テイマーですが何か?

姓名は無し

文字の大きさ
17 / 99
3章

ミドレスト皇国 

しおりを挟む
旅の指針に合わせ、金策クエストの受注をしたフローラ達は、旅支度に各々一日を費やす運びとなった。
単独行動は久しぶりだ。とは言っても旅支度の必需品程度なら商館内で充分揃うだろう。
一応、フードの中にスライムのゆきじとあかちゃが、軟体を活かしフローラの両腕に、極限まで薄くして張り付いているのだ。
その様はサラマンダーとウンディーネが加工した衣を羽織っているようにみえる。
今度から張り付いててもらえばいいんじゃない?なんて、ニーナさんは冗談混じりに言ってくる。ミルトも、何故か興奮し、必要以上に首を縦に振り続けている。
ぷにぷにしたあの愛くるしい球体姿が良いのに、なんて言っても伝わんないよね。
二人には申し訳ないけど、個人的には…なんて思いつつ、触れてみる。
こ、これは…!?
ぷにぷにというより、少しハリのあるシャボン玉でも触っているかのような新触感にコレはコレでアリかも?と噯には出していないものの掌返しをする。
主人(フローラ)のリアクションに隠された真意はゆきじとあかちゃには筒抜けのようだった。
ローブを上から羽織っても、何の違和感もない。完璧だ。
「んー、何が必要かなぁ」
何品かは買っておきたいものがある。
そのお目当てのモノは値の張るものではない。
無理して使う必要もないのだが、どうしても貯めておかねばならない理由もない。
フローラは売り払った金袋を腰に下げ、魔具の店に足を運んでいた。
「…いらっしゃい。台座が必要かな」
魔道具店の主人は小柄なフローラを見て、指を鳴らす。
すると店内、床一面が青白い光を帯び始めた。
サービスの一環、補助魔法である。
これは、小人族や小柄なコのお客が商品の閲覧や物色をする際、床を浮かせることで、商品をお客が手に取りやすいように補助する魔導システムである。
魔道具店の主人にペコリと頭を下げ、店内を物色し始めた。
手に取って見れるモノからケース越しにしか確認出来ないモノと保管方法は二種類に分かれていた。
店内入口近くのまっさらなスクロールに手を伸ばす。
まっさらなスクロール:魔法の即時発動(インスタントトリガー)を可能にしたり、陣を描いて魔法そのものの修練・修得に用いる際に重宝される。
用途が多岐に渡る消耗品だ。
勿論、万能という訳ではない。
高難度魔法になればなるほど、その出力負荷にスクロールが耐え切れず、自壊してしまう恐れがあるため、納めておける魔法はスクロールの質によって限られている。
フローラは手にしたスクロールに回復魔法【キュア】を込める。
【キュア】…肉体的損傷(中)及び、一部の状態異常回復(毒、麻痺)、魔力回復(小)
スクロールに淡い光がぼわっと宿る。
無事に使えるようだ。
一度魔法を付与しても、発動までは上書き出来るのがスクロールの良いところで、売り物が自壊してしまう程の魔法を付与さえしなければ、こうして商品の質を確かめる事も出来る。
スクロールの自壊:魔法量の過多により、スクロールから魔力(マナ)漏れが起きた状態を指す。青い炎を上げ、燃え尽きてしまう現象。
中級魔法に、対応している程度には品質がいいものらしい。
さすが商館で買える代物だ。
品質を確かめられる点が正規店の良いところだ。裏市などの非正規店では商品の良し悪しを確認出来ない店ばかりだ。
商品の質の保証をする代わりに値が少しばかり張ってしまうのだが。
まっさらなスクロールを都合4枚程、追加で手に取り、店主に渡す。
「計、5枚で1銀貨です。」
フローラは金袋から銀貨1枚を取り出し、手渡しする。
「ありがとうございます。丁度ですね。」フローラは代金と引き換えにスクロールを受け取ると、バックパックの中にしまう。
「あの、長旅とかにオススメの品ってあったりますか?」
会計終わりにおすすめを聞く人はどれほどいるだろうか。
店主も少しキョトンとした顔をしてみせたが、すぐさま商売顔に戻る。

