薬草の姫君

香山もも

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ため息

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 どうしてこんなことになったのか。
 ライトは何度めかわからないため息をつく。目の前にいるのは、彼の家で一番大きなお皿で、食べ物にありつく少女の姿だった。
 いや、食事といった可愛らしいものではない。あるだけ全部かきこむ様子は、なんというか危機迫るものがある。よほど腹が減っていたのか、動きが止まることがなかった。
「――おかわり」
「……もう、それで最後だ」
 再び息をつき、ライトは台所を見る。食料棚はほぼ空で、あとは非常用の乾物だ。食べられないことはないが、時間がかかる。つまり今出せるものは、全部出した。いや、譲ったのだ。取られた、と言ってもいいかもしれない。
「――おかわりっ」
 少女はお皿を差し出した。ずずいっと、ライトへ向ける。
「いやいやいや、ないって言ってるだろ。っていうか全部今おまえが食べたの。食べつくしたの」
 その皿をおし返そうとするライト。自分のものなのに、何をやっているのかわからなくなる。
「――ケチっ」
 そう言って頬をふくらませる姿は、なんとも愛らしく見えた。
 少女は、容姿だけは良かったのだ。
 そのせいでさっきもそれで、ほだされたのだ。 ライトは首を振って、自分自身に言い聞かす。
 自分を犠牲にしてまで、人を助けるべきではない。そんなことばかりやっていると、いざという時、力が発揮できなくなる。ここ数年で、それはイヤというほど学んだ。
 少女はしばらくして、息を吐き出すと、イスから降りた。あたりを見まわすように、うろうろし始める。
「おい、食いモンなら、もうないぞ」
 クギを刺すように伝えても、少女には聞こえていないようだ。奥の部屋まで歩いていく。
 本当に、なんて食い意地だ。
 あきれたようにライトは後を追うと、少女はふと、足を止める。
「……ねえ」
 少女はふり返った。
 そしてライトの目を、まっすぐに見る。
「あなた、薬師なの?」
 茶色の瞳は透きとおっていて、そう、例えるならば琥珀のようだった。
「ああ……まあ、一応、な」
 ライトは歯切れの悪い返事をする。
 それから、奥の部屋にある、棚に目をやった。
 そこにはたくさんのビンが並んでいる。
 すべて、ライトの仕事道具ーー彼が作ったものだ。
「ふうん」
 少女は同じようにビンを見る。そしてもう一度、ライトを見た。
 にんまり、笑う。
「――決めたわ。あたし、ここに住む」
 その言葉に、ライトは目を丸くする。
「――はあ?」
 ようやく出たのが、それだった。
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