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第1話 前世の記憶
アイナ・スターリー伯爵令嬢の前世、瞳はゲーム制作の苛酷な日常に埋もれていた。デスクの前で何時間も過ごし、キャラクターの線を引くたび、疲労が積み重なる。『聖女の恋と魔王の影』という乙女ゲームで、悪役令嬢レオーナの家族設定を担当した時、上司坂本の言葉が重くのしかかった。
「もっと深みを出せ。肖像画の人物たちに魂を吹き込め!」
やっている仕事は、ゲームの中のヒロインと対決する公爵令嬢の取り巻きをしている、悪役令嬢一派みたいな令嬢の、実家のワンシーン。貴族家ならではの歴代の祖先の肖像画が飾られている広間の光景だ。
広間の中に、祖先スターリー伯爵家一家が並んで描かれている肖像画があるのだ。上司坂本は、その肖像画の祖先達、一人一人にまでちゃんと細かい設定をつけろと言った。
「そんなのゲーム本編にどれだけ関係するんですか?
取り巻きの悪役令嬢とよく似た祖先を描くだけではダメなんですか?」
上司坂本に何度か交渉を試みたけど、交渉する時間よりさっさと決めてしまった方が残業が少なくて済むと途中で気がついてしまった。
瞳はため息をつきながら、名前、性格、関係性を細かく記した。
髪の色、瞳の色、名前、年齢、悪役令嬢の祖父、祖母、曽祖母、曽祖父、高祖父、高祖母の名前とか、本編に全く関係ないんだけどな、と思いながらも、作り始めたら段々楽しくなってきた。
取り巻きの伯爵令嬢レオーナ・スターリーは、父方の祖母に似ているという理由で母から避けられていた。
その祖母すらまだ産まれていない頃の肖像画。令嬢の祖母の母がまだ少女の頃だ。
祖母の母は祖母に似ていて、後に、取り巻きの悪役令嬢となるレオーナも、纏っている雰囲気からして良く似ているのだった。
あの作業は、ただの給料を得るための仕事でしかなかったのに。
今となっては運命の糸のように絡みつく。
アイナは目覚めた瞬間、異世界の空気が肺を満たした。柔らかなシーツの感触、遠くから聞こえる鳥のさえずり。鏡に映るのは、幼い少女の姿――伯爵令嬢アイナ・スターリー。最初はパニックが心を蝕んだ。
「は?これは……夢? それとも、私って死んだの? ええ? ええええ!?」
寸前まで深夜残業をしていた記憶しかない。それが、今や鳥の囀りと朝日だ。訳がわからない!
恐怖が胸を締め付け、息が浅くなる。しかし、屋敷の長い廊下を歩き、家族の肖像画を目にした時、すべてが氷のように固まった。昨年父の誕生日記念に描かれた家族の肖像画。その中央にすっと背筋を伸ばして立つ姉マリナの肖像。鋭い瞳、引き締まった唇は、ゲーム本編の悪役令嬢の取り巻きの悪役令嬢レオーナ・スターリーのそれと重なる。
アイナの姉マリナは家族の太陽であり、嵐でもあった。気が強く、苛烈で、父の決定にさえ口を挟むほど。瞳は設定を思い出した。レオーナの母は、マリナの孫娘であった義母を苦手とし、その影響でレオーナを冷遇する。
妹や兄は王都で両親と暮らすのに、レオーナだけ領地に置き去り。王子の婚約者候補として期待されながら、公爵令嬢に取って代わられ、取り巻きに落ちぶれる。そして、卒業パーティーでの断罪。ヒロインの聖女――男爵令嬢への虐めに加担した罪で、家が取り潰され、国外追放。レオーナの絶望的な叫びが、ゲームのBGMとともに脳裏に蘇る
「いやいやいや、お姉さまが取り巻きの悪役令嬢の曽祖母って……? それってモブ……ですらないじゃん! ご先祖様じゃん」
それでもアイナの心臓が激しく鳴り響く。見覚えがある肖像画。と言うか、ほぼ前世の瞳が描いたものだ。原画を描いて、他のスタッフがゲーム映像にしたのだから。そんな絵を見間違うはずはない。と言うことは、今目の前の状況は、ゲームの世界だということだ。
「この世界は……ゲームの世界だ。私の作った設定が、現実になっているってことなの……? いや、一部の設定だけだったら、まだ良いけど……。あのゲームが、今のこの世界……?」
呆然と立ち尽くすしかなかった。
「もっと深みを出せ。肖像画の人物たちに魂を吹き込め!」
やっている仕事は、ゲームの中のヒロインと対決する公爵令嬢の取り巻きをしている、悪役令嬢一派みたいな令嬢の、実家のワンシーン。貴族家ならではの歴代の祖先の肖像画が飾られている広間の光景だ。
広間の中に、祖先スターリー伯爵家一家が並んで描かれている肖像画があるのだ。上司坂本は、その肖像画の祖先達、一人一人にまでちゃんと細かい設定をつけろと言った。
「そんなのゲーム本編にどれだけ関係するんですか?