「ええ、それでしたら此方の商品は如何でしょう。」
店主は奥の在庫から、巻物を数種持ってくる。
「これは?」
「コチラは、身体強化のスクロールに御座います。お客様の左手から加速、筋力増強、精神治癒になります。魔法瓶(ポーション系)のような長時間の効果はありませんが、有事の際にはスクロールの方が使い勝手は宜しいかと。」
加速:AGI(素早さ)のステータスを短時間上昇。
筋力増強:STR(物理攻撃力)のステータスを短時間上昇。
精神治癒:魔力の回復及び、精神異常の緩和。
戦闘前に準備出来れば、それに越したことはないけれど回復薬(ポーション)を飲む余裕がない時もある。またポーションは割とお腹に溜まるので併用しづらい。体格のないフローラはポーションの複数種の多用は厳しい。
故に、身体能力向上・補助を巻物(スクロール)に頼ろうと思ったのは必然。
眼鏡に叶う商品の山々を、勧められるがまま、買い込んだフローラは手で持ちきれない量になってしまった。

「お買い上げ頂いた商品は此方で全てですかね?」
「はい、ありがとうございます」
いえいえ、また御贔屓に。とフローラに軽く会釈し、立ち去っていく商館員。
荷馬車に運んでもらったのは良いものの、荷台にどう詰め込んだらいいものか…。
フローラは片付け、整理整頓が苦手なのだ。
なんせ、実家にいた時ですら大量の本に囲まれながら寝ていたくらいなのだから。
(ニーナさんんん…助けて)
どうしたものかと御者席に座っているフローラは溜息をつく。

