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3章
ミドレスト皇国 Part2
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ミドレスト皇国では車両用道路と歩行者用がしっかり区分されている。
対向馬車とも危なげなく、すれ違える程だ。
城下街全体をフード越しに眺めていると、等間隔に設置された花壇には旬の花々が植えられている。
しっかり手入れされている。街並みも白壁同様美しい程に統一された白い建造物しかない。
街全体は馬車で移動すると螺旋状にぐるっと回る仕組みのようだ。
城下の中央付近に見えた建物(商館)の横手に馬車停泊所があったので、ニーナは停める。
「さあ、着いたわね…。」
ホッと息をつくニーナに追従するように、商館の停泊所から本館入り口と書かれた扉を開け、建物に入っていく。
ミドレスト皇国へ入ったきり、ニーナの顔は何処かぎこちなかった。
フローラもミルトも門衛に受けた忠告やニーナの表情の硬さが気になり、まともに喋ろうとしなかったため、ホッと一息つく様子を見て、フローラもミルトも同じように少し気が抜けてしまう。
館内へ入ると、以前、訪れた時同様、煌びやかな商館独特の内装が施されている。
「おかえりなさいませ、ニーナ様。あの方に御用でしたらいつもの所へ居られます故、では。」
「いつもの所ですね、わざわざありがとうございます。」
「やぁ、珍らしいな。ニーナじゃないか!当分来ないと思ってたぞ!!」
「私も当分寄る予定なかったわよ~。」
「おーおー、ニーナじゃねぇか。寄ってくれんの早かねえか?ま、俺達は大歓迎だぜ!」
「お店寄ったら、御贔屓価格でよろしく!」
階を登っていくと、支配人風の老紳士や店を構える同業者達から声が掛かる。
ニーナもいつもの調子に戻って、普通にやり取りしている。
三階のに着いたニーナは、中央書店に足を運んだ。
「ニーナです。お久しぶりですね、モフ爺。」
モフ爺と呼ばれた禿散らかした老人(ロートル)の小人族は小さな丸眼鏡を掛け、顎髭を触り、店番をしながら、うとうと意識を半ば手放しており反応が返ってこない。かと思えば、鼻をピクピクさせると、
「…ハッ!!!この匂い女子じゃああああ!!!何処へぶぁっ?!?!」
モフ爺と呼ばれる老人は顔面に繰り出された掌底を受け、一瞬怯む。
「お元気そうで何よりです。ニーナ・イングリッドです。立ち寄る機会がございましたので、ご挨拶に伺いました。」
「うぉおおおお!!!!にぃーなぁちゅぁぁぁぁぁああぶぎゃあああ…!!」
怯んだ隙に、再び挨拶するニーナに抱き着かんと、飛びつこうとしたモフ爺に痛烈な一拳が繰り出される。
「もう歳なんだから労って…。わし、そろそろマジで死んじゃうぞっ!」
「ふふ。またまた、ご冗談を。」
軽くあしらうニーナにモフ爺が続けざま、何か言おうとすると、やっと気づいたのかフードを被ったフローラとミルトをじっと見つめる。
先程、同様クンクンと匂いを嗅ぐと、首を傾げる。
「また、珍しい客人じゃな。…連れかね?エルフの少年少女らよ。」
深くフードを被ったままのフローラ達の種族を見抜く老人(ロートル)の言葉を受け、二人は体をビクつかせる。
「まあ、そう固くならんでよいよい。ちょっとばかし年寄りの勘が冴えてただけじゃて。まあ、こんなとこで話すのもなんじゃ。奥で茶の一杯でも飲んでいかんか?」
妙な雰囲気を纏った老人が所々抜け落ちた歯を見せ、笑う。
店内の奥に案内された三人はフローラ、ニーナ、ミルトの順に横長のソファに腰掛ける。
「紹介してくれんかの、ニーナや。」
「はい。それじゃ、フードを取って、挨拶して二人とも。」
フードを取ると、清銀色の髪色をした少女(エルフ)と薄緑色の髪の少年(エルフ)が顔を曝け出す。
「お初にお目にかかります。冒険者ギルド所属フローラ・エスメラルダと申します。フローラとお呼びください。」
「は、はじめまして!!同じく冒険者ギルド所属ミルト・エストハイムです。ミルトって呼んでください。」
「礼儀正しいのぅ、わしはモフ爺じゃ…。こらまた…おったまげたわい。美形じゃのぅ二人揃って…。フローラちゃんに至っては綺麗なんて言葉すら安く感じさせてしまうわい…。一体全体どういう…。」
モフ爺は顎髭を触りながら、目を見開いたと思えば細め考え事をしている。
「長居するつもりはないんですが…。」
ニーナはモフ爺の思考を断ち切るように言葉を掛ける。
「当たり前じゃ。只でさえ、ゼブレストのゴミ屑めに、ニーナちゃんかて目を付けられとろうに…。もうワシ、寿命ないのに、縮んじゃうてばYOOOおおおいっててえぇ…!!」
