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用意された部屋は、客間のようだった。
六畳一間で、小さな机がある。すでに布団が敷いてあり、あたしはよろけながらも、横になった。
「はあ……疲れた」
仰向けになって、息をつくあたしをよそに、彼はそっと扉を閉める。
「それはこっちの台詞ですよ」
こちらを向いた彼は、腕を組んであたしを見た。
「あなたが何か余計なことを言うんじゃないかって、ぼくも久しぶりに焦りました」
彼も息をついて、まあ、あの場は切り抜けられたんでよかったですけど、と付け足す。
「何よ、その態度」
あたしは一気に起きあがって、まくしたてるように言った。
「っていうか、何がどうなってるの? なんであたしとあんたが姉弟ってことになってんのよ」
納得いかなかった。というよりも、なぜその必要があるのか、わからなかったのだ。
「それは今から説明します。まず先にこれを」
布団の前に正座して、袖から何か出す。
あたしの携帯だった。
今着ているものと、ちょうど色が一緒だ。引っかかっていたのはきっと、この携帯だったのだ。
「あの時落ちてたんで、拾っておいたんです」
受け取りながら、電源を入れてみる。やっぱり付かない。
「車の中で渡してくれてもよかったのに」
「そうすると、他の人に見られる可能性があったんで」
「何がまずいの?」
多分、壊れてしまっている。仮にもし使える状態になったとしても、ロックをかけてあるので、簡単に情報が漏れることもないはずだ。
「……できるだけ、歴史は変えることは避けたいので」
「は?」
あたしは首を傾げた。彼はもう一度、息をつく。
「穂乃香さん、落ちついて、よく聞いてくださいね。ここは多分、信州のN県です」
「……え?」
さっきから、こんな返事ばかりだ。
「え、だ、なんでN県? うちからどれだけ離れてると思ってるのよ」
勘違いじゃないの? と口にしそうになった。けれど次の言葉で、更に血の気が引いた。
「それだけじゃありません。今、何年だと思いますか?」
「今って……1999年でしょう」
ちなみにあたしはまだ十七歳だ。十月でようやく十八になる。
口にしたところで、あるものが目に入った。
カレンダーだ。
あたしはそれを見て、これ以上ないくらい、目を開く。
「なによこれ、どういうこと?」
6月というのは合っている。問題は年数だった。
――1979年
計算にまちがいがなければ、二十年前、ということになる。
「本当に、そうなの?」
「……ぼくが調べた限りでは」
最初に気がついたのは、車の中だったそうだ。運転席のほうに、時計とカレンダーがあった。それで違和感を覚えたという。
携帯は一度脱衣所に隠し、お風呂から速攻上がって袖に入れ、先に葵さんに会った。そして話をしたという。
「ここがどこなのか、っていうのと、それとなく今日がいつなのかっていうのも交えるようにして」
「え、ねえ、もしかしてみんなであたしをからかってない?」
「……そんなことして、だれが得するっていうんですか?」
それもそうだ。そしてあたしは、あることに気がついた。
「もしかしてだから、姉弟ってことにしたの?」
蓮君は軽く頷いた。あたしの名前は進路希望調査に書いてあったので、覚えていたという。
「信州の山奥じゃ、きっと二十年後も関わりないでしょうし。別の名前っていうのも返って混乱すると思ったんで」
とは言いつつも、なんとなく顔が曇っている。何か気になることがあるのかもしれない。
そしてあたしも、気になることがあった。
「……仮にもし、ここが二十年前の信州だとして、あたしたち、どうやって帰ったらいいの?」
なぜここに来たのか、なんていうのはどうでもいい。こうなったらもう、できるだけ早く帰りたい。
「……さあ」
「っていうか、蓮君はなんで、そんなに落ちついていられるのよ」
どうにもならないことかもしれない。でもなんていうか、もうちょっとあわててほしい、というか。小学生のくせにって思う。
「たぶんですけど、ぼくの分まで穂乃香さんが取り乱してくれてるからじゃないですか?」
