20年越しの後始末

水月 潮

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ミシェルの独白⑦

 一日、また一日と月日が瞬く間に過ぎ、キャロルは臨月を迎える。

 ミシェルとフレデリックは白い結婚、また、セルジュともこの時点ではまだ健全な交際なので懐妊する訳もなく、正妃より先に側妃が懐妊するという事態になった。

 もうすぐフレデリックの待望の第一子が生まれるということで、どことなく王宮内はそわそわとした雰囲気である。


 ミシェルは自分と年齢の近い侯爵夫人に招待された茶会で、正妃より側妃に先に子が生まれそうなことをあからさまに面白がっている夫人達の相手をすることになり、うんざりしていた。

 茶会に参加するのも王太子妃としては大切な仕事の一つなので、日時的な都合がつかない場合を除いて参加している。



 ミシェルはその茶会で嫌味を言われた時のことを思い出す。


「ミシェル王太子妃殿下よりキャロル側妃殿下の方が先にご出産することになるなんて。国王から愛されていないのかしら?」

「女は子を生んでこそ一人前ですわ。このまま子が出来ないままだと正妃と側妃の立場が入れ替わったり、国王陛下から離縁を申し渡されるかもしれませんわね?」

 二人の言葉に端を発し、くすくす笑いが広がる。

 先に発言した方は茶会の主催者の侯爵夫人だ。

「まぁ、あなたがそれを仰いますのね、サンチェス侯爵夫人。私、知っていましてよ? あなたのご主人がローズ・ガーデンに足繫く通って若い娼婦に入れ上げていることを。あなたの方こそご主人に愛されていないのではなくて?」


 ミシェルは茶会に招待された時、参加者の情報はしっかり調べた上で参加する。

 何か言われた時に相手に言われっぱなしなんてあり得ないことだ。

 調べた情報を以てして逆に相手をやり込める。

 それが出来なければ、この人にはどんなことを言っても言い返されないと侮られる。


 ミシェルの話に出てきたローズ・ガーデンは王都の花街の一角にある娼館である。

 この娼館は裕福な貴族専用の娼館で、高級娼館の部類に入る。

 ローズ・ガーデンは高級娼館だけあって、どの娼婦を指名しても一晩金貨100枚以上は確実で、指名率の高い人気娼婦を指名すれば金貨500枚程度が相場だ。

 因みに金貨100枚あれば、およそメイド4~5人分の月給を賄える。


 サンチェス侯爵が気に入っている娼婦は人気娼婦なので、当然、通えば通う程散財することになる。

 娼婦には惜しみなく貢ぐのに、妻には娼婦よりも金をかけない。

 金だけが愛情の程度を図る全てとは言えないが、娼婦に入れ上げている夫の妻というものは嘲笑のネタにされやすい。
 
 ミシェルに言い返され、茶会の参加者に夫の醜聞を暴露されたサンチェス侯爵夫人は怒りの表情を浮かべこそすれ、もう反論する余地はない。


「それに、ペロン伯爵夫人。あなたもですわ。ペロン伯爵家に嫁いでもう5年も経っているのに子はいない。私の心配をするよりもご自身の心配をすべきでは? 5年経つのに一向に子が出来る気配がないから、姑の前・ペロン伯爵夫人があなたのご主人にそろそろあなたとは離縁して新しい嫁と再婚するよう勧めていらっしゃるようですわね。ご自身がそんな状況なのに似た状況の他人に言うなんて。もしかしたら先人からの助言かしら? 気づかなくて申し訳ありませんでしたわ」


 ミシェルは申し訳ないとは全く思っていない口調で返す。

 ペロン伯爵夫人はサンチェス侯爵夫人と親しく、今回の茶会では二人が率先してミシェルを笑い者にしようとしていた。

 しかし、いくらミシェルを嘲笑う目的で発言したとは言え、自分も子がいないくせに”子が生まれなければ離縁されるかも”なんて言うのは愚策にも程がある。

 あるいはミシェルがペロン伯爵夫人のことをろくに調べもせず、のこのこ茶会に参加したと侮り、絶対に自分のことは指摘されないと高を括っていたからかもしれない。

 もし、ミシェルを侮っていたとしたら、今回の茶会では印象を覆すことに成功したと言える。


 結局、ペロン伯爵夫人もミシェルに言い返すことなど出来ず、屈辱に顔を歪ませ、手に持っていた扇子をギリギリと握りしめるしか出来なかった。

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