「真剣にふざけるのやめてください。」
ニーナは頬を抓られ、軽く咳ばらいをして崩れかけた場の空気を元に戻す。
「あのぅ、ゼブレストって現皇帝様ですよね…?その人がどうかされたんですか…?」
ミルトが口を開く。
「ふむ、ヤツ(ゼブレスト)についてはどの位知っておる?」
モフ爺に投げかけられたミルトは懸命にゼブレストについて習ったことを思い出す。
「えっと…、現十三代目皇帝ゼブレスト様が、シグムンド大陸全域を統べているとか…。」
「学園出身者かの。冒険者に成りたてで、噂については耳にしておらんか…。」
ズバリ言い当てられ、ミルトは少し恥ずかしそうにしている。自分のことを隠しているわけではないが、こうもあっさり看破されてしまうと、自分という存在が薄っぺらく感じたのだろう。
「まあ、噂ではなく、此処で起きていることを話そうかの。フローラちゃんも知りたいじゃろ?」
「はい。何故私達が顔を隠す必要があるのか。此処に長居してはいけない理由が知りたいです。」
「ふぁっふぁ。そうじゃな。先ず、なにから話そうか。このミドレスト皇国ではな、人攫いが皇命により、横行しておる。一本路地裏を通ったり、市街地に足を運べば一巻の終わりじゃ。」
「っ?!それじゃ、市民の皆さんが黙ってないんじゃ…!」
ミルトが思わず、口を挟む。
「そうじゃな。公に御布令が出ているわけではない。それに人攫いの対象は見目麗しい者(別嬪さん)だけじゃて。此処まで来るのに回廊を登ってきたじゃろ。店番に男衆しか居なかったんじゃないかい?」
声を掛けてきていたのは、確かに男性店員ばかりだったような…。
「商館所属の商人でマトモに此処へ立ち寄る女子はニーナちゃんくらいじゃ。冒険者が集うギルドにも足を運んでみるといい。男衆しかいないじゃろうに。」
「…でも、何のために?」
フローラが至極当然な疑問を呈する。
「話せば長くなるのぅ…。ゼブレストがおかしくなったのは三年前、アストリットへ交友を深めに訪問した際に起きた暗殺未遂事件がきっかけだとわしは思うとるんじゃが…。奴が可笑しくなり始めた時期とも一致するしの。親睦を深める筈だった会合自体が中止になった話は有名じゃろ。引き連れていた臣下数人とゼブレストが、アストリット領で深手を負ったんじゃ…。」
「三〇二年バンギッドによるゼブレスト皇帝暗殺未遂事件のお話ですね?」
歴史学で習った内容を思い返して、ミルトが答える。
「うむ。学園では正しく話が入ってきているようじゃな。シグムンド領民の中には、アストリットで起きたこと故、首謀者がアストリット領の仕業だと誤解しておる者も少なからずいるからのぅ。」
「モフ爺は暗殺事件で何が起きたと考えいるのですか?」
脱線しかけたので、フローラは話を催促する。
「そうじゃな。恐らくは何らかの毒を盛られたか…。もしくは、ゼブレストを傀儡にしている者がいるのやもしれん。人攫いの目的自体、よくわかっておらんのが現状じゃ。」
顎髭を触りながらモフ爺は語る。
「エルフや犬人(シアンスローブ)みたいに容姿端麗な種族はゼブレストによって城内に集められておる。監禁しておるのか…もうここらにはおらんのかすらさっぱりじゃて。だから、顔を出しちゃいかんし、長居も極力避けた方がいいんじゃ。」
「集められた人達の行方…件に関しては、奴隷商人の違法人身売買現場を幾つか摘発した所、何名かはミドレスト皇国内で人攫いにあったとの証言を手に入れました。ゴールドーンを縄張りにしていた黒幕の正体までは掴めませんでしたが奴等、盗賊を使っているようです。仲介役に盗賊の狼人ルトが一枚絡んでいそうだんですけど、逃がしたかもしれません。奴を捕らえれば、芋づる式に黒幕まであわよくば、突き止められるかと。」
ニーナはゴールドーンの一件に関与していたので、ルトが商人襲撃以外に、人身売買にも手を染めていた事実を知っている。
「え、それってマグナ大森林で、ニーナさんと互角にやり合ってた人ですか…?でも、あの人ならミネストロ池で死んじゃった可能性もありますよね?」
「何と…。ニーナちゃんと、互角にやり合う程の手練れが盗賊に…?きな臭いのう、そやつ。」
「ミネストロ池には幾つか死体はあったんですが、頭がなく、死体の損傷も酷くて判別が付かなかったんですよね。死んでいるかもしれませんが、生きている可能性も否定できないので。それと、互角じゃないわ。私より強いと断言できます。私は腕一本斬り落とすので精一杯だったもの。」
ニーナは盗賊(ルト)との実力の差を冷静に見極めた上で、正しく情報を修正する。
「あれは、相手がルトだけじゃなくて、他にも仲間がいたから…!」ニーナの実力がルトに劣ると戦った本人の口から告げられたショックと、否定したい思いで、少々熱くなったフローラが食い下がる。