その様子を見てると、逆に冷静になってくるという。なんだか微妙な話だ。
「とにかく、ジタバタしてもしょうがないんで、うまくやり過ごすことだけ考えましょう」
「う、うん。まあ……」
まだちょっと、信じられない。しかもこういった御屋敷だと、なじみがなさすぎて、違和感があるかどうかすら、わからない。
「ここにいれば、食事も寝るところもあるわけですから」
彼が言うには、あのままあそこにいるほうが、大変だったという。
確かに、そうだ。雨の中、お腹も空いて寝る場所もないなんて、想像しただけでぞっとした。
「あーあ、でも、そっかあ」
あたしはあきらめたように、再び仰向けになった。
「こんなことだったら、ちゃんと話しておけばよかったなあ」
浮かんだのは、父の顔だった。
「……進路のことですか?」
淡々とした声で、蓮君が言う。
「なんでわかるの?」
「この状況だったら、それくらいしかないか、と」
あたしは身体をひっくり返す。
「うちは父一人、子一人でね。親は好きな道に進んでいいって言ってくれてるんだけど、ちょっと迷ってて」
最後に見たのは、昨日の朝、出かける姿だった。
「その状態で話をしても、無駄だと思うんですけど」
「……わかってるわよ。うちの父親、優しいからさあ。返って気を遣わせちゃうかなっていうのはあったんだけど、でも心配させるくらいなら、ちゃんと気持ちを話しておこうと思って」
「迷ってることを、ですか?」
「そうよ。例えどうするか決まってなくても、自分が今、どんな気持ちでいるかっていうのは、話そうって決めてるの。お互いにね。何かできるか、できないかじゃなくてね」
ただ父については優しすぎて、あたしの分まで思い悩んでしまうのだ。自分にできることはないか、探してしまう。それがなんだか申し訳なくて、つい、話すことを躊躇してしまう。
……本末転倒だけど。
「迷ってる、こと……」
蓮君はつぶやくように言うと、思い悩むように顔を伏せた。背筋はピンと伸びたまま。あたしはあわてて、口を開く。
「そういえば、ねえ、蓮君って、すごい姿勢が良いよね。正座してても疲れないみたいだし。よっぽどご両親の躾がいいんだね」
その言葉に、蓮君は顔をあげる。けれどすぐ、気まずそうに目を逸らした。
「いや……ぼくもその……父とふたりの生活が長くて」
「え、そうなの?」
つまりそれは、母親がいないということだ。なんとなく、その先は聞きづらい。経験上、よくわかるからこそ、だ。
あたしは話題を変えようと、やや前のめりになる。
「ふうん、そっか。ね、お父さんって、どんな人?」
聞いていいことかどうか迷ったけど、なんとなく気になってしまった。
「父、ですか?」
あたしはゆっくり頷く。
「そうですね。一言で言うと……静かな人ですね」
「……ほんっと、一言だね」
「でも仲は……悪くないと思ってます」
「そっか」
その言葉を聞いて、なんだか安心する。あたしのことじゃないのに、変なの。
ほっとしたように笑うと、あくびが出た。
「……あたし、なんだか眠くなってきた」
「もうすぐ夕飯が来ますけど」
「……蓮君、代わりに食べておいて。大きくなるよ、きっと」
「ーー余計なお世話です」
他にも何か言っていたような気がしたけど、睡魔には勝てない。
あたしはそのまま布団の中へ入り、縮こまって目を閉じた。
なぜその夢を見たのか、わからなかった。
あたしはまだ子どもで、父と一緒に、小さなアルバムを見ていた。
「これ、まーま?」
父と一緒に写る、女の人の写真。それは数枚しかなくて、けれどよく笑っていて、あたしは大好きだった。
「そうだよ、穂乃香のお母さん」
写真の中の母は髪の短い、そして凛とした空気を持つ女性だった。
「まま、どうしていないの?」
あたしの質問に、父は困ったような顔をした。父がかわいそうに思えて、あたしはそれ以上、何も聞かなかった。
そして写真の裏には、母の名前が書いてあった。
「ぱーぱ、なに?」
漢字なので、読めなかったのだ。すると父は教えてくれた。
「これはね……」
その時父は確か、こう言った。
