異世界に召喚されたオレだが、可哀そうだからゴブリンを殺せない

たけるん

文字の大きさ
22 / 90

悪ふざけ

しおりを挟む
「――おやおや、これはまた随分と楽しそうですねぇ」



 ナオキ達のやり取りに割って入るように男の声がした。聞き覚えのあるその声に全員が一斉に顔を向けた。



この人は初日に会った人だ。確か名前は……



「スティルトンさん」



 ナオキが思い出すより早く八京が男の名前を言った。

 スティルトン――ナオキが召喚されて初日に八京や清太郎に絡んできた男だ。

 スティルトンの後ろには前回同様二人の取り巻きを従えている。



「英雄様に私の名前を覚えていただけるなんて光栄です。私、今回の任務で副官を務めることになりましたので、八京様にご挨拶を申し上げに参りました」



 スティルトンは八京に向けて頭を下げた。



「そんな、頭を上げてください。挨拶なんて……本来なら僕たちが副官のスティルトンさんの元へ向かわなければならないのに、申し訳ありません」

「そんな滅相もない。私は副官なれど、アナタ様に比べたらまだまだです。そんな八京様が直々に赴くなど恐れ多いこと」

「辞めてくださいよ。僕なんてまだまだですから、それよりスティルトンさん。今回の訓練、アナタ達の協力も必要になってきますのでよろしくお願いします」



 今度は八京がスティルトンに頭を下げた。



「それはもちろんですよ。今回の訓練は今後を左右する人材育成の一環ですからね。あの野蛮人のような輩になられてはかないません。八京様におかれましても我々貴族への接し方などの教育は特に怠らないようにしっかりお願いしますよ」

「はい。肝に銘じます」

「それにしてもよぉスティルトン様。いくらリスタって言ってもゴブリン一匹倒せずにビビってる奴も要るんだぜ。こいつ等、ホントに役に立つのかよ」



 スティルトンの後ろで今まで黙っていた男がしゃべりだした。

 背は八京くらいでガッシリした体格の男だ。男は下品な笑を浮かべている。

 自分の事だとスグに分かり、ナオキはカーっと顔が熱を帯びていくのを感じた。



「あぁ……確かにそんな者もいましたねぇ。それは……アナタのことですか?」



 ナオキの方を向きスティルトンは尋ねた。



「あの……はい。そうです」



 ナオキは俯きながら拳を強く握った。スティルトン達がナオキを見下しているのが分かる。



「そうですか……どうやらアナタにはこの世界は向かないようですね。ならどうですか? いっそのこと、どこかの貴族の召使いにでもなっては。何なら私が口を利いてあげても構いませんが?」



 あまりにも突拍子もない提案にナオキは言葉が出なかった。八京たちも同じなのだろう、少しの間が開いた。



「……プッ。そりゃいいっすね! リスタの召使い、きっとどこの貴族も珍しがって取り合いですよ。いや~、それなら是非ウチに欲しいですな。なぁロックフォール、お前も欲しいだろう?」



 男は嬉しそうに隣の男へ話をふった。



「………………」



 しかし隣の男からは返事は無かった。



「チッ、相変わらずダンマリかよ。シケてんなぁ」



 つまらなそうに男は唾を吐き捨てて言った。



「どうでしょう? 魔物を殺さなくても良いのですよ? 悪く無い条件ではないと思いますがねぇ?」



 スティルトンは尚も勧めてくる。そんなスティルトンに対しナオキは何も喋れずにいた。スティルトンの目が笑っていなかったからだ。

 その凍りのように冷たい視線を向けられて何も言い返せなかった。



「冗談も程々にしてください。彼はまだこの世界に来て間もないんです。そんなことを言われたらナオキ君も戸惑ってしまいます」



 八京がフォローに入ってくれた。

 しかしスティルトンは構わず。



「冗談? 英雄様。私は冗談は言わないのですが……」



 手を顎にあてながらスティルトンは言った。つまり彼は冗談では無く本心で言っていることになる。



「仮に冗談では無かったとしてもその話は受けられませんよ! 彼は僕の教え子です。僕が責任をもって、彼をこの世界で活躍できる人間にして見せます」



 力のこもった八京の言葉にナオキは涙が出そうになった。ここに明日香やルカがいなかったら泣いていただろう。



「ほう? この少年に一体どのような理由があって八京様はそこまで期待をされるのですか?」



 スティルトンの目がより一層細くなり視線が八京を射抜く。



「彼の目です」

「目?」

「はい。確かにナオキ君は魔物を殺すことに抵抗があります。ですがそれは臆病から来るものではなく、彼が優しすぎるからです。今はまだその優しさから魔物を殺められずにいますが、時間をかけて少しずつこの世界のことを理解していけば、きっと僕以上の存在になれると信じています」

「英雄八京以上の存在? それはまた随分と大きく出ましたね。そんな存在になるのなら我々としても大変価値のあるものです。ですが『時間をかけて少しずつ』なんて悠長なことは言ってられませんよ。我が国は魔物だけでなく他国とも渡り合わなくてはなりませんからね。可及的速やかに成果が期待できなければ、何のためにアナタ達リスターターがいるのか分からないではありませんか」

「それはそちらの都合であって僕たちには関係がない! 僕たちは、何にも関係のない世界にいきなり召喚されて魔物と戦っている。少しはこっちの気持ちを汲んでくれてもいいんじゃないですか!」



 普段の八京からは想像が出来なかったが、珍しく八京が熱くなっている。こんな八京は初めてだ。



「ふ~。八京様ともあろうお方がまだそんなことをおっしゃっているのですか。アナタ達リスターターは我々のコマに過ぎないんですよ。それはアナタ様が一番わかってらっしゃるはずでしょう? 我々に代わって様々な脅威と戦う。その一点のみが重要であってリスターターの気持ちなんて取るに足りない問題なんですよ」



 この眼だ――スティルトンの冷たい眼は、ナオキ達リスターターを人間として見ているものではない。いいところ、飼っている犬を見ているようなものだ。八京に対して敬語を使っているが、それは出来の良い犬に対して使っている言葉のようなものなのだろう。スティルトンの眼がそれを物語っている。



「ふ……ふざける――」

「八京、そこまでだ」



 怒りに震える八京が声を出したその瞬間――八京の肩に手を置く男が現れた。整った顔立ちに青髪の髪が印象的だ。八京の知り合いか……



誰だこの人



「――ジュダさん」

「これは隊長。一体いかがなさいました?」



この人が隊長? ってことはスティルトンの上官――



「スティルトンいい加減にしろ! リスターターに対してそのような態度は見逃せないぞ」

「これは申し訳ありません。私としたことが少々熱くなってしまったようです。八京様。先ほどのご無礼、深くお詫びいたします」



 先ほどとは打って変わってスティルトンの態度も、その冷たい瞳も柔らかいモノになり、八京に深く頭を下げた。



「い、いえ……僕の方こそムキになってしまいました。申し訳ありません」



 併せて八京もスティルトンへ頭を下げた。それを確認したジュダは満足気に笑みを浮かべた。



「よし、ではこの話は終わりだ。スティルトン。後方へ行って遅れてる者がいないか確認をしてきてくれ」

「はい、承知いたしました。ゾーラ。ロックフォール行きますよ。それでは八京様方失礼いたします」



 そう言ってスティルトンは馬の向きを変えて後方へ向かった。それに習ってロックフォールと呼ばれた男も後に続いた。だが、ゾーラと呼ばれた男はナオキへ近づいてきた。



「おい、ニイチャン。俺の召使いになる気になったらいつでも言ってきな。アトそこの嬢ちゃん達もだ。何なら俺の妾にして可愛がってやるからよ。いつでも言ってきな」



 ゾーラは下卑た笑いを浮かべながら明日香たちにも話を振った。



「何馬鹿なこと言ってんのよ! 私たちがそんなのになるわけないじゃない!! いくら貴族でもふざけたこと言ってると叩き斬るわよ!」



 明日香は槍を手にし、ゾーラに反抗した。



「おぉぉ怖い怖い。だが気の強い女は嫌いじゃねぇ。調教のし甲斐があるってもんだ」



 ゾーラは向けられた槍を握り顔を明日香に近づけて言い放った。相変わらずの気持ちの悪い笑みを浮かべている。



「ゾーラ。いつまで遊んでいるのですか。行きますよ」



 少し離れたところからスティルトンの声が聞こえる。それに反応したゾーラは「チッ!」

と一度舌打ちをした後方向を変えた。



「オメーらまたな、訓練は数日あるんだ。気が変わったら言ってくれや!」



 そう言ってゾーラはスティルトンの元へ向かっていった。



「誰が気が変わるかっての! あーもー! あーゆーヤツあり得ないんだけど!」



 中指を立ててゾーラへ向けたまま明日香が怒鳴った。相当頭に来ている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...