「まぁまぁ、フローラちゃんや。ニーナちゃんがそう思った理由も聞いてあげんとな?」
モフ爺は優しくフローラを諫める。
「彼(ルト)は、獣化し切っていませんでしたから。部分獣化の段階で俊敏(はやさ)が互角だったので。」
「じゃが、ニーナちゃんかて、奥の手は出しておらんじゃろ?」
「そうですけど…。」ちらと、ニーナは両隣の少女達を見やる。
ニーナの奥の手【狂人の牙】を発動中は理性が飛ぶため、仲間にも、被害が及ぶ可能性がある。
ニーナにとっても使い処が難しいスキル故、難色を示しているのだ。
「まあ、わしが言いたいのは勝利の女神がどちらに微笑むかは状況次第じゃないかね?ってことじゃ。まぁ、ルトの件に関しては、わしの方で居所は探っておくとして…。」
モフ爺は眉をピクッと動かし、話を中断する。
商館内が、妙にざわついている。耳を凝らせば、言い争いの声が聞こえてくる。
「ニーナ・イングリッドを出せ!!従者に連れていた二人もだ!!此処にいるのは分かっている。邪魔だ、通せ!!貴様等に用はない!」
「何度も申しているではありませんか。商品を売買するために来たなら、未だしも。人をお探しなら、商館への立ち入りはお断り願えませんか?此処にいらっしゃるというなら何れ出てきましょう。」
商館の代表取締役を務める支配人を務める老紳士が憲兵らしき人間と揉めている。
「そうだそうだ!此処は客が買いもんするとこだ!!客じゃねぇ、お前らは外で待ちやがれってんだ!いきなりヤクザみたいに押し入りやがって!!みかじめ(不当な金)でもせびりに来たのかよ。」
買い物中の冒険者が騒動に、気を悪くしたのか、憲兵達にヤジや煽り文句を吐き捨てる。
三階まで吹き抜けの造りになっているため、怒鳴り声や言い争うやり取りが筒抜けだ。
「商館内にお通しできるのは、お客様のみ。これ以上騒ぎを大きくされるようでしたら、営業妨害ですので。…覚悟の方は宜しいですね?」
下手に出ていた支配人も我慢の限界のようで、最終警告を彼等(憲兵)に伝える。
「我等に盾突くか?!ハッ、いいだろう!!憲兵である我等と刃を交える意味分かって言っているのだろうな!」
散々下手に出ていた彼等(支配人達)の最終警告すら、全く聞く耳を持たない。虎の威を借る狐とはこのことなのだろう。一介の憲兵がミドレスト皇国という国の威を以て、脅迫してきたのだ。
この言葉で、怒りの臨界点を迎えた、彼(支配人)を筆頭に、商人達が殺気を立つ。
「…一国のたかが一兵士風情が…!貴様に我々と全面戦争をする決定権があるというのだな…?全国に点在する商人達を敵に回した過ち、償うにはその血だけでは足りぬということ知らしめてくれルッ!!」
物腰柔らかな老紳士だったのに…。忠犬のようなケモ耳だったのに…。
勝手に犬人(ルプスレクター)だと思ってた…。
普段優しい父さまも怒ると、あんな感じなのかな。そもそも父セティが獣化した所を見たことがないフローラは優しい雰囲気の獣耳紳士を見ると、父セティに面影を重ねがちだ。
獣化が出来るということは、狼人(ウェアウルフ)なのだろう。
ニーナ達は、三階、通りの外側、防落対策(薄ガラス製の柵が八十cmほどの高さまで設置されている)が取られている手すりに捕まり、覗き込むように、一部始終をみていた。尚、フローラは下を覗き込むには身長が足りないので、ニーナに抱っこされている。
今にも、抗争が起きそうで、ニーナも気が気でない。少年(ミルト)もそわそわしている。
「あんらまぁ。ちょっくらわしの出番かの。ニーナちゃん、フローラちゃん達も此処にいるんじゃぞ?」
そう忠言するや否や、モフ爺は柵を飛び越え、三階から身を投げ出す。
高さ十五mはあろうとこから、急速に落下していく百cm程の、老体が商館側と憲兵側の間に降り立つ。
衝撃音がない…というより落下衝撃を受けた様子も見られない辺り、何らかの魔法を行使したのか、将又魔法道具(マジックアイテム)でも持ち合わせていたのだろうか。
フローラは少しばかり気になっていると、
「わぁ、カッコいいですね。頼もしいです。僕も同じ台詞を言う機会とか訪れる日が来るのかな…。でもあれって何の魔法なんだろう。」
ミルトも同じことを考えていたようだ。ブツブツと隣で尊敬と分析をしている。
「アレは、飛行魔法に加重軽減魔法を組み合わせているそうよ。興味があるなら、幾ら対価を払えば教えてくれるのか聞いてみたらいいわ。」
ミルトの独白にニーナが答えてくれる。
「!!…やっぱり凄い人なんですね。…魔法は二次職に就けたら、またその時にでも考えてみます…。」
がっくりと肩を落としたミルトの言い方から察するに、一次職の人間が扱える魔法スキルじゃない事が分かった。