六畳一間で、小さな机がある。すでに布団が敷いてあり、あたしはよろけながらも、横になった。
「はあ……疲れた」
仰向けになって、息をつくあたしをよそに、彼はそっと扉を閉める。
「それはこっちの台詞ですよ」
こちらを向いた彼は、腕を組んであたしを見た。
「あなたが何か余計なことを言うんじゃないかって、ぼくも久しぶりに焦りました」
彼も息をついて、まあ、あの場は切り抜けられたんでよかったですけど、と付け足す。
「何よ、その態度」
あたしは一気に起きあがって、まくしたてるように言った。
「っていうか、何がどうなってるの? なんであたしとあんたが姉弟ってことになってんのよ」
納得いかなかった。というよりも、なぜその必要があるのか、わからなかったのだ。
「それは今から説明します。まず先にこれを」
布団の前に正座して、袖から何か出す。
あたしの携帯だった。
今着ているものと、ちょうど色が一緒だ。引っかかっていたのはきっと、この携帯だったのだ。
「あの時落ちてたんで、拾っておいたんです」
受け取りながら、電源を入れてみる。やっぱり付かない。
「車の中で渡してくれてもよかったのに」
「そうすると、他の人に見られる可能性があったんで」
「何がまずいの?」
多分、壊れてしまっている。仮にもし使える状態になったとしても、ロックをかけてあるので、簡単に情報が漏れることもないはずだ。
「……できるだけ、歴史は変えることは避けたいので」
「は?」
あたしは首を傾げた。彼はもう一度、息をつく。
「穂乃香さん、落ちついて、よく聞いてくださいね。ここは多分、信州のN県です」
「……え?」
さっきから、こんな返事ばかりだ。
「え、だ、なんでN県? うちからどれだけ離れてると思ってるのよ」
勘違いじゃないの? と口にしそうになった。けれど次の言葉で、更に血の気が引いた。
「それだけじゃありません。今、何年だと思いますか?」
「今って……1999年でしょう」
ちなみにあたしはまだ十七歳だ。十月でようやく十八になる。
口にしたところで、あるものが目に入った。
カレンダーだ。
あたしはそれを見て、これ以上ないくらい、目を開く。
「なによこれ、どういうこと?」
6月というのは合っている。問題は年数だった。
――1979年
計算にまちがいがなければ、二十年前、ということになる。
「本当に、そうなの?」
「……ぼくが調べた限りでは」
最初に気がついたのは、車の中だったそうだ。運転席のほうに、時計とカレンダーがあった。それで違和感を覚えたという。
携帯は一度脱衣所に隠し、お風呂から速攻上がって袖に入れ、先に葵さんに会った。そして話をしたという。
「ここがどこなのか、っていうのと、それとなく今日がいつなのかっていうのも交えるようにして」
「え、ねえ、もしかしてみんなであたしをからかってない?」
「……そんなことして、だれが得するっていうんですか?」
それもそうだ。そしてあたしは、あることに気がついた。
「もしかしてだから、姉弟ってことにしたの?」
蓮君は軽く頷いた。あたしの名前は進路希望調査に書いてあったので、覚えていたという。
「信州の山奥じゃ、きっと二十年後も関わりないでしょうし。別の名前っていうのも返って混乱すると思ったんで」
とは言いつつも、なんとなく顔が曇っている。何か気になることがあるのかもしれない。
そしてあたしも、気になることがあった。
「……仮にもし、ここが二十年前の信州だとして、あたしたち、どうやって帰ったらいいの?」
なぜここに来たのか、なんていうのはどうでもいい。こうなったらもう、できるだけ早く帰りたい。
「……さあ」
「っていうか、蓮君はなんで、そんなに落ちついていられるのよ」
どうにもならないことかもしれない。でもなんていうか、もうちょっとあわててほしい、というか。小学生のくせにって思う。
「たぶんですけど、ぼくの分まで穂乃香さんが取り乱してくれてるからじゃないですか?」
その様子を見てると、逆に冷静になってくるという。なんだか微妙な話だ。
