6 / 6
薄氷裏の日常6
しおりを挟む
——3月29日(金) AM20:00
周囲の住宅地に溶け込むありきたりな二階建ての一軒家の台所にて
刻まれたじゃがいも、人参、牛肉、玉ねぎ等が浸されたカレーが中火でグツグツと煮込まれている。
「ただいま…」
そこへ譜夏が帰宅し、鼻を引くつかせる。
「おや、カレーか?」
玄関から台所兼ダイニングまでは距離はなく、その匂いが流れてくる。
その声を聞くなり、エプロン姿の零士は猛スピードで台所からお玉を片手に顔を覗かせて不自然な笑顔を作る。
「おかえり、姉さん。今カレー作ってるから食べる?」
「んん?珍しいな、どうゆう風の吹き回しだ?
いつもはさっさと一人で食べて部屋に引きこもっているだろう?」
「俺なりに反省してるんだ。
いつもお疲れな姉さんにもう少し楽になってもらいたいんだ。」
「な、なんだ?なんか気色悪いな…」
嘘は言ってはいない。
今日の一件にしても零士のために自らの幸せを犠牲にしているのかと懸念していたところだった。
実際、普段から零士も自炊はしているのだ。だが今日は別の理由があった。
「そうか、なら先に風呂入ってこようかな…?」
譜夏が家の奥の脱衣所に向かおうとするのを零士は必死に体を張ってディーフェンスしようとする。
「ねぇ、どうして邪魔するの?」
「も、もう少しでできるからさ。せっかくだから食べてからにしない?
冷めたら温め直すの大変だしさ、
あ、そうそうカレーに合う特製のお茶も用意してるんだ。
Zamanonお取り寄せの本場インド産!
疲労回復効果もあってななな~んとビタミンCも従来比の30倍!」
零士はいつになく必死に捲し立てる。
「???なぜそんな必死なんだ?」
そう、すでに高度な心理戦は始まっているのだ。
零士は何としてでも譜夏を家の風呂に行かせるのを阻止せねばならなかった。
なぜなら、今あそこには件の泥だらけの幼女が入っているからだ。
さらに着替えは古い自分のものを用意しておいたが、
汚れ物を放り込んだ乾燥機付き洗濯機もこの時間では四方や完了していないであろう。
だが、姉が早く帰宅することも零士は織り込み済みで
姉に準備しておいたカレーを食べさせているうちにすべての事を済ませてしまおうという算段だ。
名付けて鬼の居ぬ間に洗濯作戦!
姉に年端も行かぬ幼女を連れ込んでいる自体なぞ知られてはならない。
知られれば社会不適合者として「死」あるのみである。
想定外!それは譜夏がこんなにも早く帰ってくるのは零士の計算外だった。
仮に件の幼女を回収できたとしても洗濯物の方は言い逃れできないだろう。
最悪、乾燥は諦めて取り出すしか!!
この間、僅か0.1秒!零士の脳裏で思考は完結していた。
「…怪しいわね!通しなさい!」
訝しげに思った譜夏は問答無用で押し通ろうとする。
阻止しようとして腕を伸ばす零士!
予想外!それは意図せず姉の豊満な胸に触れたことである。
「あ!ちょっと!!」
「おうふっ…!」
全てがスローモーションとなりその瞬間、女体の神秘の振動を残し世界は止まった。
次の瞬間、譜夏は反射的に胸を隠し、肩を戦慄せ般若の如き形相となる。
「零士~~~~!!!!」
逆鱗に触れた零士には社会的死以前に物理的な確実な死が待ち受けていた。
「のわーーー!!!」
譜夏はその腕を掴み、見事な一本背負いを繰り出すと
零士は床に叩きつけられ、激しい衝撃音が起こる。
「縺ェ縺ォ繧医∽ス輔�髻ウ��シ�」
その音に驚き、慌ててバスタオルで身を包んだ幼女が脱衣所から飛び出してきた。
背景、父さん、母さん。そして姉さん。——ごめんなさい。
あっ、はい、なんていうか、生まれてきてごめんなさい。
全てを失った無念の涙が一筋、瞳からスゥーッと流れ落ち零士は意識を失う。
十数分後、三人は食卓に座り、うち二人は特に気まずそうに匙でカレーを突いていた。
「——で、この子どうするの?」
「最初は交番に届けようとしたさ、でも嫌がってさ、
泥だらけだし夜道に放っておくわけにもいかなくてさ。」
「それでうちに連れてきたわけ?」
「仕方ないだろ…言葉もわからないし、こっちの言葉は理解してるみたいだけど」
話題の幼女、νは心配そうに二人を見つめる。
「ともかく!ご飯食べたら交番に引き渡しにいくわ。親御さんも心配してるでしょう。
貴方もついてきなさい。」
「へいへい…ってあれ…?」
先程まで幼女がいた席には空のカレー皿だけが残っており、その姿は忽然と消えていた。
その後ろの窓は開いており、バタバタとカーテンが夜風ではためいていた。
周囲の住宅地に溶け込むありきたりな二階建ての一軒家の台所にて
刻まれたじゃがいも、人参、牛肉、玉ねぎ等が浸されたカレーが中火でグツグツと煮込まれている。
「ただいま…」
そこへ譜夏が帰宅し、鼻を引くつかせる。
「おや、カレーか?」
玄関から台所兼ダイニングまでは距離はなく、その匂いが流れてくる。
その声を聞くなり、エプロン姿の零士は猛スピードで台所からお玉を片手に顔を覗かせて不自然な笑顔を作る。
「おかえり、姉さん。今カレー作ってるから食べる?」
「んん?珍しいな、どうゆう風の吹き回しだ?
