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分岐点、どっちに?
しおりを挟む夫妻が初めて掘った穴は、すぐにアッシュが運んで来た生ゴミで一杯になった。
次は三人がそれぞれシャベルを持ち、1日かけて前よりも大きく深い穴を掘った。それが満杯になればまた一つ、もう一つと増えていく。
切り拓いた土地の真ん中で、数回不要な物を燃やす事もしたが、何年もかけて溜め込んだゴミの量は相当で、今はまだほんの少し床が見える場所ができてきたくらいだ。
森の中に住んでいる事を考えれば、一度に大量に燃やす事は難しい。それでも少しずつ少しずつ、家の中で見える面積が増えていった。
長らく中断していた開拓作業は、前ロンド伯爵により再開された。
と言っても、以前のように誰か他に木を切り倒す者がいる訳ではない。前伯爵本人が、斧を手に木を切り枝を切り、根を掘り起こし、土を均した。
夫人は、家の裏手に小さな畑を作ると言い出し、試行錯誤しながら土を耕した。
言うは易く行うは難しで、1日頑張っても耕せた土地はわずかだったが、腰を痛めて動けなくなるまでの10日間で、小さな畑ができた。当然ながら、腰が治るまで種も苗も植えられなかったけれど。
家の壁や床が見える面積が増えるにつれ、アッシュの表情も少しずつ変わっていく。もちろん良い方へだ。それまでずっと自分の事ばかりだったのが、段々と父と一緒に木を切ったり、母と一緒に畑に苗を植えたりするようになった。
最初に決めた、それぞれの家の中に入らない入れさせないの取り決めはずっと有効で、互いに手伝ったり物をやり取りする事はあっても、決して家の中には足を踏み入れない。
それに関して、アッシュが文句を言う事はもうない。そして、彼の家の中はゆっくりと不要な物が消えていった。
長年の汚れが染み付いた衣服はなかなか綺麗にならず、そちらもまた燃やす事にした。
新しいシャツやズボンを3着ずつ用意してもらい、毎日きちんと着替えて洗濯する。もちろん体も清潔にするようになった。
伸ばし放題だった髪は、夫人が切った。かなりザンバラだったが、元の顔だちが悪くないせいか、それなりに見えた。
生ゴミを埋めた後の穴から、思いがけず何かの野菜の芽が出て驚いたり。
灰が土の栄養になると聞いて思い切りバラまいたら、なぜかまいた本人が灰まみれになったり。
前ロンド伯爵夫妻の肌は日に焼け、手の皮は厚くなり、ガサガサになって。
前伯爵が切り拓く土地はかなりのスローペースで広がっていき、夫人が裏に作った畑は多少の収穫が楽しめるようになった。
夫妻が森の家に移動して1年とひと月が経った。
順調だと思っていた。
このまま、何事もなく森の家での暮らしが続くと思っていた。
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