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2章 6 メイドとして
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メイド長オルガに連れて来られたのは使用人たちの詰め所だった。
20人前後のメイド達の前でオルガが声を張り上げた。
「皆、今日からこのバーデン伯爵家で新しいメイドとして働くことになった仲間だよ。きちんと仕事を教えて、一人前のメイドになれるように指導するように!」
そして次にオルガは私に声をかけてきた。
「ほら、皆に挨拶しなさい」
「は、はい。皆さん、フローネ・シュゼットと申します。これからどうぞよろしくお願いいたします」
そして周囲を見渡すと、メイドたちは好奇心に溢れた目で見つめ……中にはヒソヒソ話している声も聞こえてくる。
「聞いた? シュゼットですって」
「名字を名乗ったわよ……」
「ひょっとして貴族なのかしら……」
「そう言えば、どうやってこの伯爵家で働ける資格を得たのかしらね」
その様子から、あまり好意的な雰囲気には思えなかった。
私は、この先もずっとこのバーデン家でメイドとして働くことになるのだろうか……?
そんなことを漠然と考えていると、オルガが1人のメイドを名指しした。
「キャシー。あなたがこの新人を教育してあげなさい」
「はい、メイド長」
キャシーと呼ばれた女性は青く長い髪を後ろで一つに束ねていた。年齢は私と同年代のように思える。
「はい! それでは新人の紹介は終わりよ! みんな、持ち場に戻りなさい!」
オルガがパンパンと手を叩くと、メイドたちはそれぞれの持ち場へ散っていった。
「あなたはこっちよ。荷物を持ってついてきて頂戴」
キャシーは私の前にやってくると、手招きした。
「はい」
両手にボストンバックを持つと、キャシーは詰め所を出ていくので私も急いで後を追った。
思いボストンバッグを持ちながらキャシーの後を歩いていると、話しかけてきた。
「これから、あなたを私達使用人の寮へ案内するわ。私達メイドの起床時間は5時半。6時に先程の部屋で点呼が行われるから、絶対に遅れては駄目よ。6時半から仕事が始まって、7時半に交代で朝食。そして……」
キャシーは歩きながら、メイドのスケジュールを説明してくれるものの、内容が細かすぎてとても一回では覚えられそうになかった。
「あの……一度では覚えられないのですが……」
恐る恐る尋ねると、キャシーは立ち止まることなく答える。
「大丈夫よ、毎日同じ仕事の繰り返しなんだから3日もあれば覚えられるわよ。あなた、仕事が出来るんでしょう? 見たところ紹介状も無さそうだし……それにクリフ様自ら、私達にあなたのことを話したのだからね」
「え!? 本当ですか?」
「ええ、今から大体1週間くらい前だったかしら? クリフ様が私達メイドを集めてお話になったのよ。もうすぐ新人のメイドが来るのでよろしく頼むって」
「新人……メイド……」
その言葉がまるで針で刺されたかのように胸に突き刺さる。
やっぱり、クリフは初めから私をメイドとして雇うためにあんな台詞を口にしたのだ。
『僕の家においで』と言った言葉を、あたかも結婚の申込みだと思い込みしてしまうなんて。
自分の勘違いが、とても恥ずかしく……そして情けなかった。
元々、私とクリフトでは身分が違いすぎるというのに。
「ここが今日からあなたの使う部屋よ」
突然、キャシーが足を止めて振り返った。目の前には木の扉がある。
「ここが……部屋ですか?」
「ええ、そうよ。今、開けるわ」
キャシーが扉を開けると、そこは小さな部屋だった。
彼女は無言で部屋に入ると、無言で手招きしてくる。そこで私も部屋の中に足を踏み入れた。
真正面には窓があり、床も壁も天井も全て木製。家具は小さなベッドにクローゼット。そして小さなテーブルに椅子が備え付けてある。
「そのクローゼットは自由に使って頂戴。メイド服は毎日支給されるわ。今日はそこに吊り下げてあるメイド服を着なさい」
フックにかけられたハンガーにはキャシーが着ているメイド服と同じ物が吊り下げられている。
「部屋の外で待っているから5分で着替えて出てきて頂戴、送れないようにね」
それだけ告げると、キャシーは部屋を出て行った。
「……急いで着替えなくちゃ」
色々と聞きたいことだらけだったが、今は先に着替をして早く仕事を覚えなければ。
私をメイドとして雇用したクリフの顔に泥を塗らないためにも――
20人前後のメイド達の前でオルガが声を張り上げた。
「皆、今日からこのバーデン伯爵家で新しいメイドとして働くことになった仲間だよ。きちんと仕事を教えて、一人前のメイドになれるように指導するように!」
そして次にオルガは私に声をかけてきた。
「ほら、皆に挨拶しなさい」
「は、はい。皆さん、フローネ・シュゼットと申します。これからどうぞよろしくお願いいたします」
そして周囲を見渡すと、メイドたちは好奇心に溢れた目で見つめ……中にはヒソヒソ話している声も聞こえてくる。
「聞いた? シュゼットですって」
「名字を名乗ったわよ……」
「ひょっとして貴族なのかしら……」
「そう言えば、どうやってこの伯爵家で働ける資格を得たのかしらね」
その様子から、あまり好意的な雰囲気には思えなかった。
私は、この先もずっとこのバーデン家でメイドとして働くことになるのだろうか……?