突然、上階より降って湧いた老人を見て、憲兵達に動揺が走る。支配人達も矛を収め、冷静さを取り戻す。
「なんじゃ?さっきから、ちと騒ぎ過ぎじゃないかい?フィヨルド支配人もいるというに。ちょっとお爺にも分かるように状況説明してくれんかね。」
フィヨルドと呼ばれた老紳士こと支配人は恭しく一礼する。
「ヴァルグリーフ・ルドモフ…!!また厄介な奴め…!キ、貴様は隠居したなら引っ込んで居てもらおう!」
「せ、説明をしてくれんかね…。後も、モフ爺と呼ぶんじゃ。そこの若いの。」
モフ爺は眉をピクつかせながら、毅然とした態度を取っている。
ヴァルグリーフって、あのヴァルグリーフ閣下…?マジリスペクト的存在の、あのヴァルグリーフ閣下がいらっしゃるのですか?!後ろの方に控えている新米憲兵達がざわついている。
本名の厳つさに少々驚きを隠せない。閣下ってなに。ヴァルグリーフ・ルドモフことモフ爺のファンでもいるのだろうか。憲兵達の一言一言が気になってしょうがない。
隊列を乱さない範囲で一目見ようと必死になっている者も、上からだとよく見える。
「おい、静まらんか!!」と、上官が一括すると、再び統率を取り、憲兵達から浮かれた雰囲気がなくなる。
「…コホン。ヴァルグリーフ・ルドモフ。此処に商人ニーナ・イングリッドとその一行が居ると聞いてきたのだが、間違いないな?」後に控えていた上官が前に出てきてモフ爺と対話を始める。
「ぐぅっ、ニーナちゃんはおらん!連れもみとらん!!…じゃが、モフ爺と呼べば多少聞く耳持ってやっても良いがのぅ…?」モフ爺は本名で呼ばれ、拗ねたのか一方的に突っぱねる。
「ヴァルグリーフ・ルドモフ…!貴様ともあろう者が見え透いた嘘をつくな!!先程、城門を潜り抜け、此方に入っていくのを見たと、情報が入っている!!我等は皇帝に、ニーナ・イングリッドとその一行を召喚するよう勅命を受けたのだ。連れゆくまで我々は帰らんぞ!!」勅命を受けた事を示す、皇帝印が押された召喚状を憲兵が鎧の間から取り出して見せる。
「……知らんもんは知らん。さっさと帰れ!石頭!!頑固もん!!分からず屋!!」
一旦、落ち着いて話が始まったと思えば、モフ爺と憲兵のやり取りも、中々熱くなってきている。
「ニーナさん…。モフ爺って冷静に話し合う為に、下に降りてったんだよね?」
「ええ、そうね。」
「ニーナさんだけじゃなくて、僕達もなんですね。」
「ええ、そうみたいね。」
「私達もって言うのも気になるけど…。モフ爺、さりげなく【モフ爺】って呼ばせる為だけに、私達売ろうとしませんでした…?」
「それは…気のせいよ。」
「フローラもそこ、気になった?実は僕も。」
「…気のせいよ。」
「てゆか、モフ爺はモフ爺って呼んでもらえない事に怒ってません?」
「…そ、それは…。」
「フローラも?僕も何だかそんな風に見えて仕方なかったんだ。」
「何か、ごめんなさいね……。」
「ニーナさんが謝ることないですよ。でもわたし、これだけははっきり言える。」
「「モフ爺に任せるの何だか心配です。」」
フローラとミルトが口を揃えて同じことを懸念している。
「ハモッたね。僕も心配になってた。自分の事は自分達で解決した方が良い気がする。」
「でも、召喚に応じたら私達、無事皇城から出てこれるか分からないのよ…?モフ爺を信じて、もうちょっとだけ見守ってみましょ?」
「ニーナさんがそういうなら…。もうちょっとだけ…見守ってみましょうか。」
「そうだね。もしかしたら、上手く話を纏めてくれるかもしれないもんね?」
上階にいる三人の視線に当初の信頼めいたものが大幅に薄れてしまったような気もするが、言いつけを守る意味でも三階から見守ることになった。
「ねぇ、ちょっと!お主、わしをフルネームで呼ぶんじゃないよ!!今日という今日は許さんぞ!!厳つ過ぎるから嫌いなんじゃ!!モフ爺って呼べって何回言ったらわかるんじゃ!!」
モフ爺ことヴァルグリーフ・ルドモフはフルネームで呼ばれた事に大して大層お冠のようだ。モフ爺と呼べと、遂には床に転がり駄々を捏ねる。まるで、玩具を買って貰えない子どものような反応に商館員達は少々恥ずかしくなる。
「閣下、そのような事を申されましても…。素性を知らぬものなら未だしもこの国で…ましてや皇国に仕える憲兵が、恐れ多くもその様な呼称で呼ぶ勇気など持ち合わせておりますまい。」
「閣下?!フィヨルド…お主もモフ爺と呼ばんか!!嫌じゃ嫌じゃ!!嫌なんじゃあああああああああああ。」
これには、商館側も憲兵側も、同様に困惑し、手を焼いてしまう。
「「ニーナさん…」」
フローラとミルトが揃って、ニーナの名を呼ぶ。
「ええ、そうね。大丈夫。二人の言いたいことはもう聞かなくても分かってるから…。」
