お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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9 リリスに囚われて

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「リ、リリス……ど、どうしてここに……?」

身体がどうしようもなく震えている。言葉を話すのがやっとだった。

「それはね、バーデン家の別荘がソルトにあるからよ。それに来月は大きなお祭りが開かれるでしょう? クリフが私のご機嫌取りのために連れて来たのよ。でも、まさかこんなところで会えるとは思わなかったわ」

リリスは満面の笑みを浮かべながら語る。

「ご、ご機嫌取り……?」

一体どういうことなのだろう? 二人は喧嘩でもしているのだろうか?

「さ、それじゃ行きましょう。フローネ」

リリスが私の両肩に手を置いた。

「行く……? い、行くってどこに……?」

「決まっているじゃない。バーデン家の別荘よ。あなたの部屋もちゃんと用意してあるのよ? とっても素敵なお部屋をね?」

「私の部屋って…‥‥」

先程からリリスが何を言っているのか、理解出来なかった。何故私の部屋がバーデン家の別荘に用意されているというのだろう?

「何してるの? 行くわよ」

リリスが私の腕を掴んで立ち上がらせたときに、我に返った。

「い、いや! 行かないわ! だって私はもうバーデン家を追い出されたのよ!」

ここではラインハルト家の話を口にすることはできない。私のことで迷惑をかけたくはなかった。
するとリリスが耳元で囁いてきた。

「いいの? 私にそんな態度を取っても。ニコルがどうなってもいいのかしら?」

「!!」

その言葉に顔から血の気が引く。まさかニコルに……?

「お、お願い……ニコルには手を出さないで……」

震えながら懇願する。

「ええ。出さないわ。フローネが私についてきてくれるならね?」

もう逃げられない……。
リリスの背後には大柄な3人の男性達が静かに控えている。きっとバーデン家に仕える警備員だろう。
それに、今の私にはニコルを人質に取られているも同然だ。

私は一度ギュッと目をつぶり……頷いた。

「分かりました……リリス様について行きます……」

「ふふ、そうでなくちゃ。それじゃ行きましょう」

ウキウキするリリスに腕を取られて、私はついて行くしかなかった。

アデル…‥‥。アドニス様…‥‥。
勝手にいなくなるような真似をしてごめんなさい。
どうか、お元気で……。

絶望的な気持ちでリリスに手を引かれて、私は店を後にした――


****


「さ、馬車に乗って」

リリスに連れて来られたのは、町の広場に設置された馬繋場だった。目の前には真っ白な美しい馬車が止まっている。

お付きの男性が扉を開けると、中には思った通りクリフが座っていた。
クリフは一瞬、険しい目で私を睨みつけるとリリスに声をかけた。

「連れて来たんだね? リリス」

「ええ、当然よ。それより、クリフ。あなたは馬車から降りてくれる?」

え……?
リリスの冷たい言葉に私は驚いた。

「リリス、だけどそうしたら僕は……」

「そこにいる付き人達と辻馬車に乗って帰ればいいでしょう? 私はね、フローネと2人きりになりたいのよ。あなたは邪魔なの」

何処までもクリフに対して、冷たい口調のリリス。この2人の関係に違和感を覚える。

「わ、分かったよ。君の言う通りにするよ……」

ため息をついてクリフは一瞬、私を憎悪の目で睨みつけると馬車を降りた。
その目は私をバーデン家から追い出した時と同じ目だった。

クリフ……。

本当に過去の私はどうして、こんな人を好きになっていたのだろう。
クリフはリリスに言われたとおり、馬車を降りると付き人の男性達と一緒に雑踏の中に消えて行った。

「行ったわね……。それじゃ、馬車に乗りましょう。フローネ?」

クリフの姿が見えなくなると、リリスは笑顔で、私に話しかけてきた。

「え、ええ…‥‥」

今の状況に少しも考えが追い付かない。私は言われるままに頷くと馬車に乗り込んだ。

二人で向かい合わせに座って馬車が走り出すと、すぐにリリスは話しかけてきた。

「元気だった? フローネ」

「は、はい……お、かげさまで……」

何故リリスは何事も無かったかのように笑顔で話しかけてくるのだろう? てっきり勝手に私の前からいなくなるなんてと責められるかと思っていたのに。

「そう、あなたが元気そうで私は嬉しいわ。……でも、私は少しも元気では無かったけどね」

突然リリスの口調が変わる。

「リリス……?」

「フローネなら、何故私が元気じゃ無かったのか分かるわよね?」

リリスが膝の上に置いた私の手に、自分の手を重ねてくる。

「わ、分かりません……」

分かるけど、怖くて答えられない。

「分からない? 本当に分からないの?」

リリスが私の上に重ねた手に力を込め……彼女の爪が私の掌に食い込んできた。

「っ!」

思わず痛みで小さな声が漏れると、リリスが慌てたように手を離した。

「あ! ごめんなさい、フローネ。あなたが私の元気じゃなかった理由が分からないなんて言うからつい……。大丈夫? 痛くなかった?」

心配そうに尋ねてくるリリスには悪気があったようには思えない。

「はい……大丈夫です……」

返事をしながら、私はチラリと窓の外を見つめた。
一体、今どこを走っているのだろう? バーデン家の別荘はどこにあるのだろう?

落ち着かない私に気付くことも無く、リリスは言葉を続ける。

「私が元気が無かった理由は一つしかないわ。それはフローネ、あなたが私の前からいなくなってしまったからなのよ?」

リリスは私を指さし、美しい笑みを浮かべた――
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