天井の梁を見ながら反省していると、空間が歪んだようにみえた。
(涙目のせいかな、うん。景色まで歪んで見えるよ)
目尻に溜まった涙を振り払う。
(………。あれ、やっぱり歪んでない??ニーナさん達に報告した方がいいよね…?)
歪みを注視しながら立ち上がろうとした矢先、少年が降ってきた。
慌てて【ウォータ】を行使する。
少年は分厚い水のクッション…に入水する事で落下から身の安全を得る。
水の中から出してあげようと水塊を操るものの、制御が効かない。
何故か、少年の周りに引き寄せられてしまうのだ。
魔力操作の練度不足だと思い込んだフローラは、ローブを脱ぎ捨てて、入水しようと馬車から降りた。
しかし、心配は杞憂に終わる。
【ウォータ】で作られた水塊がみるみる少年の口に吸い込まれていくのだ。
「けっぷぅ~。なんだこの魔法水!!!極上じゃん!!この水あんたが作ってくれたのオイラちゃーーーんと、この目で見てたぞ!」
立ち尽くしているフローラに近寄る少年の目は左右異なる輝きを放っては、にかっと小気味の良い笑みを浮かべ見下ろしてくる。
短髪に刈り上げられた髪に、きりっとした眉は清潔感や男らしさが窺える。
左眼が猩々緋色、右眼が濡羽色のオッドアイであった。
彼の身長は130C(せるち)ほどで、100C(せるち)のフローラが見上げるのは恒例だ。
寧ろ、フローラと目線が同位になる人物など種族的に小人族や幼子達くらいだ。
鮮やかな緋色とは対極で、底の見えない漆黒は1度見れば忘れないだろう程、印象的だ。
「んん?オイラの顔に何かついてるんか?」
「あ、えっと、ごめんなさい!身体は平気?上から急に現れて、落ちてきたからわたし咄嗟に…。でもどこから…どうやって…」
「気にする事ないよ、寧ろ助かったぁ~!!こっちに来るだけで、魔力すっからかんになっちまって、その上あんなに美味え水(魔力)喰わせてくれるなんてなぁ!!」
こちらの疑念には答えず、意味深長な発言をさらに重ねる。満面の笑みで左手を差し出される。
(感謝の握手かな…?)
困惑しながら、差し出された手を無碍にするのも気が引けたフローラは右手を差し出す。
「おめぇ、ほんとに変わってんなぁ!!綺麗なスライム使役してるし!不愉快になんねえなんて。半分でもエルフの血混ざってんのになぁ。…オイラ、おめぇの事気に入った!名はなんて言うんだい?」
フローラが差し出した右手を両手で握ってきたと思ったら、ぶんぶんと上下に振る少年は早口で喋る喋る。
そして疑問が浮上する。
エルフかハーフエルフなんて見分けがつくわけないのに、目の前の少年はハーフエルフだと見抜いたのだ。
驚愕と怪訝を織り交ぜた顔をするフローラの心の内を読んだかのように、にぃっと愉快そうに微笑んだ。
「あー、大丈夫大丈夫!どうして天井から降ってきたとか、空間の歪みとかどうやってハーフエルフなの見抜いたとかだろー?何考えてんのか分かっから!オイラはルシファー。元天使…んや堕天使にして、今はちょっとした悪魔だかんな!」
目の前に現れた存在は堕天使こと悪魔らしい。
フローラは驚きを通り越して、冷静になる。悪魔って事にした方が納得がいく。
(…って絶対絡んじゃダメな部類じゃ…?)
得体の知れない危険人物…いや危険悪魔と接点を持ってはいけません?!と母(セティ)の声を幻聴しては、額に汗をかく。
急に召喚獣と契約した時のようだ。
急という意味では、前例がある分飲み込みも早い。
「はじめまして、フローラ・エスメラルダです。えっと、ルシファーさま?はどうして此処に降ってきたのでしょう?」
「堅い堅いよ!フローラちゃん!オイラ達もう友達だろ!?オイラの命の恩人であるフローラちゃんにそーんなに畏まられちゃ聞いてるこっちがくすぐったくなっちゃうやい!タメ口でな!だからまず、ルシファーって呼び捨てでね!!!」
目配せ(ウインク)をばっちりキメる顔は伊達ではない。サマになっている。
流石、元天使…!!
押しの強さはニーナばりか、はたまたそれ以上か。
フローラは会話を円滑に進めるべく、明らかな高次元体にタメ口で話す腹を据える。
「…色々飲み込んだ!うん、ルシファーはどうしてこっちにきたの?」
「そうこなくっちゃ!オイラがこっちにきたのはダンジョン作ってやろうと思ったのさ!オイラは今はアマイモンさまに仕えてんだけどさ、自力で向こう側から地獄の門開くのって結構大変でさぁ~。上司にお願いして人間界に飛ばしてもらったわけよ!そしたらココだったってだけさ!飛ばしてくれたのは有難いんだけども魔力ぜーんぶ吸い取られちゃうんだもん!良いのか悪いのか分かんないよね、ははは」
ルシファーは聞いてもない事も含め、楽しげに話してくれる。
(それじゃ、ダンジョンがここら辺に造られるってこと?こんな城下町にダンジョンが出来たら大変な事になる?
私余計なことした??でもアレは助けずにはいられなかったろうし…はぁ。)
過ぎ去ってしまったことに一抹の後悔を覚え、顔を曇らせる。
「きゃはは!フローラは優しいな!!ほんとはダンジョン攻略者に渡す予定の能力だったけど受け取りな!ダンジョン造るのは止めにしてあげられない代わりさ!それと…ふむ。“オイラが近々訪れる未来助けてやるよ”」
握られたままの手が熱い。終始言う事に含みを持たせてくるため、整理が追い付かない。
ルシファーの魔力が流れ込んでくるのが分かる。明らかにフローラが魔力で作り上げた水塊のそれ以上が。
召喚獣の時とは真逆の感覚にフローラは、魔力酔いを感じ、立っていられなくなる。
「【次元空間】に【魔獣語】、とっておきはオイラ達との【悪魔契約】さ!って流石に酔っちゃうか~。よっと!」フローラを横抱きに抱きかかえ、御者席に座らせる。
「フローラのお悩み解決スキルセット!【次元空間】で買い過ぎた荷物もすっきり解決!【魔獣語】持ちのテイマーなら魔物とも意思疎通取り放題!!我ながらすーごく良いことした気分。悪魔なのにッ!!!きゃはは!本来悪魔と契約なんて早々できないんだけど、この【悪魔契約】スキルさえあれば出来ちゃうんだぜ?…む。そろそろオイラは行くぜ?フローラちゃんのお仲間さんがやってきそうだからな!オイラとは接触(コンタクト)済みだから、したくなったらいつでもよんでくれよな!」
それだけ言うとルシファーの身体から黒煙が立ち、吸い込まれるように姿をくらました。
(色々説明されたけど…)
当初、困り果てていた荷物問題があっさりと解決させ、独りで喋っては勝手に消えていった悪魔に、どうせなら魔力酔いもなんとかしてよって思いを馳せながら意識を落とした。

「「…!」」
程なくして、御者席でぐったりしているフローラは、ニーナ達に保護された。
「ここは…?宿部屋?」
フローラは意識を失ったようで、ニーナとミルトがベッドに運んでくれたようだ。
「あ、起きた?お水は要る?」
既に水が注がれたガラスコップを差し出される。
「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」
フローラはコップを貰い、水を一口、口に含む。
「ミルトに報告だけ言ってくる、フローラちゃんはゆっくりしてて。何があったのかはまた明日にでも聞かせてね。」
それだけ言うと、ニーナは部屋から出ていく。
ニーナの気遣いがありがたかった。
酔いがなくなったとはいえ、身体のだる重さは抜けていなかったから。
眠気も酷く、正直説明する気分でもなかった。
水を飲み干すと、眠気に身を委ねた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...