいのか頭を悩ませていたからだ。
今住んでいる家は自分の家ではあるけれども、抵当に入っている。ただ、父の病状が思わしくなく、他に行くあてもないので不動産屋が目を瞑って住まわせてくれているだけなのだ。
しかも、父が存命中の間だけ。
けれど父が亡くなった今となっては、もうあの家に住むことも出来ない。
半月以内に出ていくように言われている。
「お姉様……何故黙っているの……?」
一度唇を強く噛みしめると、私は笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、ニコル。あなたは何の心配もしなくても。だから安心して頂戴」
そっとニコルの頭を撫でる。
不躾だとは思ったけれども、リリスとクリフには父が亡くなったことと、葬儀が今日であることも伝えてある。
今はまだ教会に2人の姿は現れないけれども……きっと来てくれるはず。
そうしたら、恥をしのんで借金の申し入れをしよう。
ニコルと2人で暮らしていけるアパートメントを探し、私は今以上に働いて……借金は分割で返済させてもらう。
私は貧しくて中等部までしか通うことが出来なかったが、弟のニコルにだけは上の学校に通わせたい。
それが父の願いでもあったから。
そのとき。
「フローネ・シュゼット様」
背後で声をかけられ、振り向くと黒いスーツ姿の白髪混じりの男性が立っていた。
「あ……あなたは……?」
「はい、私はクレイマー家の執事長です。この度は大変ご愁傷様です」
「……ありがとうございます」
「実はフローネ様にリリスお嬢様から伝言があります」
「伝言……? もしかして、葬儀には来られないのですか?」
背筋に冷たいものが走る。
「はい、申し訳ございません……実は、リリス様は昨夜からお風邪を召されてしまいまい、ベッドに伏せている状態なのです」
「え? そうだったのですか?」
まさか、風邪を引いてしまっていたなんて。
「さようでございます。それで……代わりにこちらをお預かりしてまいりました」
執事長は懐から封筒をとりだし、差し出してきた。
「心ばかりのお金ではありますが……どうぞ何かに御活用下さいませ」
「! あ、ありがとうございます……ありがたく受け取らせて頂きます。まさか執事長様自らがいらして下さるなんて。本当にありがとうございます」
リリスの心遣いが嬉しかった。
「い、いえ……どうぞお気になさらないで下さい。それでは私はこれで失礼致します」
執事長は足早に去って行った。
その後、私とニコルは教会の椅子に着席し葬儀が始まるのを静かに待っていた時。
「フローネさん」
不意に声をかけられ、私は顔を上に向けた――
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