そんなことを漠然と考えていると、オルガが1人のメイドを名指しした。
「キャシー。あなたがこの新人を教育してあげなさい」
「はい、メイド長」
キャシーと呼ばれた女性は青く長い髪を後ろで一つに束ねていた。年齢は私と同年代のように思える。
「はい! それでは新人の紹介は終わりよ! みんな、持ち場に戻りなさい!」
オルガがパンパンと手を叩くと、メイドたちはそれぞれの持ち場へ散っていった。
「あなたはこっちよ。荷物を持ってついてきて頂戴」
キャシーは私の前にやってくると、手招きした。
「はい」
両手にボストンバックを持つと、キャシーは詰め所を出ていくので私も急いで後を追った。
思いボストンバッグを持ちながらキャシーの後を歩いていると、話しかけてきた。
「これから、あなたを私達使用人の寮へ案内するわ。私達メイドの起床時間は5時半。6時に先程の部屋で点呼が行われるから、絶対に遅れては駄目よ。6時半から仕事が始まって、7時半に交代で朝食。そして……」
キャシーは歩きながら、メイドのスケジュールを説明してくれるものの、内容が細かすぎてとても一回では覚えられそうになかった。
「あの……一度では覚えられないのですが……」
恐る恐る尋ねると、キャシーは立ち止まることなく答える。
「大丈夫よ、毎日同じ仕事の繰り返しなんだから3日もあれば覚えられるわよ。あなた、仕事が出来るんでしょう? 見たところ紹介状も無さそうだし……それにクリフ様自ら、私達にあなたのことを話したのだからね」
「え!? 本当ですか?」
「ええ、今から大体1週間くらい前だったかしら? クリフ様が私達メイドを集めてお話になったのよ。もうすぐ新人のメイドが来るのでよろしく頼むって」
「新人……メイド……」
その言葉がまるで針で刺されたかのように胸に突き刺さる。
やっぱり、クリフは初めから私をメイドとして雇うためにあんな台詞を口にしたのだ。
『僕の家においで』と言った言葉を、あたかも結婚の申込みだと思い込みしてしまうなんて。
自分の勘違いが、とても恥ずかしく……そして情けなかった。
元々、私とクリフトでは身分が違いすぎるというのに。
「ここが今日からあなたの使う部屋よ」
突然、キャシーが足を止めて振り返った。目の前には木の扉がある。
「ここが……部屋ですか?」
「ええ、そうよ。今、開けるわ」
キャシーが扉を開けると、そこは小さな部屋だった。
彼女は無言で部屋に入ると、無言で手招きしてくる。そこで私も部屋の中に足を踏み入れた。
真正面には窓があり、床も壁も天井も全て木製。家具は小さなベッドにクローゼット。そして小さなテーブルに椅子が備え付けてある。
「そのクローゼットは自由に使って頂戴。メイド服は毎日支給されるわ。今日はそこに吊り下げてあるメイド服を着なさい」
フックにかけられたハンガーにはキャシーが着ているメイド服と同じ物が吊り下げられている。
「部屋の外で待っているから5分で着替えて出てきて頂戴、送れないようにね」
それだけ告げると、キャシーは部屋を出て行った。
「……急いで着替えなくちゃ」
色々と聞きたいことだらけだったが、今は先に着替をして早く仕事を覚えなければ。
私をメイドとして雇用したクリフの顔に泥を塗らないためにも――
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