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それを知るのは
しおりを挟む『それでは誓いの口づけを』
祭司のその言葉の後、ユスターシュの端正な顔がゆっくりとヘレナの上に落ちてくる。
それに応えて顎を上げ、唇を軽く突き出した、ちょっと間抜けなキス待ち顔のヘレナ。
そんな彼女の心の中は、やんややんやのお祭り状態だ。
ああ、昨日お預けになった初めてのちゅーが遂に・・・
なんて感動していると、くるっと場面が切り替わる。
式は終わり、ヘレナは広間に集まった参列者たちに手を振っていた。
祝福の声に応えるヘレナに、隣に立つユスターシュがそっと顔を寄せ、耳元で囁く。
『あのね、あそこ。あの人にも手を振って笑いかけてあげて?』
言われて視線を向けたのは、プルフトス王国からの使節団がいるところ。
けれどユスターシュが言ったのは使節団全体に対してではなく、その中にいる特定の個人。
しかもその人物は代表者の王太子ですらなく、一番後ろで控えめに立っているひとりの男性だった。
・・・どうしてかしら?
そうは思ったものの、他の王族の妻たちとは違い、政治的な役割を求められる事がないヘレナは、ここで深く考える必要はないだろうと判断し、素直ににっこり笑って手を振った。
それに合わせて、ユスターシュもまたその男性に向かって手を振る。
たぶん、傍から見たら、使節団に向かって挨拶しただけに見えただろう。
けれど、プルフトス国の王太子は何かに気づいた様だ。
僅かに顔を後ろに向け、2人の視線が向けられた先を確認すると、微妙な表情を浮かべ、軽く頭を下げた。
それに続いて、その一番後ろの男の人も。
・・・結局あれは誰だったのかな。
もしかして、国交が途絶えるきっかけになった大公家の関係者だったりして?
―――ヘレナは勘がいいね―――
・・・え?
ユスターシュの声が聞こえた気がした。
あれ? 今は式の最中で・・・
え? でも、披露宴まで無事に終わった後、お部屋に戻ってユスさまと2人でワインを飲んだ気が・・・
―――まだ朝も早いよ、ヘレナ。もう少し休むといい―――
・・・ええと、もう少し・・・?
―――そう、もう少し、ね。ほら、お休み―――
・・・は~い、お休みな、さ・・・
「・・・」
開きかけた瞼が再び閉じられ、すうすうという寝息だけが室内に聞こえる。
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だが、ワインの力に抗えず、あっさりと眠ってしまったヘレナのお陰(?)で、2人はまだ本当の意味では夫婦になっていない。
故に、ベッド上の彼らの間には微妙に距離が開いている。
ユスターシュはベッドに横になったまま、左手で頬杖をつき、妻の無防備な寝顔を眺めていた。
「・・・今夜は覚悟してね、ヘレナ」
そんなどこか不穏な言葉は、当然ヘレナの耳に届いていない。
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「・・・うん。なら、今夜から四日くらいなら・・・」
むふふな期待が膨れ上がり、ユスターシュはベッドの上で顔を赤くする。
口元に手を当て、ひとりニヤつくユスターシュの野望を、今も隣ですやすやと眠るヘレナは知らない。
たぶん知るのは、今夜。
しかも、本番直前になってだろう。
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