いつもはさっさと一人で食べて部屋に引きこもっているだろう?」
「俺なりに反省してるんだ。
いつもお疲れな姉さんにもう少し楽になってもらいたいんだ。」
「な、なんだ?なんか気色悪いな…」
嘘は言ってはいない。
今日の一件にしても零士のために自らの幸せを犠牲にしているのかと懸念していたところだった。
実際、普段から零士も自炊はしているのだ。だが今日は別の理由があった。
「そうか、なら先に風呂入ってこようかな…?」
譜夏が家の奥の脱衣所に向かおうとするのを零士は必死に体を張ってディーフェンスしようとする。
「ねぇ、どうして邪魔するの?」
「も、もう少しでできるからさ。せっかくだから食べてからにしない?
冷めたら温め直すの大変だしさ、
あ、そうそうカレーに合う特製のお茶も用意してるんだ。
Zamanonお取り寄せの本場インド産!
疲労回復効果もあってななな~んとビタミンCも従来比の30倍!」
零士はいつになく必死に捲し立てる。
「???なぜそんな必死なんだ?」
そう、すでに高度な心理戦は始まっているのだ。
零士は何としてでも譜夏を家の風呂に行かせるのを阻止せねばならなかった。
なぜなら、今あそこには件の泥だらけの幼女が入っているからだ。
さらに着替えは古い自分のものを用意しておいたが、
汚れ物を放り込んだ乾燥機付き洗濯機もこの時間では四方や完了していないであろう。
だが、姉が早く帰宅することも零士は織り込み済みで
姉に準備しておいたカレーを食べさせているうちにすべての事を済ませてしまおうという算段だ。
名付けて鬼の居ぬ間に洗濯作戦!
姉に年端も行かぬ幼女を連れ込んでいる自体なぞ知られてはならない。
知られれば社会不適合者として「死」あるのみである。
想定外!それは譜夏がこんなにも早く帰ってくるのは零士の計算外だった。
仮に件の幼女を回収できたとしても洗濯物の方は言い逃れできないだろう。
最悪、乾燥は諦めて取り出すしか!!
この間、僅か0.1秒!零士の脳裏で思考は完結していた。
「…怪しいわね!通しなさい!」
訝しげに思った譜夏は問答無用で押し通ろうとする。
阻止しようとして腕を伸ばす零士!
予想外!それは意図せず姉の豊満な胸に触れたことである。
「あ!ちょっと!!」
「おうふっ…!」
全てがスローモーションとなりその瞬間、女体の神秘の振動を残し世界は止まった。
次の瞬間、譜夏は反射的に胸を隠し、肩を戦慄せ般若の如き形相となる。
「零士~~~~!!!!」
逆鱗に触れた零士には社会的死以前に物理的な確実な死が待ち受けていた。
「のわーーー!!!」
譜夏はその腕を掴み、見事な一本背負いを繰り出すと
零士は床に叩きつけられ、激しい衝撃音が起こる。
「縺ェ縺ォ繧医∽ス輔�髻ウ��シ�」
その音に驚き、慌ててバスタオルで身を包んだ幼女が脱衣所から飛び出してきた。
背景、父さん、母さん。そして姉さん。——ごめんなさい。
あっ、はい、なんていうか、生まれてきてごめんなさい。
全てを失った無念の涙が一筋、瞳からスゥーッと流れ落ち零士は意識を失う。
十数分後、三人は食卓に座り、うち二人は特に気まずそうに匙でカレーを突いていた。
「——で、この子どうするの?」
「最初は交番に届けようとしたさ、でも嫌がってさ、
泥だらけだし夜道に放っておくわけにもいかなくてさ。」
「それでうちに連れてきたわけ?」
「仕方ないだろ…言葉もわからないし、こっちの言葉は理解してるみたいだけど」
話題の幼女、νは心配そうに二人を見つめる。
「ともかく!ご飯食べたら交番に引き渡しにいくわ。親御さんも心配してるでしょう。
貴方もついてきなさい。」
「へいへい…ってあれ…?」
先程まで幼女がいた席には空のカレー皿だけが残っており、その姿は忽然と消えていた。
その後ろの窓は開いており、バタバタとカーテンが夜風ではためいていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる