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対魔法戦

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     ――ゾーラの手のひらからこぶし大の火の玉がナオキの顔面目掛けて飛び出した。



 反射的にナオキは火の玉を躱したが前髪が焼けた。髪の焼ける独特な匂いがナオキの鼻を刺激した。



ッ!?



 本物の攻撃魔法……それもナオキに向けられたもの。あまりにも突然な出来事に頭の中が真っ白になる。



「ゾーラ、人間相手に攻撃魔法はご法度だ! 俺たちまで罰を受けることになる」



 ルイスの叫びにナオキは我に返った。



 攻撃魔法……考えてみれば兵士なんだ、魔法が使えてもおかしくない。コイツは今キレてる。またやってくるかもしれない



「ウルセェ! そんなことどうだっていい。今はコイツをどうするかだ! それよりお前たちも魔法を使え! 幸いなことに俺たち以外に誰もいねぇ。黙ってればバレやしねぇ!」

「う……」



 ルイスとモブ男は顔を見合わせている。魔法を使うことを躊躇っているようだ。



「さっさとやれ! でないと俺がお前たちにぶっ放すぞ!」



「……ニイチャン、悪く思うなよ」

「そうだ。元はと言えばニイチャンが悪いんだ。諦めてくれ」



 ルイスとモブ男は口々に言った。ナオキが悪い。だから魔法を使う。ゾーラ怖さにとんだ言い訳を言ってくれるもんだ。



「ロックアロー!」

「アクアスラッシュ!」



 二人は手をナオキへ向け、各々魔法を叫んだ。ルイスの手からは先の尖った岩が放たれ、モブ男の手からは水の刃がナオキ目掛けて飛び出した。



 ロックアローを剣で受け流し、身体を捻りアクアスラッシュを躱したが、アクアスラッシュの水先が腕を掠め、後からわずかに血が滴った。



「ま……マジかよ……」



 ナオキの顔が凍り付く。ゾーラの魔法だけでも驚いたのに、他の二人もナオキへ同様に魔法を放ってきたのだ。



「どうだ、驚いたか。本来許可なく魔法を使うことは禁止なんだがニイチャンは特別だ。存分に味合わせてやる」



 ナオキの表情に満足しながら笑顔でゾーラは言った。



「さぁ、今度は3つ同時だ、躱せるかな? ファイヤーボール!」

「ロックアロー」

「アクアスラッシュ」



 三人が同時にナオキへ向かって魔法を放った。



「く……」



 ナオキはバックステップでなんとかすべての魔法を躱すことができた。



「やるな! だが、まだだ! ファイヤーボール」



 今度はバックステップの先へゾーラがファイヤーボールを放った。ナオキはステップを切り返し、ファイヤーボールを躱した。



「アクアスラッシュ」



 ナオキの躱した先へモブ男の魔法がナオキへ襲い掛かる。咄嗟にナオキは後ろへ倒れこみアクアスラッシュを躱した。



「ロックアロー」



 今度は倒れたナオキ目掛けてルイスがロックアローを放った。ナオキは横に転がりながらロックアローを躱した。



「ニイチャンすげぇな。全部躱しやがった。腐ってもリスタってとこか」

「ま、まだまだ躱せる。それに別にオレは腐ってないし……」



 ウソだ。三人の魔法は的確にナオキを狙ってくる。魔法の速度も速く、先ほどの攻撃も躱すのが精一杯だった。これが何度も繰り出されたらいつか攻撃を受けてしまう。



「じゃあどれだけ躱せるか試してみるか。ファイヤーボール」



 再びゾーラはファイヤーボールを放った。



「ロックアロー」



 ナオキは横へ躱したが、そこへルイスのロックアローが飛んでくる。それをナオキは剣で叩き落とした。



「アクアスラッシュ」

「ファイヤーボール」



 剣を振ったところへゾーラとモブ男が魔法を放った。ナオキはジャンプをしてそれらを躱した。