何とも言えない雰囲気を漂わせ、三人は無言で階段を下っていくのであった。
対向馬車とも危なげなく、すれ違える程だ。
城下街全体をフード越しに眺めていると、等間隔に設置された花壇には旬の花々が植えられている。
しっかり手入れされている。街並みも白壁同様美しい程に統一された白い建造物しかない。
街全体は馬車で移動すると螺旋状にぐるっと回る仕組みのようだ。
城下の中央付近に見えた建物(商館)の横手に馬車停泊所があったので、ニーナは停める。
「さあ、着いたわね…。」
ホッと息をつくニーナに追従するように、商館の停泊所から本館入り口と書かれた扉を開け、建物に入っていく。
ミドレスト皇国へ入ったきり、ニーナの顔は何処かぎこちなかった。
フローラもミルトも門衛に受けた忠告やニーナの表情の硬さが気になり、まともに喋ろうとしなかったため、ホッと一息つく様子を見て、フローラもミルトも同じように少し気が抜けてしまう。
館内へ入ると、以前、訪れた時同様、煌びやかな商館独特の内装が施されている。
「おかえりなさいませ、ニーナ様。あの方に御用でしたらいつもの所へ居られます故、では。」
「いつもの所ですね、わざわざありがとうございます。」
「やぁ、珍らしいな。ニーナじゃないか!当分来ないと思ってたぞ!!」
「私も当分寄る予定なかったわよ~。」
「おーおー、ニーナじゃねぇか。寄ってくれんの早かねえか?ま、俺達は大歓迎だぜ!」
「お店寄ったら、御贔屓価格でよろしく!」
階を登っていくと、支配人風の老紳士や店を構える同業者達から声が掛かる。
ニーナもいつもの調子に戻って、普通にやり取りしている。
三階のに着いたニーナは、中央書店に足を運んだ。
「ニーナです。お久しぶりですね、モフ爺。」
モフ爺と呼ばれた禿散らかした老人(ロートル)の小人族は小さな丸眼鏡を掛け、顎髭を触り、店番をしながら、うとうと意識を半ば手放しており反応が返ってこない。かと思えば、鼻をピクピクさせると、
「…ハッ!!!この匂い女子じゃああああ!!!何処へぶぁっ?!?!」
モフ爺と呼ばれる老人は顔面に繰り出された掌底を受け、一瞬怯む。
「お元気そうで何よりです。ニーナ・イングリッドです。立ち寄る機会がございましたので、ご挨拶に伺いました。」
「うぉおおおお!!!!にぃーなぁちゅぁぁぁぁぁああぶぎゃあああ…!!」
怯んだ隙に、再び挨拶するニーナに抱き着かんと、飛びつこうとしたモフ爺に痛烈な一拳が繰り出される。
「もう歳なんだから労って…。わし、そろそろマジで死んじゃうぞっ!」
「ふふ。またまた、ご冗談を。」
軽くあしらうニーナにモフ爺が続けざま、何か言おうとすると、やっと気づいたのかフードを被ったフローラとミルトをじっと見つめる。
先程、同様クンクンと匂いを嗅ぐと、首を傾げる。
「また、珍しい客人じゃな。…連れかね?エルフの少年少女らよ。」
深くフードを被ったままのフローラ達の種族を見抜く老人(ロートル)の言葉を受け、二人は体をビクつかせる。
「まあ、そう固くならんでよいよい。ちょっとばかし年寄りの勘が冴えてただけじゃて。まあ、こんなとこで話すのもなんじゃ。奥で茶の一杯でも飲んでいかんか?」
妙な雰囲気を纏った老人が所々抜け落ちた歯を見せ、笑う。
店内の奥に案内された三人はフローラ、ニーナ、ミルトの順に横長のソファに腰掛ける。
「紹介してくれんかの、ニーナや。」
「はい。それじゃ、フードを取って、挨拶して二人とも。」
フードを取ると、清銀色の髪色をした少女(エルフ)と薄緑色の髪の少年(エルフ)が顔を曝け出す。
「お初にお目にかかります。冒険者ギルド所属フローラ・エスメラルダと申します。フローラとお呼びください。」
「は、はじめまして!!同じく冒険者ギルド所属ミルト・エストハイムです。ミルトって呼んでください。」
「礼儀正しいのぅ、わしはモフ爺じゃ…。こらまた…おったまげたわい。美形じゃのぅ二人揃って…。フローラちゃんに至っては綺麗なんて言葉すら安く感じさせてしまうわい…。一体全体どういう…。」
モフ爺は顎髭を触りながら、目を見開いたと思えば細め考え事をしている。
「長居するつもりはないんですが…。」
ニーナはモフ爺の思考を断ち切るように言葉を掛ける。
「当たり前じゃ。只でさえ、ゼブレストのゴミ屑めに、ニーナちゃんかて目を付けられとろうに…。もうワシ、寿命ないのに、縮んじゃうてばYOOOおおおいっててえぇ…!!」
「真剣にふざけるのやめてください。」
ニーナは頬を抓られ、軽く咳ばらいをして崩れかけた場の空気を元に戻す。
「あのぅ、ゼブレストって現皇帝様ですよね…?その人がどうかされたんですか…?」
ミルトが口を開く。
「ふむ、ヤツ(ゼブレスト)についてはどの位知っておる?」
モフ爺に投げかけられたミルトは懸命にゼブレストについて習ったことを思い出す。
「えっと…、現十三代目皇帝ゼブレスト様が、シグムンド大陸全域を統べているとか…。」
「学園出身者かの。冒険者に成りたてで、噂については耳にしておらんか…。」
ズバリ言い当てられ、ミルトは少し恥ずかしそうにしている。自分のことを隠しているわけではないが、こうもあっさり看破されてしまうと、自分という存在が薄っぺらく感じたのだろう。
「まあ、噂ではなく、此処で起きていることを話そうかの。フローラちゃんも知りたいじゃろ?」
「はい。何故私達が顔を隠す必要があるのか。此処に長居してはいけない理由が知りたいです。」
「ふぁっふぁ。そうじゃな。先ず、なにから話そうか。このミドレスト皇国ではな、人攫いが皇命により、横行しておる。一本路地裏を通ったり、市街地に足を運べば一巻の終わりじゃ。」
「っ?!それじゃ、市民の皆さんが黙ってないんじゃ…!」
ミルトが思わず、口を挟む。
「そうじゃな。公に御布令が出ているわけではない。それに人攫いの対象は見目麗しい者(別嬪さん)だけじゃて。此処まで来るのに回廊を登ってきたじゃろ。店番に男衆しか居なかったんじゃないかい?」
声を掛けてきていたのは、確かに男性店員ばかりだったような…。
「商館所属の商人でマトモに此処へ立ち寄る女子はニーナちゃんくらいじゃ。冒険者が集うギルドにも足を運んでみるといい。男衆しかいないじゃろうに。」
「…でも、何のために?」
フローラが至極当然な疑問を呈する。
「話せば長くなるのぅ…。ゼブレストがおかしくなったのは三年前、アストリットへ交友を深めに訪問した際に起きた暗殺未遂事件がきっかけだとわしは思うとるんじゃが…。奴が可笑しくなり始めた時期とも一致するしの。親睦を深める筈だった会合自体が中止になった話は有名じゃろ。引き連れていた臣下数人とゼブレストが、アストリット領で深手を負ったんじゃ…。」
「三〇二年バンギッドによるゼブレスト皇帝暗殺未遂事件のお話ですね?」
歴史学で習った内容を思い返して、ミルトが答える。
「うむ。学園では正しく話が入ってきているようじゃな。シグムンド領民の中には、アストリットで起きたこと故、首謀者がアストリット領の仕業だと誤解しておる者も少なからずいるからのぅ。」
「モフ爺は暗殺事件で何が起きたと考えいるのですか?」
脱線しかけたので、フローラは話を催促する。
「そうじゃな。恐らくは何らかの毒を盛られたか…。もしくは、ゼブレストを傀儡にしている者がいるのやもしれん。人攫いの目的自体、よくわかっておらんのが現状じゃ。」
顎髭を触りながらモフ爺は語る。
「エルフや犬人(シアンスローブ)みたいに容姿端麗な種族はゼブレストによって城内に集められておる。監禁しておるのか…もうここらにはおらんのかすらさっぱりじゃて。だから、顔を出しちゃいかんし、長居も極力避けた方がいいんじゃ。」
「集められた人達の行方…件に関しては、奴隷商人の違法人身売買現場を幾つか摘発した所、何名かはミドレスト皇国内で人攫いにあったとの証言を手に入れました。ゴールドーンを縄張りにしていた黒幕の正体までは掴めませんでしたが奴等、盗賊を使っているようです。仲介役に盗賊の狼人ルトが一枚絡んでいそうだんですけど、逃がしたかもしれません。奴を捕らえれば、芋づる式に黒幕まであわよくば、突き止められるかと。」
ニーナはゴールドーンの一件に関与していたので、ルトが商人襲撃以外に、人身売買にも手を染めていた事実を知っている。
「え、それってマグナ大森林で、ニーナさんと互角にやり合ってた人ですか…?でも、あの人ならミネストロ池で死んじゃった可能性もありますよね?」
「何と…。ニーナちゃんと、互角にやり合う程の手練れが盗賊に…?きな臭いのう、そやつ。」
「ミネストロ池には幾つか死体はあったんですが、頭がなく、死体の損傷も酷くて判別が付かなかったんですよね。死んでいるかもしれませんが、生きている可能性も否定できないので。それと、互角じゃないわ。私より強いと断言できます。私は腕一本斬り落とすので精一杯だったもの。」
ニーナは盗賊(ルト)との実力の差を冷静に見極めた上で、正しく情報を修正する。
「あれは、相手がルトだけじゃなくて、他にも仲間がいたから…!」ニーナの実力がルトに劣ると戦った本人の口から告げられたショックと、否定したい思いで、少々熱くなったフローラが食い下がる。
「まぁまぁ、フローラちゃんや。ニーナちゃんがそう思った理由も聞いてあげんとな?」
モフ爺は優しくフローラを諫める。
「彼(ルト)は、獣化し切っていませんでしたから。部分獣化の段階で俊敏(はやさ)が互角だったので。」
