【完結】君は強いひとだから

冬馬亮

文字の大きさ
25 / 58

ただただ、真っ直ぐに





「ラエラさま。あなたをずっとお慕いしていました。僕はあなたが大好きです。けれど5歳も年下の僕の想いは、当時誰からも本気にしてもらえませんでした」


 ヨルンはラエラの前に跪き、そっと手を取ると、自分の額をその手の甲に当てた。


「ラエラさまが幸せになるのなら、義理の弟でもいいと思いました。兄の補佐をする事であなたの幸せに貢献出来ればいいと。でも、兄はあなたに愛される価値を理解しなかった。
 僕では駄目でしょうか。10年前は候補にもしてもらえなかったけど、今回はテンプル伯爵に機会をもらいました。
 あと半年で僕は成人します。結婚できる年になります。ラエラさま、僕はあなたがいい。あなた以外は考えられない。ラエラさまを想う気持ちは誰にも負けていないつもりです。死んでもあなたを幸せにします。だからどうか、僕と結婚してください」


 堰を切ったように想いの丈を打ち明けると、ヨルンは口を噤んだ。

 そして、ラエラの手の甲に額を押しつけたまま、ヨルンはじっと返事を待った。それはまるで、祈りを捧げているようにも見えた。


「・・・ヨルンさま、わたくしは」


 やがてラエラが口を開いた。


「わたくしは、ずっとアッシュしか見ていなくて、ヨルンさまのお気持ちを気づけずにいて」

「はい」

「ヨルンさまを異性として意識し始めたのは、あの日、喉シロップを毒と勘違いした時が初めてでした。薄情な事に、その時の衝撃がすご過ぎて、アッシュに抱いていた怒りや悲しみ、残っていた愛情とかも全部、どこかに吹き飛んでしまいました」


 ずっと真剣な表情を浮かべていたヨルンは、何を思い出したのか、ここで初めてふっと笑った。


「それは・・・ひと芝居打った甲斐がありましたね」

「そして、自由にしていいと父に言われて働き始めて、新鮮な体験をしました。でも時々縁談は来て・・・中には失礼な人もいらっしゃいました」

「テンプル伯爵から聞きました。グスタフ・ケイシーですね。彼は今も相変わらず、元気に平騎士として働いていますよ。ああそう言えば、最近また・・大ポカしたみたいですね」


 どうやら、グスタフはまだ騎士爵をもらえていないようだ。その日を当てこんで、ラエラを妻にと言っていたのに。


「アッシュもグスタフさまも、わたくしの事を強い人だと言いました。決めつけて期待して・・・そして勝手に失望するのです。『君は強いひとだから』『強いひとだと思ってたのに』。褒め言葉で言っているのではない事くらい、わたくしにも分かります」

「ラエラさま」


 気づいた時にはもう、ヨルンは立ち上がっていた。そして、その高身長の体を折り曲げて、ラエラを抱きしめた。


「僕の中では褒め言葉ですよ」

「え?」

「ラエラさまは芯のある女性です。優しく、勤勉で、しっかりと教育を受けた賢い人で、間違った事に屈しない強い人です。そして、僕が10年前から焦がれてやまない人」


 上からかぶさるように抱きしめられているせいか、ラエラの耳元近くでヨルンの声が聞こえてくる。熱も、息づかいも、無視する事ができないくらいに鮮明で。


「ラエラさまは、強く美しいひとです。困難に屈しない、眩しいひと」


 ―――ああ。

 同じ言葉なのに、どうしてこうも違うのか。


 強さを、蔑ろにする免罪符のように捉えるのではなく。他の人を優先する言い訳に使うのでもなく。

 ヨルンはただただ真っ直ぐに、ラエラの強さを讃えてくれる。


「ヨルンさま、わたくし・・・」


 ラエラも手をヨルンの背に回し、そっと抱きしめ返した。


「ヨルンさまが18歳になった時、わたくしの隣に立っている素敵な夫は、あなたがいいと思います」

「っ、ラエラさま・・・っ」

「だからどうか、わたくしをヨルンさまの妻にしてくださいませ」


 ヨルンはぴくりと身じろいだが、ラエラは回した手にぎゅっと力をこめて、離さないようにした。

 だって、きっとラエラは今真っ赤になっている。こんな顔、恥ずかしくてヨルンには見せられないから。


 だから、ラエラはヨルンの胸元に赤くなった顔を押しつけて、見られないようにした。


 ―――それが、余計にヨルンを悶えさせているとも知らないで。















感想 156

あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

第一王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったようです

睡蓮
恋愛
姉であるオルシナと、妹のマリーシア。マリーシアは小さな時から周囲の人物を次々と味方につけ、オルシナの事を孤立させていった。マリーシアに対しては誰もがちやほやと接してくるのに、オルシナに対しては冷たい態度を取る者がほとんどで、それがこれから先も続くものと思われていた。そんな中、二人のもとに一通の手紙が届く。差出人はフォルグ第一王子であり、二人のうちのいずれかを婚約者として迎え入れるということが書かれていた…。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

私なんてもういらないということですね。ならもう消えてあげます

睡蓮
恋愛
ユフィーレに対してアプローチを行い、自らの婚約者として迎え入れたクルト伯爵。しかし彼はユフィーレのことよりも、自身の妹であるセレサの事を溺愛し、常に優先していた。そんなある日の事、セレサはありもしないいじめをでっちあげ、クルトに泣きつく。それを本気にしたクルトはユフィーレの事を一方的に婚約破棄することとしてしまう。その時だけはセレサからの愛情を感じる伯爵だったものの、その後すぐに伯爵はある理由から大きな後悔をすることとなるのだった…。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――