【完結】魅了にかかるなんて間抜けのすること、あなたがそう言いました

冬馬亮

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中編

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 その日、カーセルトマー公爵家は、喜びに包まれた。


 カーセルトマー公爵家の令息ダグラスが、彼の長年の想い人であるクリスタと結婚式を挙げたのだ。

 この結婚をもってダグラスに家督が譲られる事も決定しており、その手続きは式の後にする予定だった。


「やっと結婚できたな」

「ああ、一時は駄目かと思ったが、子どもたちの恋が実ってよかったよ」


 ダグラスの父カーセルトマー公爵とクリスタの父タスタマン公爵は、子どもたちの恋の成就を喜び、祝杯をあげた。

 2人は古くからの友人同士で、故にその子であるダグラスとクリスタも幼い頃から交流があった。

 出会った時からダグラスとクリスタは仲が良かった。2人の間に恋心が芽生えるのに、大して時間はかからなかった。


 だが、両家が婚約を考え始めた頃、王家から縁談が来た。


 ダグラスやクリスタと同年の第二王子、アルマンドとの婚約話だった。


 理由は、王宮主催の茶会でのアルマンドの一目惚れ。

 王家からの打診を無下には出来ず、クリスタとアルマンドとの婚約が成立。
 この時、ダグラスはアルマンドの側近候補に選ばれた。


 ダグラス、クリスタ、そしてアルマンドが8歳の時だった。


 アルマンドは喜び、ダグラスとクリスタは引き裂かれた初恋に密かに泣いた。




 カーセルトマー、そしてタスタマン両公爵の胸中は複雑だった。

 息子が第二王子の側近に選ばれる事は、年齢からして予想していたが、アルマンドは優秀な第一王子とは違い、学業も武術も至って平凡と評価されている。
 素直で明るく人懐こい性格は国民からは人気だが、仕える主人としては心許ない。
 将来、ダグラスはアルマンドの側近として、執務の補助で必要以上の重圧を背負うであろう事は目に見えていた。


 タスタマン公爵にとっても、娘と第二王子との婚約にさほどの旨みを感じていなかった。
 王太子の座が確実と言われる第一王子の婚約者ならば兎も角、全てにおいて平凡な第二王子と縁を結ぶ意味はあまりない。
 娘が国母になるなら初恋を引き裂く意味もあるが、アルマンドでは所詮王子妃止まり。ただ嫉妬や嫉みを他より多く受けるだけの中途半端な立場だ。
 しかも、王家に嫁ぐとなれば支払う持参金も莫大なものとなる。別に金に困っている訳ではないが、正直、望んでもいない縁談の為に支払うのは口惜しかった。


 第二王子が長子だったなら。


 第二王子が王座を望めるくらいに賢ければ。

 第二王子がクリスタを婚約者に望まなければ。

 第二王子が・・・



 沢山の『たられば』が両公爵の頭に浮かんでは消える。



 ひとり何も知らずに幸せそうな第二王子アルマンドが、ひどく憎らしく思えた。



「ダグラスは、クリスタ嬢のことが忘れられないらしい。他の婚約者を見つけるなんて、今は考えられないと言っている。まあ、幸い男の結婚適齢期は長い。あいつに諦めがつくまで気長に待つさ」

「クリスタも、今もダグラスくんの事を深く想っているようだよ。こんな事になるなら、あの日王宮の茶会を欠席させればよかった」


 既に十分な権力も財力もある両公爵家は、第二王子の妃、あるいは側近程度では王家との繋がりに益を感じなかった。


 アルマンドの心変わりを願う日々を送る中、クリスタは王子妃教育を順調に進めていった。


 ダグラスは友として側近としてアルマンドを近くで支え、クリスタは婚約者としてアルマンドを励ました。本心を綺麗に押し隠して。


 何も知らないアルマンドは、『愛するクリスタと結婚できる僕は幸せだ』と口癖のように語った。


 その言葉を聞く度、クリスタとダグラスが心の中でどんな感情を育てていったのか。アルマンドがそれを知るのは、もう少し後になってからだった。


 15歳で3人が学園に入学し、その翌年にアルマンドが男爵令嬢と出会い、やがて恋仲になり、婚約者であるクリスタを蔑ろにし始め―――


 関係改善は絶望的と見なされて、タスタマン公爵に婚約解消を願われてから。

 いや、それよりもう少し後、男爵令嬢が魅了魔法を使っていた事実が明らかになり、アルマンドにかけられた魅了が解かれ、クリスタとの再婚約を願い、断られてからだ。



「魅了にかかるなんて間抜けのすることです。そんな人とまた婚約なんて、考えるのも嫌ですわ」

「そうですよ、殿下。面白くもない冗談はよしてください」



 ―――アルマンドは、自分にとって最も身近な2人が、自分が最も愛情を持つ2人が、本当は自分を心底憎み、厭っている事を知った。


 それは、魅了にかけられて愚かな行動をした事に既に失望していたアルマンドを更なる深みへ、絶望のどん底へと突き落とすに十分だった。

 そしてアルマンドは―――












「だからね、ネリア。思い切りやっておいで。アルは確かにお馬鹿だったけど、そのせいで奴らにうまく嵌められてしまったけど、私にとっては可愛くて大事な弟だった。
 だから、お前がこれからあの家に何をしようとも王家は介入しないと約束しよう。陛下の同意も得ている。奴らに、自分がした事の、言った言葉の責任を取らせておやり」


 王太子カーデンツァーの前で跪く女性魔術師―――ネリアは、その言葉に「お任せください」と頭を垂れた。








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