お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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3章 8 リリスからの命令

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 今日は久しぶりに心が踊る、素晴らしい日だった。

この屋敷で働き始めて1年。
ようやく、弟のニコルと再会出来る日がやってきたのだ。待ち合わせ時間は午前11時、駅前の時計台の下と決めていた。

 必死の思いで働いて貯めたお金でニコルに美味しい食事をごちそうし、本を買って上げてお小遣いをあげる計画を立てている。

「ニコル、大きくなったかしら……」

数少ない外出着に着替えていると、隣の部屋からベルの音が聞こえてきた。

リリスが私を呼んでいる。
今日は休暇日だが、彼女の専属メイドは私だけ。急いで扉を開けてリリスのもとへ向かった。

「お呼びでしょうか、リリス様」

ソファに座っていたリリスはベルをテーブルに置くと、私を上から下まで見渡した。

「フローネ、どうしてメイド服を着ていないのかしら? それに随分楽しそうね」

何処か苛ついた様子でリリスが声をかけてくる。

「はい……本日は、休暇日で……弟のニコルと会う約束をしているから……です」

リリスの視線に自分が後ろめたいことをしている気分になり、目を伏せた。

「あら? 今日だったかしら? 休暇日は」

「はい、そうです。1週間前に申請済みですが……」

「それなら、今日は却下よ。別の日にしてちょうだい」

そっけない言葉に全身から血の気が引く。

「そ、そんな! 弟と会えるのは1年ぶりなんです! ようやく予定を調整して本日会う約束が出来たのです。お願いです、どうか休暇を下さい!」

必死になって頭を下げる。

「駄目よ、別の日にしなさいと言っているでしょう。今日はクリフがこの屋敷に帰ってくる日なのよ。私の専属メイドとして一緒に出迎えるのは当然のことでしょう? それなのに自分の休暇を優先すると言うの?」

「クリフ……様が……?」

クリフが帰ってくる……。だけど……
私の脳裏に、1人ポツンと時計台の下で私を待つニコルの姿が浮かぶ。

今の時刻は9時を過ぎたところ。

私のように周囲から嫌われているメイドに出してくれる馬車はない。だから駅までは歩いていくつもりだった。
そうなると、もう出なければ間に合わなくなるかもしれないのに……!

「お願いです、リリス様。私が行かなければ、弟は待ち合わせ場所にずっと待っていることになってしまいます。まだ弟は14歳の子供です。そんな辛い目に遭わせたくないんです!」

床に座り、両手を組んで懇願するとリリスはため息をついた。

「……待ち合わせの時間と場所はどこなの?」

「11時に『マリ』駅の……時計台の下……ですけど」

「そうなのね? 分かったわ」

するとリリスが笑みを浮かべた。やはり休暇を貰えるのだろうか?

「それでは……休暇を……」

「私の執事に伝え代わりに伝言をしてもらうわ。あなたは仕事で来れなくなったって。ニコルの外見は私が知っているし」

「え!? そ、そんな……!」

ニコルに会えないなんて……! ショックで目頭が熱くなる。

「何よ? あなたはこのバーデン家のメイドなのよ? クリフはいずれ、この家の当主になるの。出迎えずにどうするの? このことをクリフや彼の両親に報告すればどうなると思う? あんまりしつこいようなら、伝言にも行かせないわよ!」

「そ、それ……は……」

駄目だ……来るはずもない私をいつまでも弟に待たせるわけにはいかない。

「どうするの? 早く決めなさい」

「わ……分かりました……。休暇は取り下げます。執事の方に伝えていただけますか……?」

「ええ、いいわよ。ついでに手紙くらいなら書いて渡してあげることも出来るわよ」

手紙をニコルに……?

「ほ、本当ですか? リリス様!」

「ええ、本当よ。なら早く着替えて手紙を書いて持ってきなさい」

「分かりました、本当にありがとうございます!」

お礼を述べると、すぐに自分の部屋に戻って弟に手紙を書いた。

折角会えるはずだったのに、会えなくなってしまったことへの謝罪。近況報告。そして……。

「このお金も渡して貰えるように、頼みましょう」

引き出しから封筒を取り出した。封筒の中には私の約1ヶ月分の給料と同じだけの金額が入っている。
私が必死で貯めたお金だ。このお金で欲しいものを買ってくれれば……。


手紙を書き終えたところで、外の扉がノックされた。

「はい」

扉を開けると、リリスの執事であるクロードさんが立っていた。

「リリス様から命じられております。弟さんへのお手紙をお預かりし致しましょう」

「ありがとうございます……」

私は現金入の封筒をクロードさんに手渡した。

「はい、確かにお預かり致しました。では行ってまいります」

「よろしくお願いいたします」

クロードさんは笑みを浮かべると、去って行く。

その後姿を見送ると、私はリリスの元へ向かった――
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