「ロックアロー!」



 飛び上がったところをルイスの魔法がナオキを襲ったがナオキは再びそれを剣で薙ぎ払った。



「アクアスラッシュ」



 ナオキが着地する瞬間を狙って今度はモブ男が魔法を放った。



「うっ……」



 ナオキは剣を地面に突き刺し着地のタイミングをずらした。アクアスラッシュはナオキが着地したであろう足元へ目掛けて飛んでいき、ナオキに当たることは無かった。



「す、すげぇ……」

「あ、アレも躱すのか……」



 ルイスとモブ男が驚きの声を漏らす。



「まるで曲芸だな。ニイチャン、そっちのほうが向いてるぜ」



 強がっているが、ゾーラの笑っている顔が引きつっている。



「ハァハァ……そ、それはどうも……」



 だがナオキはナオキでギリギリだった。襲い掛かる魔法に集中して躱す。初めて見た攻撃に神経をすり減らしていた。



躱すだけじゃダメだ……こっちから攻めて何とかしないと……でも攻撃が早くて躱すので精いっぱいだ。どうしたら……



「アクアスラッシュ!」



 今後のこともあり、焦り始めたナオキへモブ男が攻撃を始めた。



「ファイヤーボール」

「ロックアロー」



 モブ男の攻撃を合図にゾーラとルイスも魔法を繰り出す。

 ナオキはギリギリのところで、すべての魔法を躱し続けた。

 そんな中、ナオキはあることに気付いた。



……もしかしたらいけるかもしれない……でもやるならチャンスは1度きりだ



 ナオキは覚悟を決めた。そして、早くこの場を切り抜けなければレイもベルも『エンド』だ。



「ちっ、チョロチョロと動き回りやがって……」



 ことごとく魔法を躱され、ゾーラは苛立っていた。



「そりゃ一度でも当たったら終わりですからね。こっちも命懸けなんですよ」



 だが、息も切れ切れで身体を動かすのがしんどかった。



「そうかい。じゃあ大人しく魔法を受けちまいなよ! ファイヤーボール」



 再びナオキ目掛けてゾーラは魔法を放った。



――来た……ここからだ――



 ナオキは今まで同様、ファイヤーボールを躱した。



「ロックアロー!」



 すかさずルイスの魔法がナオキを襲った。だがしかし、ナオキはそれもひらりと躱す。



「アクアスラッシュ」



 そこへタイミングを見計らったモブ男が間髪入れずに魔法を叩きこんだ。ナオキはこれも身体を捻り、躱した。その時だった――



グラッ



 ナオキは身体を捻った後、よろめき、その場に座り込んでしまった。



「くっ……ヤバい……」



 スグにナオキは立ち上がろうと膝を立てるが力が入らず再び座り込んでしまった。



「チャンスだ! お前たち、放て!」



 このチャンスを逃すまいとゾーラは声を上げた。



「喰らえ。ファイヤーボーォルゥ!」

「ロックアロー!!」

「アクアスラッシュ!」



 3人同時に魔法が放たれ、ナオキを襲った。



「クソ……」



 ナオキは座ったまま剣を構え、守りの体制に入った。



「ハッハァ! 無理だ! そのまま喰らいな!」



 直撃を確信したのか、ゾーラは嬉しそうに声を上げた。そんな中、ナオキは直撃を避けようと必死に後ろへ身体を引きずった。



「無駄無駄ぁ! さっさと死んじまえ!」



 3つの魔法がナオキの目前まで迫っていた。次の瞬間――



 バァン!!



 ナオキが居た場所で3つの魔法がぶつかり合い、爆発が起きた。



「んな!?」

「何だ!?」

「どうなったんだ?」



 ゾーラたちは突然のことに驚き狼狽えた。

 そんな爆風の中、ナオキはゾーラたち目掛けて飛び込んだ。

 飛び込んだ先にルイスがいた。ルイスがナオキを認識する前にルイスの顔面に拳を繰り出した。



ゴッ!!