「じゃが、ニーナちゃんかて、奥の手は出しておらんじゃろ?」
「そうですけど…。」ちらと、ニーナは両隣の少女達を見やる。
ニーナの奥の手【狂人の牙】を発動中は理性が飛ぶため、仲間にも、被害が及ぶ可能性がある。
ニーナにとっても使い処が難しいスキル故、難色を示しているのだ。
「まあ、わしが言いたいのは勝利の女神がどちらに微笑むかは状況次第じゃないかね?ってことじゃ。まぁ、ルトの件に関しては、わしの方で居所は探っておくとして…。」
モフ爺は眉をピクッと動かし、話を中断する。
商館内が、妙にざわついている。耳を凝らせば、言い争いの声が聞こえてくる。
「ニーナ・イングリッドを出せ!!従者に連れていた二人もだ!!此処にいるのは分かっている。邪魔だ、通せ!!貴様等に用はない!」
「何度も申しているではありませんか。商品を売買するために来たなら、未だしも。人をお探しなら、商館への立ち入りはお断り願えませんか?此処にいらっしゃるというなら何れ出てきましょう。」
商館の代表取締役を務める支配人を務める老紳士が憲兵らしき人間と揉めている。
「そうだそうだ!此処は客が買いもんするとこだ!!客じゃねぇ、お前らは外で待ちやがれってんだ!いきなりヤクザみたいに押し入りやがって!!みかじめ(不当な金)でもせびりに来たのかよ。」
買い物中の冒険者が騒動に、気を悪くしたのか、憲兵達にヤジや煽り文句を吐き捨てる。
三階まで吹き抜けの造りになっているため、怒鳴り声や言い争うやり取りが筒抜けだ。
「商館内にお通しできるのは、お客様のみ。これ以上騒ぎを大きくされるようでしたら、営業妨害ですので。…覚悟の方は宜しいですね?」
下手に出ていた支配人も我慢の限界のようで、最終警告を彼等(憲兵)に伝える。
「我等に盾突くか?!ハッ、いいだろう!!憲兵である我等と刃を交える意味分かって言っているのだろうな!」
散々下手に出ていた彼等(支配人達)の最終警告すら、全く聞く耳を持たない。虎の威を借る狐とはこのことなのだろう。一介の憲兵がミドレスト皇国という国の威を以て、脅迫してきたのだ。
この言葉で、怒りの臨界点を迎えた、彼(支配人)を筆頭に、商人達が殺気を立つ。
「…一国のたかが一兵士風情が…!貴様に我々と全面戦争をする決定権があるというのだな…?全国に点在する商人達を敵に回した過ち、償うにはその血だけでは足りぬということ知らしめてくれルッ!!」
物腰柔らかな老紳士だったのに…。忠犬のようなケモ耳だったのに…。
勝手に犬人(ルプスレクター)だと思ってた…。
普段優しい父さまも怒ると、あんな感じなのかな。そもそも父セティが獣化した所を見たことがないフローラは優しい雰囲気の獣耳紳士を見ると、父セティに面影を重ねがちだ。
獣化が出来るということは、狼人(ウェアウルフ)なのだろう。
ニーナ達は、三階、通りの外側、防落対策(薄ガラス製の柵が八十cmほどの高さまで設置されている)が取られている手すりに捕まり、覗き込むように、一部始終をみていた。尚、フローラは下を覗き込むには身長が足りないので、ニーナに抱っこされている。
今にも、抗争が起きそうで、ニーナも気が気でない。少年(ミルト)もそわそわしている。
「あんらまぁ。ちょっくらわしの出番かの。ニーナちゃん、フローラちゃん達も此処にいるんじゃぞ?」
そう忠言するや否や、モフ爺は柵を飛び越え、三階から身を投げ出す。
高さ十五mはあろうとこから、急速に落下していく百cm程の、老体が商館側と憲兵側の間に降り立つ。
衝撃音がない…というより落下衝撃を受けた様子も見られない辺り、何らかの魔法を行使したのか、将又魔法道具(マジックアイテム)でも持ち合わせていたのだろうか。
フローラは少しばかり気になっていると、
「わぁ、カッコいいですね。頼もしいです。僕も同じ台詞を言う機会とか訪れる日が来るのかな…。でもあれって何の魔法なんだろう。」
ミルトも同じことを考えていたようだ。ブツブツと隣で尊敬と分析をしている。
「アレは、飛行魔法に加重軽減魔法を組み合わせているそうよ。興味があるなら、幾ら対価を払えば教えてくれるのか聞いてみたらいいわ。」
ミルトの独白にニーナが答えてくれる。
「!!…やっぱり凄い人なんですね。…魔法は二次職に就けたら、またその時にでも考えてみます…。」
がっくりと肩を落としたミルトの言い方から察するに、一次職の人間が扱える魔法スキルじゃない事が分かった。
突然、上階より降って湧いた老人を見て、憲兵達に動揺が走る。支配人達も矛を収め、冷静さを取り戻す。
「なんじゃ?さっきから、ちと騒ぎ過ぎじゃないかい?フィヨルド支配人もいるというに。ちょっとお爺にも分かるように状況説明してくれんかね。」
