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契りの刻
第64話 理玖の限界と鈴凪の覚悟
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迦具土の炎が理玖を襲った。九尾の力で炎の壁を作り、なんとか防御するが、衝撃で理玖の体が壁に叩きつけられる。
「ぐっ……」
理玖の口から血が溢れた。封印の影響は想像以上に深刻で、本来なら余裕で防げるはずの攻撃すら満足に防げない。
「どうした、理玖よ」
迦具土は嘲るような笑みを浮かべながら近づいてきた。
「百五十年前の威勢はどこへ行った? まさか人間との交わりで、そこまで力が落ちたのか?」
理玖は立ち上がろうとしたが、膝が震えて思うように体が動かない。
「理玖様!」
鈴凪が駆け寄ろうとしたが、慎吾が彼女の腕を掴んで止めた。
「駄目だ! 君まで巻き込まれる!」
「離してください!」
鈴凪は慎吾の手を振り払った。その瞬間、彼女の体から金色の光が溢れ出し、慎吾は驚いて手を離した。
「鈴凪さん……君のその力は……」
慎吾と鈴凪の動きを他所に、迦具土は理玖の前に立ち、その姿を見下ろしていた。
「情けないものだな。昔のお前なら、こんな小細工など通用しなかったものを」
炎の鞭が理玖の頬を打った。深い切り傷ができ、血が流れる。
「百五十年前、おまえは妖の誇りを捨てて人間の女に走った」
もう一度、炎の鞭が理玖の肩を打つ。
「そして今度は、別の人間の女に魂を売った」
「黙れ……」
理玖が呟いたが、迦具土の耳には届かない。
「その報いを今、受けるがいい」
迦具土が両手を広げると、周囲の温度が急激に上昇した。石造りの床が溶け始め、空気が陽炎のように揺らめく。
「妖としての誇りを失った者に、生きる価値などない」
その時、理玖に向かって、小夜が横から封式断刃を振り下ろした。
「妖は妖、人は人。境界を乱すものは全て排除する」
理玖は咄嗟に横に転がったが、刀身が肩口を掠め、新たな傷を作った。
「高師小夜……」
「おまえのような半端者が、一番厄介なのだ!」
小夜の瞳には狂気が宿っていた。
「人間に情けをかけ、妖の仲間を裏切る。どちらの世界でも中途半端な存在など、消えてしまえ」
理玖は二正面作戦を強いられ、完全に追い詰められた。迦具土の圧倒的な力と小夜の執拗な攻撃に挟まれ、もはや反撃する余力も残されていない。
「くそ……この程度の力では……」
理玖の視界が霞んできた。このままでは、本当に死んでしまうかもしれない。
その時――。
「やめてください!」
鈴凪の声が戦場に響いた。
慎吾の制止を振り切り、鈴凪が理玖の前に立ちはだかったのだ。
「鈴凪、逃げろ!」
理玖が叫んだが、鈴凪は動かなかった。首に掛けられた理玖の鈴が、警告を発するようにリン、リンと小さく鳴り響いている。
「理玖様」
鈴凪は振り返り、理玖を見つめた。その瞳には、もはや恐怖はなかった。あるのは、深い愛情と不屈の意志だけだった。
「私、やっと分かりました」
迦具土と小夜が一瞬攻撃を止め、鈴凪を見つめた。
「昨夜から胸の奥で感じていたこの力。それが何なのかを……」
鈴凪の体から、金色の光がより強く輝き始めた。
「これは百合様の記憶から来る力ではありませんでした。私自身の、愛する気持ちから生まれる力なのです」
「鈴凪……」
理玖の瞳が見開かれた。
「私はもう怖くありません。理玖様を失うこと以上に、怖いことなどありません」
鈴凪は両手を広げ、理玖を庇うように立った。
「だから、理玖様を傷つける人は、誰であろうと私が許しません」
金色の光が鈴凪を包み、その光は迦具土の炎すら圧倒する輝きを見せた。
「なんだと……?」
迦具土が眉をひそめた。
「人間の小娘が、この私の力を……」
「馬鹿な」
小夜も驚愕していた。
「人間がそんな力を持てるはずが……」
