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激戦の終戦

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      ――次の瞬間、カーマインの炎が八京を包んだ、だが、八京が焼かれる直前、ありったけの魔力を開放し、八京は水壁を作った。

当然、並みの水魔法ならスグに蒸発して無くなっただろう。だが、八京は全力で魔法を出し続けた。



「ナニ!? 馬鹿な!!」



 暴炎を放ったカーマインは驚愕した。だが、更に威力を上げ、八京に炎を放った。

 八京の作り出した水壁は炎に接触した瞬間から気化したが、八京は構わず水壁を作り続けた。と、同時八京は後退し、自分と水壁の隙間に、八京が作りえる最も強固な土壁を作り、カーマインを覆うようなアーチ状に生成した。



「くっ……このまま焼き殺されていればいいモノを。粘りおって……」



 尚も炎と水壁は均衡を保っていたが、土壁の中では蒸発しきれない熱水が溜まっていた。



 そんな時、カーマインが何かに反応した。それはほんの僅かなもので、壁に阻まれた八京からは認識できないほどだった。



 ――次の瞬間、超高温の炎に接し急激に気化しきれない熱水が勢いよく弾け出し、けたたましい爆音とともに爆発を起こした。



 水蒸気爆発



 その威力で、八京の作った土壁は吹っ飛んだ。八京や周りの兵士たちは、爆発に巻き込まれたが、土壁の効果で威力を激減したことで、大小のダメージは負ったが、何とか命を落とすものはいなかった。

 そして、カーマインはと言えば、水蒸気爆発をモロに受けていた。いかに伝説級のドラゴンとはいえ、無事で済むはずか無いだろう。

 倒れた八京は片膝立ちになり、カーマインの状況を確認しようと試みるが、力が入らず、前のめりに倒れ込んだ。もはや魔力を使い果たし、体力も残っていない。



ハハハ……国の英雄が情けない……



 自嘲気味に笑いながら、顔だけを何とか持ち上げ、カーマインの方向を見た。そして、八京は驚愕した。

 そこには残った翼がボロボロになり、全身に重度の火傷を負い、所々皮膚が爛れただれ、一部の皮膚は無くなり骨が見えながらも爆発に耐えたカーマインがソコにはいた。



「そ、そんな……」



 驚きを隠せない八京はそれ以上言葉が出なかった。



「………………グウゥ……貴様……まさかまだそんな力が残ってたか……だがもう限界のようだな……」



 苦痛に耐え、絞り出すようにカーマインは言った。



「そ、それはお互い様でしょ……ソッチもあまり無事とは言えなそうだけど……」

「な、なんのこれしき。貴様を葬るくらいは容易にできる……」



 ズルズルと身体を引きずるようにカーマインは八京に近づいてくる。

だが八京はそれに反応するほどの体力は残っていない。身体を動かそうとするが、力が思うように入らない。そんな八京を目の前にしてカーマインは立ち止まった。



「……貴様、一度ならず二度までもワイを追い詰めたこと。称賛に値する」

「それは……どうも……」

「だが、それも終わりだ。せめて苦しまずに葬ってやる」



 ぎこちないながらも爛れた右腕を天に振り上げそこから八京目掛けて振り下ろした。



「さらばだ」



 空を割く音を聴きながら八京は死を受け入れ、目を閉じた



 ……だが数秒待ってもその時は訪れなかった。



「八京さん、大丈夫ですか!?」



 八京が目を開けると、さっきまでいたカーマインの姿はそこには無く、代わりにナオキがいた。



「ナオキ……君?」

「すいません。オレ、魔力の止め方が分からなくって……もっと早くにアイツを止めたかったんだけど、結果八京さんがこんなになるまでになって……本当にすいません」



 申し訳なさそうにするナオキの右手には秘龍石が握られている。カーマインは再び秘龍石に戻ったということか。



「そうか……ナオキ君が止めてくれたんだね。ありがとう」

「ありがとうなんてそんな……それより早く治療をしないと、ベルさん! 八京さんに回復魔法を!」



 ベルに向けて手を振り、ナオキは回復を求めた。最早周りの兵士たちは八京とカーマインの戦闘の影響でほとんどが飛ばされている。ナオキ達を止める者はいない。

 そんな中、ベルは怪訝な顔をして隣にいるレイと何やら話している。おそらく人間であり、捕らえられた自分に対して何もしなかった八京への回復に難色を示しているのだろう。

 しかし、レイに説得されたのか、渋々と言った様子でこちらへ向かってきた。



「言っておきますが、私はアナタたちを許してませんから。兄さま、それに助けて頂いたナオキさんがおっしゃるから仕方なく、仕方なくです! 勘違いしないでください」



 素っ気なく言い放ち、ベルは八京の目の前にしゃがんだ。



「あぁ。わかってるよ。それでも言わせてほしい。すまなかった、そしてありがとう」

「………………」



 八京の言葉には反応せず、ベルは回復魔法を始めた。すると、見る見るうちに八京の傷が癒えていく。



凄い……涼音さんと遜色ないレベルだ。剣士の兄といい、この兄妹はとんでもないな……



 ベルの魔法に感心していると、途中でベルは魔法を止めた。



「どうしたんです? まだ傷は全部治ってないですよ?」



 ナオキが不満げにベルに言った。



「この方を回復して差し上げるのはここまでです。それでも十分動けるでしょう」



 そう言い放ち、ベルはレイの方へ走って行った。



「そ、そんな……」

「いや、もう十分だよ。少しでも回復してもらえたんだ、感謝しないと」



 痛みが残る身体を起こし、ヨロヨロと立ち上がりながら八京はナオキに言った。すかさずナオキが八京を抱き抱える。



「でも……」



 それでもナオキは不満気だった。



「本当に大丈夫だよ。それより、ナオキ君があそこまで魔力を出せるなんて正直驚いたよ。君の潜在能力は計り知れないね」

「あれはたまたまというか……それにドラゴンを出したのはいいけど全然言うこと聞かなかったし。結果、何人も兵士の人たちが亡くなったり怪我を負ったから……」



 ナオキの表情が沈んでいる。



「ソコは元を辿れば人間側に問題があるんだから、亡くなった兵士たちには申し訳ないけど、自業自得な面もある。そんなに気にしないで」



 ナオキの背中を優しく撫でながらナオキを気遣った。



「はい……」



 それでもナオキの表情が晴れることはなかった。



まったく……君はどこまでも優しいんだな……



「……八京さん……」



 おもむろにナオキが八京に話を振った。



「なんだい?」

「あの……まだオレたちを止めますか?」



 なるほど。まだ全快では無いとはいえ、身体が動くようになったのだナオキが心配するのも無理はない。だが……



「いや、もう止めないよ。本来なら僕はここで倒れていたんだ。完全にこっちが敗北して更に僕を回復してくれた人たちを止められるワケないだろう」

「そ、そうですか。よかった」



 幾分ナオキの顔が晴れたように見えた。

 ジュダ達は納得をしないかもしれないが、八京にはもはやナオキ達を止める気は無かった。



「あの……それでですね、オレはこれから――」

「――ナオキ後ろだ!」



 唐突にレイの声が響いた。八京とナオキが同時に振り向いた。ソコには剣を振り下ろそうとしているジュダの姿があった。
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