取り巻きの悪役令嬢とよく似た祖先を描くだけではダメなんですか?」
上司坂本に何度か交渉を試みたけど、交渉する時間よりさっさと決めてしまった方が残業が少なくて済むと途中で気がついてしまった。
瞳はため息をつきながら、名前、性格、関係性を細かく記した。
髪の色、瞳の色、名前、年齢、悪役令嬢の祖父、祖母、曽祖母、曽祖父、高祖父、高祖母の名前とか、本編に全く関係ないんだけどな、と思いながらも、作り始めたら段々楽しくなってきた。
取り巻きの伯爵令嬢レオーナ・スターリーは、父方の祖母に似ているという理由で母から避けられていた。
その祖母すらまだ産まれていない頃の肖像画。令嬢の祖母の母がまだ少女の頃だ。
祖母の母は祖母に似ていて、後に、取り巻きの悪役令嬢となるレオーナも、纏っている雰囲気からして良く似ているのだった。
あの作業は、ただの給料を得るための仕事でしかなかったのに。
今となっては運命の糸のように絡みつく。
アイナは目覚めた瞬間、異世界の空気が肺を満たした。柔らかなシーツの感触、遠くから聞こえる鳥のさえずり。鏡に映るのは、幼い少女の姿――伯爵令嬢アイナ・スターリー。最初はパニックが心を蝕んだ。
「は?これは……夢? それとも、私って死んだの? ええ? ええええ!?」
寸前まで深夜残業をしていた記憶しかない。それが、今や鳥の囀りと朝日だ。訳がわからない!
恐怖が胸を締め付け、息が浅くなる。しかし、屋敷の長い廊下を歩き、家族の肖像画を目にした時、すべてが氷のように固まった。昨年父の誕生日記念に描かれた家族の肖像画。その中央にすっと背筋を伸ばして立つ姉マリナの肖像。鋭い瞳、引き締まった唇は、ゲーム本編の悪役令嬢の取り巻きの悪役令嬢レオーナ・スターリーのそれと重なる。
アイナの姉マリナは家族の太陽であり、嵐でもあった。気が強く、苛烈で、父の決定にさえ口を挟むほど。瞳は設定を思い出した。レオーナの母は、マリナの孫娘であった義母を苦手とし、その影響でレオーナを冷遇する。
妹や兄は王都で両親と暮らすのに、レオーナだけ領地に置き去り。王子の婚約者候補として期待されながら、公爵令嬢に取って代わられ、取り巻きに落ちぶれる。そして、卒業パーティーでの断罪。ヒロインの聖女――男爵令嬢への虐めに加担した罪で、家が取り潰され、国外追放。レオーナの絶望的な叫びが、ゲームのBGMとともに脳裏に蘇る
「いやいやいや、お姉さまが取り巻きの悪役令嬢の曽祖母って……? それってモブ……ですらないじゃん! ご先祖様じゃん」
それでもアイナの心臓が激しく鳴り響く。見覚えがある肖像画。と言うか、ほぼ前世の瞳が描いたものだ。原画を描いて、他のスタッフがゲーム映像にしたのだから。そんな絵を見間違うはずはない。と言うことは、今目の前の状況は、ゲームの世界だということだ。
「この世界は……ゲームの世界だ。私の作った設定が、現実になっているってことなの……? いや、一部の設定だけだったら、まだ良いけど……。あのゲームが、今のこの世界……?」
呆然と立ち尽くすしかなかった。
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