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願いを込めて

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「師匠、顔色が悪いですよ。ずっとサーヤさんに付きっきりで通心つうしんしてたし、さっきもあんなに大量の魔力を送ってましたし・・・もう魔力、ほとんど残ってないんじゃないですか?」

気が遠くなりかけたところで、クルテルの心配そうな声が耳に入り、はっと我に返る。

「・・・大丈夫だ」
「大丈夫な筈ないでしょう。今、サーヤさんに声が送れるのは師匠しかいないんですよ。魔力不足は治癒では治せないんですから、無茶は止めてください」
「・・・そういうお前だって、禄に寝てないだろうが」
「僕は別にいいんですよ。もし倒れたって、何の影響もありませんから」
「馬鹿を言うな」

ここでようやくアユールは、サーヤの額から頭を離して起き上がる。
そして、咎めるような視線をクルテルに送った。

「影響あるに決まってるだろ。あいつが戻ってきた時にお前が倒れてたら、泣かれちまうだろうが」

クルテルは、はっと眼を見開くと、少しの間考えてから、申し訳なさそうに俯いた。

「すみません。・・・でも、それは師匠だって同じですよ」
「だから分かってるって」

ぽん、とクルテルの頭に手を乗せて、髪の毛をわしゃわしゃとかきまぜる。
そして、にっと歯を見せて笑ってみせた。

「心配するな。ちゃんと考えてるから」

不思議そうに見上げるクルテルに、もう一度、安心させるように笑いかける。

「叔父貴から魔力を分けてもらえるように頼んであるんだよ」
「・・・魔力譲渡、ですか?」
「正解。まぁ、お前のいう通り、このままじゃ、俺もそろそろヤバいからな」

話しながらカーマインのもとに向かおうと、扉に向かって歩き出したアユールの手を、クルテルはぐっと引っ張った。

「うん? なんだ、クルテル?」
「・・・て下さい」
「え?」

よく聞こうとして少し頭を屈めたところに、クルテルがもう一度声を上げる。

「僕の魔力ももらって下さい。大した助けにならないかもしれませんが、僕もサーヤさんのために何かしたいんです」
「クルテル・・・」
「ぼ、僕も! 僕の魔力も貰ってください!」

勢いよくドアを開けて、サイラスが駆け込んで来る。

「立ち聞きしてすみません! でも、僕もサーヤさんが心配なんです! 何か助けになりたいんです! だけど、僕はまだ、魔法は習い始めたばかりだから・・・。だから・・・」
「サイラス、お前・・・」
「僕の魔力は結構あるって、前にアユールさんが言ってくれましたよね? ないよりはマシだと思うんです。お願いします。僕からも魔力を受け取ってください。そしてサーヤさんを助けてあげてください」

縋るような眼でアユールを見つめ懇願するサイラスの姿に、アユールは、はっと何かに気づいたような表情を浮かべたが、思い直したように、ただ「ありがとう」と言った。



◇◇◇



この後、どうするんだろ。

足元の鎖を見ながら、ぼんやりと考えた。

暫くアユールさんの声が途絶えてしまって、また声が届かなくなったのかと不安になったけど。
その後すぐに、また声が聞こえてきた。

意識は相変わらず、時々ふわっとするけれど。

今となっては、どっちの状態がいいのかもよく分からない。

「サーヤ、石は手に持ってるな?」
「うん、持ってるよ」
「よし、そしたら鎖に手を当ててくれ。ああ、それから月光石は絶対に離すなよ。今はその石で、俺とお前が繫がっている状態だからな」
「・・・うん、わかった」

しゃがみ込んで足元の鎖にそっと触れる。

変なの。
空気の流れでゆらゆら形が変わるような不安定なものなのに、こうして手を置くことが出来るなんて。

「今からまた魔力を注ぎ込むから、そっちで受け取ってくれ。終わったら、鎖に手を置いたまま、俺が言う言葉を口にするんだ」
「うん」
「いくぞ」

その言葉が聞こえてすぐに、さっきみたいに石を握った掌が温かくなっていく。

じわじわと熱がどんどん高くなって。
はっきりと感じられる程の力が、体に流れ込んでくる。

すごい。
さっきとは比べものにならないくらいの大きな大きな力。

「サーヤ」

うん。
ありがとう。
待っててね。
今、行くから。

鎖に置いた手に意識を集中する。

教わった通りにやれば大丈夫。
そうだよね?

「・・・『解。夢の守り主よ、我を解放せよ』」

言葉と同時に掌から光が溢れだす。
鎖が粉々に砕けて空気に溶ける。

胸の奥にあった力が弱くなっていく。

そして。
それと同時に、意識が少しずつ遠のいて。

ああ、やっと。
やっと、あなたに逢える。

私は意識を手離しながら微笑んだ。
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