【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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ジュース君の謎

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その頃、ユスターシュは執務室からヘレナたちが式の打ち合わせをしている婚礼の間へと移動している所だった。


心が読める能力は裁定者限定、それ故にユスターシュにしか出来ない仕事は多い。

けれどそれを全部していたら体が保たない、だからある程度は部下や他部署に割り振っている。それでもやはり方針を決めるのはユスターシュの役目で。


特に今は、ユスターシュとヘレナの身辺が騒がしい事もあり、そっち方面の仕事でユスターシュは遅れての合流となったのである・・・が。


「おお、ジュース! ジュースではないか!」


斜め後ろ方向から、思わずコップを差し出したくなる様な名前が聞こえてきた。


その声には聞き覚えがあったものの、その名前には覚えがない。

必然、ユスターシュが足を止めず、歩き続ける。


「ジュース! ジュースってば!」


ジュース君とやら。早く返事をしてやってくれ。


心の中でユスターシュは呟いた。

王城の執務棟の廊下は、人の往来も少なくない。彼の声は、なかなかに目立っているのだ。


「おい、ジュース! どうした、僕の声が聞こえないのか?」


だが、どうやらジュース君はその男の声が聞こえないらしい、或いはわざと無視しているのか。 


まぁ、この男と喧嘩中という可能性もある。それを本人が都合よく忘れているとか。

まったく。早く仲直りしたまえ。


歩きながら、ユスターシュがそんな事を考えていた時だ。


背後で「うわぁっ」と驚く声がした。もちろん同じ男の声だ。


けっこうな至近距離。1、2メートルしか離れてなさそうな。


「なぜ僕に剣を向ける? 僕はジュースの友人だぞ? 何度呼んでも気がつかないから側に行こうとしただけじゃないか」


「・・・」


さて、行き交う人たちも護衛たちもいる中、ユスターシュは自分の能力の及ぶ範囲を限りなく小さく設定している。

前にヘレナが力の及ぶ範囲について聞いた事があったが、実は調整可能なのだ。もちろん訓練後に得られるオプションなので、使いこなせる様になるのに八年かかったが。


何故その話が出たかというと、たった今、最小限に留めていた力が発動したからだ。


そう、その声の主が呼びかけているジュース君なる人物の映像が、ユスターシュの脳内に流れ込んで来たから。


目元を覆い隠す程の茶髪のもさもさ頭に、厚っこいメガネ。
何故か右手にはクッキー、左手にはチューリップの様な花を一輪持っている男。


・・・


花とクッキーはともかく、入ってきたイメージが、どうも知っている人物と合致する。

ユスターシュの変装時の姿、ジュストにそっくりなのだ。


では、先ほどから「ジュース、ジュース」と連呼されていたのは。


そろり、とユスターシュは振り返る。


「おお、ジュース! やっとこっちを見たな。僕だぞ!」


・・・ジュースじゃないし、ジュストだし。

いや、そもそも今はジュストでもないし。


ユスターシュの護衛に剣を向けられながら、ぶんぶんと手を振る男、ロクタンがそこにいた。


・・・いや、君がそこにいたのは、さっきから気づいていたけどね。


なぜユスターシュ自分に気づいたのか、そちらの方が不思議だった。


何故なら、今のユスターシュは変装していない。つまりは、本来の裁定者の姿なのだ。


メガネもかけていないし、顔も出しているし、髪型も髪の色も、目の色も違う。


そしてユスターシュは、これまでずっと彼とは「ジュスト」として会っていた。「ユスターシュ」の姿を見て、「ジュスト」と認識する筈がないのだ。


「・・・」


・・・そう言えば。

前にヘレナが町に買い物に出かけた時、念のためにカツラをかぶせて簡単な変装をさせたのに、この男は気がついて声をかけてきたと言っていたっけ?


今も彼の頭の中では、ユスターシュの姿を「ジュスト」として捉えている。
つまり、ジュストの正体がユスターシュだと知っている訳ではないのだ。


変装が通用しない?


・・・もしかして、この男はただのトンチンカンではなかったという事か?


「・・・」

「なぁ、ジュース。今日は僕とお茶を飲まないのか? せっかく来てやったのに」

「・・・私の名前は、ジュースではないよ?」

「む? そうだったか? あれ? チュロスだったかな」


首を傾げ、ロクタンはへへと笑う。


「・・・」


彼は、未だに目の前の人物が恋のライバル、ユスターシュだとは気づいてない様子。


どうやら、解決しなければならない謎が一つ増えた様だ。


そう、ジュース君の謎である。



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