「とにかく、ジタバタしてもしょうがないんで、うまくやり過ごすことだけ考えましょう」
「う、うん。まあ……」
まだちょっと、信じられない。しかもこういった御屋敷だと、なじみがなさすぎて、違和感があるかどうかすら、わからない。
「ここにいれば、食事も寝るところもあるわけですから」
彼が言うには、あのままあそこにいるほうが、大変だったという。
確かに、そうだ。雨の中、お腹も空いて寝る場所もないなんて、想像しただけでぞっとした。
「あーあ、でも、そっかあ」
あたしはあきらめたように、再び仰向けになった。
「こんなことだったら、ちゃんと話しておけばよかったなあ」
浮かんだのは、父の顔だった。
「……進路のことですか?」
淡々とした声で、蓮君が言う。
「なんでわかるの?」
「この状況だったら、それくらいしかないか、と」
あたしは身体をひっくり返す。
「うちは父一人、子一人でね。親は好きな道に進んでいいって言ってくれてるんだけど、ちょっと迷ってて」
最後に見たのは、昨日の朝、出かける姿だった。
「その状態で話をしても、無駄だと思うんですけど」
「……わかってるわよ。うちの父親、優しいからさあ。返って気を遣わせちゃうかなっていうのはあったんだけど、でも心配させるくらいなら、ちゃんと気持ちを話しておこうと思って」
「迷ってることを、ですか?」
「そうよ。例えどうするか決まってなくても、自分が今、どんな気持ちでいるかっていうのは、話そうって決めてるの。お互いにね。何かできるか、できないかじゃなくてね」
ただ父については優しすぎて、あたしの分まで思い悩んでしまうのだ。自分にできることはないか、探してしまう。それがなんだか申し訳なくて、つい、話すことを躊躇してしまう。
……本末転倒だけど。
「迷ってる、こと……」
蓮君はつぶやくように言うと、思い悩むように顔を伏せた。背筋はピンと伸びたまま。あたしはあわてて、口を開く。
「そういえば、ねえ、蓮君って、すごい姿勢が良いよね。正座してても疲れないみたいだし。よっぽどご両親の躾がいいんだね」
その言葉に、蓮君は顔をあげる。けれどすぐ、気まずそうに目を逸らした。
「いや……ぼくもその……父とふたりの生活が長くて」
「え、そうなの?」
つまりそれは、母親がいないということだ。なんとなく、その先は聞きづらい。経験上、よくわかるからこそ、だ。
あたしは話題を変えようと、やや前のめりになる。
「ふうん、そっか。ね、お父さんって、どんな人?」
聞いていいことかどうか迷ったけど、なんとなく気になってしまった。
「父、ですか?」
あたしはゆっくり頷く。
「そうですね。一言で言うと……静かな人ですね」
「……ほんっと、一言だね」
「でも仲は……悪くないと思ってます」
「そっか」
その言葉を聞いて、なんだか安心する。あたしのことじゃないのに、変なの。
ほっとしたように笑うと、あくびが出た。
「……あたし、なんだか眠くなってきた」
「もうすぐ夕飯が来ますけど」
「……蓮君、代わりに食べておいて。大きくなるよ、きっと」
「ーー余計なお世話です」
他にも何か言っていたような気がしたけど、睡魔には勝てない。
あたしはそのまま布団の中へ入り、縮こまって目を閉じた。
なぜその夢を見たのか、わからなかった。
あたしはまだ子どもで、父と一緒に、小さなアルバムを見ていた。
「これ、まーま?」
父と一緒に写る、女の人の写真。それは数枚しかなくて、けれどよく笑っていて、あたしは大好きだった。
「そうだよ、穂乃香のお母さん」
写真の中の母は髪の短い、そして凛とした空気を持つ女性だった。
「まま、どうしていないの?」
あたしの質問に、父は困ったような顔をした。父がかわいそうに思えて、あたしはそれ以上、何も聞かなかった。
そして写真の裏には、母の名前が書いてあった。
「ぱーぱ、なに?」
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「これはね……」
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