フィヨルドと呼ばれた老紳士こと支配人は恭しく一礼する。
「ヴァルグリーフ・ルドモフ…!!また厄介な奴め…!キ、貴様は隠居したなら引っ込んで居てもらおう!」
「せ、説明をしてくれんかね…。後も、モフ爺と呼ぶんじゃ。そこの若いの。」
モフ爺は眉をピクつかせながら、毅然とした態度を取っている。
ヴァルグリーフって、あのヴァルグリーフ閣下…?マジリスペクト的存在の、あのヴァルグリーフ閣下がいらっしゃるのですか?!後ろの方に控えている新米憲兵達がざわついている。
本名の厳つさに少々驚きを隠せない。閣下ってなに。ヴァルグリーフ・ルドモフことモフ爺のファンでもいるのだろうか。憲兵達の一言一言が気になってしょうがない。
隊列を乱さない範囲で一目見ようと必死になっている者も、上からだとよく見える。
「おい、静まらんか!!」と、上官が一括すると、再び統率を取り、憲兵達から浮かれた雰囲気がなくなる。
「…コホン。ヴァルグリーフ・ルドモフ。此処に商人ニーナ・イングリッドとその一行が居ると聞いてきたのだが、間違いないな?」後に控えていた上官が前に出てきてモフ爺と対話を始める。
「ぐぅっ、ニーナちゃんはおらん!連れもみとらん!!…じゃが、モフ爺と呼べば多少聞く耳持ってやっても良いがのぅ…?」モフ爺は本名で呼ばれ、拗ねたのか一方的に突っぱねる。
「ヴァルグリーフ・ルドモフ…!貴様ともあろう者が見え透いた嘘をつくな!!先程、城門を潜り抜け、此方に入っていくのを見たと、情報が入っている!!我等は皇帝に、ニーナ・イングリッドとその一行を召喚するよう勅命を受けたのだ。連れゆくまで我々は帰らんぞ!!」勅命を受けた事を示す、皇帝印が押された召喚状を憲兵が鎧の間から取り出して見せる。
「……知らんもんは知らん。さっさと帰れ!石頭!!頑固もん!!分からず屋!!」
一旦、落ち着いて話が始まったと思えば、モフ爺と憲兵のやり取りも、中々熱くなってきている。
「ニーナさん…。モフ爺って冷静に話し合う為に、下に降りてったんだよね?」
「ええ、そうね。」
「ニーナさんだけじゃなくて、僕達もなんですね。」
「ええ、そうみたいね。」
「私達もって言うのも気になるけど…。モフ爺、さりげなく【モフ爺】って呼ばせる為だけに、私達売ろうとしませんでした…?」
「それは…気のせいよ。」
「フローラもそこ、気になった?実は僕も。」
「…気のせいよ。」
「てゆか、モフ爺はモフ爺って呼んでもらえない事に怒ってません?」
「…そ、それは…。」
「フローラも?僕も何だかそんな風に見えて仕方なかったんだ。」
「何か、ごめんなさいね……。」
「ニーナさんが謝ることないですよ。でもわたし、これだけははっきり言える。」
「「モフ爺に任せるの何だか心配です。」」
フローラとミルトが口を揃えて同じことを懸念している。
「ハモッたね。僕も心配になってた。自分の事は自分達で解決した方が良い気がする。」
「でも、召喚に応じたら私達、無事皇城から出てこれるか分からないのよ…?モフ爺を信じて、もうちょっとだけ見守ってみましょ?」
「ニーナさんがそういうなら…。もうちょっとだけ…見守ってみましょうか。」
「そうだね。もしかしたら、上手く話を纏めてくれるかもしれないもんね?」
上階にいる三人の視線に当初の信頼めいたものが大幅に薄れてしまったような気もするが、言いつけを守る意味でも三階から見守ることになった。
「ねぇ、ちょっと!お主、わしをフルネームで呼ぶんじゃないよ!!今日という今日は許さんぞ!!厳つ過ぎるから嫌いなんじゃ!!モフ爺って呼べって何回言ったらわかるんじゃ!!」
モフ爺ことヴァルグリーフ・ルドモフはフルネームで呼ばれた事に大して大層お冠のようだ。モフ爺と呼べと、遂には床に転がり駄々を捏ねる。まるで、玩具を買って貰えない子どものような反応に商館員達は少々恥ずかしくなる。
「閣下、そのような事を申されましても…。素性を知らぬものなら未だしもこの国で…ましてや皇国に仕える憲兵が、恐れ多くもその様な呼称で呼ぶ勇気など持ち合わせておりますまい。」
「閣下?!フィヨルド…お主もモフ爺と呼ばんか!!嫌じゃ嫌じゃ!!嫌なんじゃあああああああああああ。」
これには、商館側も憲兵側も、同様に困惑し、手を焼いてしまう。
「「ニーナさん…」」
フローラとミルトが揃って、ニーナの名を呼ぶ。
「ええ、そうね。大丈夫。二人の言いたいことはもう聞かなくても分かってるから…。」
何とも言えない雰囲気を漂わせ、三人は無言で階段を下っていくのであった。
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