 無防備なルイスはまともにパンチを受け、派手に吹っ飛んだ。

 続いてナオキはモブ男へ駆け寄った。反射的にモブは顔を守る体制になったが、そこに攻撃は来なかった。



ドフッ!



 代わりに受けたのはミゾオチだ。ナオキの強烈な膝蹴りがモブ男に突き刺さり、その苦しさのあまりモブ男は膝から崩れ、前のめりに倒れた。



「おい! どうなったんだ!?」



 爆煙が落ち着かず、視界が遮られたゾーラは腰が引けて怯えていた。

 ナオキはゾーラがいた場所へ剣を大きくスイングした。勿論、切り殺さないように刃先を立てて衝撃だけが伝わるようにした。



バチン!!



 その剣は見事ゾーラの耳元へヒットし、ゾーラは倒れた。

 暫くすると、煙は落ち着き、視界が開けた。



 ソコにはナオキ一人が立ち、他の3人は倒れていた。ゾーラは意識があるが、ルイスとモブに意識は無かった。



「ち、チクショウ……こんなはずじゃ……」



 ゾーラは悔しさを滲ませながら呻くように言葉を漏らした。



「正直かなりヤバかった。でもアナタ達の戦い方が分かったから何とか出来たんです」



 呼吸を整えながらナオキは言った。



「戦い方!?」



 ゾーラは疑問をそのまま返した。敗因が理解できないのだ。



「先ず1つ。魔法の名前を必ず言っていた。八京さんたちは名前を唱えなくても魔法を出せてたからもしかしたらって思ったけど、こっちの人たちは魔法を唱えないと発動出来ないんですかね?」

「……くっ……」

「2つ目は。三人とも連続して2回までしか魔法を放っていない。これも何かの制限ですか? それ以上は連続して放たなかった」

「……」

「3つ目。3人とも何故か魔法を放つだけで、武器での攻撃をしてこなくなった。これは自信が無かったんで罠かもしれないとも思ったけど、賭けてみることにしました。そしたらビンゴ! やっぱり誰も武器では攻撃をしてこなかった」

「……仲間が魔法を使ってるのに、そう易々と武器で切り込めるかよ。もし当たったら只じゃ済まねぇんだ。それにお前らと違って俺たちは魔法を唱えねぇと魔法を使えねぇし、そもそも連続して放てねぇ。いいとこ2発が限度だ。それ以上は余程の使い手じゃねぇと出来ねぇんだよ」



 悔しそうにゾーラは言った。



なるほど、やっぱりこっちの人間とリスタは能力が全然違うんだ……ってオレは魔法を使えないからこっちの人間以下なんだけどね……



 自虐を交えながらもリスタとの違いが理解できたことは収穫だった。こっちの人間との戦い方が分かったことはデカい。



「チッ、ホントに気に入らねぇヤツだ。次は容赦しねぇからな」

「次って……」



 ゾーラの執念深さにナオキは背筋がざわついた。本当にこのままゾーラを生かしていいのか改めて考えていた。



「まぁいい。もう十分に時間は経ったからな。お前の仲間ももうジュラさんたちにやられてるだろうよ」

「あっ!」



 ゾーラたちとの会話に集中しすぎて本来の目的をすっかり忘れていた。急がなくては。ナオキは踵を返して走り出した。



「ハッ。ざまぁみろ……」



 ゾーラが捨て台詞を吐いた瞬間、ナオキは立ち止まり、ゾーラの方へ走った。

「何だ? 今頃謝ったっ――」



 言い終わる前にナオキはゾーラの顔面にパンチを喰らわせ、ゾーラを気絶させた。そして再びレイの元へ走り出した。



もう恨まれてるんだからこれくらいいいだろ



 今回の件で、ナオキは何かが吹っ切れた。
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