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グスタフ・ライツェンバーグ
しおりを挟む王族への偽証、しかも第三王子ベネディクトの婚約にまつわる件で偽りを語ったという報告を聞いた国王の怒りは大きかった。
ライツェンバーグ領に残って調査をしていたライルとビクターを呼び戻し、さらに情報を聞いた上で、侯爵を謁見の間に呼び出し、詰問したのである。
人払いをした謁見の間。
上方から見下ろす位置に置かれた玉座に座る国王の傍らには、一段下がって第三王子ベネディクトが立っている。
さらにその数段下、頭を垂れるライツェンバーグ侯爵と同じ並びに立つのは、ベネディクトの護衛騎士アロン、ライル、ビクターである。彼らは今回、証人として控えていた。
他にこの場にいるのは、宰相、国王の護衛を務める騎士団長、国王付きの侍従と記録補佐官がひとりずつ。
入室したライツェンバーグ侯爵は、いつものようにティターリエ捜索の進捗を聞かれると思っているのだろう、手にはすでにハンカチを握っていた。
そして話の始め、国王がほんの少しティターリエの誘拐事件について触れると、侯爵は大仰に声を上げ、ハンカチを目に当てて嘆き始めた。
だが、話はいつものようには進まない。
国王は、ベネディクトが護衛騎士たちを通して密かにティターリエ誘拐事件を調査させていたと話したのだ。
それを聞いて、侯爵は手からぽろりとハンカチを落とした。
そして、まったく濡れておらず、赤くもなっていない目をきりりと吊り上げ、「我が領地に断りもなく騎士を送り、勝手に調査をしていたというのですか!」と、声を張ったのだ。
国王は、「ほう」と、目を細めて侯爵を見下ろす。
「なぜ怒る? それほどにベネディクトはティターリエ嬢を深く想っていたということではないか」
国王からの問い返しに、侯爵は言葉に詰まる。
「ライツェンバーグ侯爵は前に、ベネディクトの気持ちを光栄なことだと喜んでいたであろう? そのベネディクトが、ティターリエ嬢を救いたい一心で動いたのだ。なのに何をそんなに怒ることがある?
父親であれば、嬉しがるところであろうに。私は話を聞いて、ベネディクトの健気さに涙が出たぞ」
「い、いえ、その、決してそのようなつもりでは・・・」
「では、どんなつもりで声を荒らげたのだ。まるで、調べられたら困るとでも言いたげな態度に見えたが」
「そんな、そんなことは」
「まあ、実際、調べられたら困るようなことをしていたようだがな」
「なっ、なにを」
「これを見てみろ」
国王は侍従を通して報告書の写しを侯爵に渡した。
それに目を落とした侯爵は、ぶるぶると体を震わせ始めた。そして、その震えはだんだんと大きくなっていく。
「陛下、こ、これは・・・その、あの、違うのです・・・」
「なにが違うと言うのかな? 侯爵」
これまでずっと黙っていたベネディクトが、堪らず口を開いた。
「僕の護衛騎士が懸命に調査してくれたんだ。違うと言い張るのなら、どこが違っているのか言ってほしい」
「え、ええと、それはその、そうですね・・・」
侯爵は口ごもり、暫し渡された報告書をじっと見つめた後に顔を上げた。
「ええと、そう、アンナという名前のメイドのことです。実は、屋敷で働いている使用人の中にアンナはもうひとりいるのですよ。誘拐をしたのは、そちらのアンナの方で・・・」
「ほう、国王である私に、重ねて偽りを語るか、グスタフ・ライツェンバーグ」
国王が低い声で語りかけると、侯爵はひっと口を閉ざした。
「アンナという名のメイドは、ひとりのみ。そして、誘拐が起きるより前に辞めていることは調査済みだ」
狼狽する侯爵を前に、国王は大きな溜め息を吐き、やれやれと頭を振った。
「よくもまあ、こうも嘘まみれの報告をしてくれるものだ。お前の目には、王族への偽証罪はよほど軽い罪に映っていると見える」
「な! そ、そのようなことは!」
「果たしてそうかな」
国王は、冷たい眼差しで侯爵を見下ろす。
「ここまで嘘で塗り固められると、もはやティターリエ嬢の誘拐さえ、お前の狂言ではないかと疑いたくなる」
「っ! 誘拐は本当に起きたのです! 娘はアンナというメイドに連れ去られました! 嘘ではありません!」
侯爵は躍起になって声を張り上げるが、国王の目は冷たいままだ。もちろん、ベネディクトを始めとした、その場にいる他の者たちの眼差しもも同様である。
「偽証罪に問われたお前の言葉など、もはや誰も信じぬ。だが、罪に問うからにはきっちりとした証拠が必要だ。
王国騎士団に正式な調査を行わせる。ティターリエ嬢の誘拐事件に関して、お前が偽りの報告をしていないと主張するのなら、それも今後の騎士団の調査で明らかになるだろう」
「そんな・・・」
国王の言葉に、侯爵はがっくりと膝をつく。
「・・・どうして、あんな要らない娘の為に、私がこのような目に・・・」
ぽそぼそと侯爵が呟く。
だが、その声は小さすぎて誰の耳にも届かなかった。
国王の合図で、騎士団長が動き出す。
扉の外に待機させていた騎士たちが騎士団長の指示で入室し、侯爵の周りを取り囲む。
「隠蔽の恐れがある。事実を確認するまで、侯爵を貴族牢へ入れておくように」
その後。
王都のライツェンバーグ侯爵邸で待つ夫人のもとには、ただ侯爵が投獄された事実のみが伝えられた。
夫人はショックで失神したという。
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