迦具土が驚愕するも、鈴凪の力は本物だった。金色の光が結界となって理玖を包み込み、迦具土の炎も小夜の封術も跳ね返してしまう。
「鈴凪……君は……」
理玖は鈴凪の後ろ姿を見つめていた。その背中は小さいのに、今はとてつもなく大きく、頼もしく見えた。
(鈴凪はもう、守られているだけの存在じゃない。今の鈴凪は……)
一方、少し離れた場所で見ていた慎吾は、複雑な表情を浮かべていた。
「鈴凪さん……」
慎吾の胸に、諦めと同時に新たな感情が芽生えていた。それは失恋の痛みを超えた、純粋な願いだった。
「君はもう本当に、僕の知っている君じゃないんだな……」
慎吾は自分の武器を地面に置いた。
「でも、それでも君を護りたい。君が選んだ道を、君が愛した人を護りたい」
慎吾は理玖たちの方へ歩き始めた。朧月会の制服を着ていながら、その瞳には迷いがなかった。
「慎吾さん……」
鈴凪が振り返ると、慎吾は苦しそうな、でも穏やかな笑みを浮かべていた。
「君の幸せが、僕の幸せだ。だから……」
慎吾は理玖の隣に立った。
「一緒に戦わせてくれ」
理玖は慎吾を見つめ、やがて頷いた。
「ありがとう、真壁」
三人の絆が、新たな力を生み出そうとしていた。迦具土の圧倒的な力と小夜の狂気に対して、愛と友情で立ち向かう――それは絶望的に見えて、希望に満ちた光景だった。
「面白い」
迦具土が再び笑みを浮かべた。
「人間と妖が手を組むか。だが、愛だの友情だのという綺麗事で、この私を倒せると思うのか?」
迦具土の全身から、さらに強烈な炎が噴き出した。要塞の天井が完全に溶け落ち、夜空が見えるほどの破壊力だった。
「今度こそ、お前たちをまとめて灰にしてやる」
最後の戦いが、始まろうとしていた。
鈴凪は理玖の手を握った。その手は、もう震えていなかった。
「理玖様。今度は二人で、一緒に戦いましょう」
「ああ」
理玖も鈴凪の手を握り返した。
「鈴凪と一緒なら、どんな敵でも恐くない」
慎吾もまた、二人の隣に立った。
「三人で、か。悪くない」
愛と友情の絆が、絶望的な状況に一筋の光を差し込もうとしていた。
「ぐっ……」
理玖の口から血が溢れた。封印の影響は想像以上に深刻で、本来なら余裕で防げるはずの攻撃すら満足に防げない。
「どうした、理玖よ」
迦具土は嘲るような笑みを浮かべながら近づいてきた。
「百五十年前の威勢はどこへ行った? まさか人間との交わりで、そこまで力が落ちたのか?」
理玖は立ち上がろうとしたが、膝が震えて思うように体が動かない。
「理玖様!」
鈴凪が駆け寄ろうとしたが、慎吾が彼女の腕を掴んで止めた。
「駄目だ! 君まで巻き込まれる!」
「離してください!」
鈴凪は慎吾の手を振り払った。その瞬間、彼女の体から金色の光が溢れ出し、慎吾は驚いて手を離した。
「鈴凪さん……君のその力は……」
慎吾と鈴凪の動きを他所に、迦具土は理玖の前に立ち、その姿を見下ろしていた。
「情けないものだな。昔のお前なら、こんな小細工など通用しなかったものを」
炎の鞭が理玖の頬を打った。深い切り傷ができ、血が流れる。
「百五十年前、おまえは妖の誇りを捨てて人間の女に走った」
もう一度、炎の鞭が理玖の肩を打つ。
「そして今度は、別の人間の女に魂を売った」
「黙れ……」
理玖が呟いたが、迦具土の耳には届かない。
「その報いを今、受けるがいい」
迦具土が両手を広げると、周囲の温度が急激に上昇した。石造りの床が溶け始め、空気が陽炎のように揺らめく。
「妖としての誇りを失った者に、生きる価値などない」
その時、理玖に向かって、小夜が横から封式断刃を振り下ろした。
「妖は妖、人は人。境界を乱すものは全て排除する」
理玖は咄嗟に横に転がったが、刀身が肩口を掠め、新たな傷を作った。
「高師小夜……」
「おまえのような半端者が、一番厄介なのだ!」
小夜の瞳には狂気が宿っていた。
「人間に情けをかけ、妖の仲間を裏切る。どちらの世界でも中途半端な存在など、消えてしまえ」
理玖は二正面作戦を強いられ、完全に追い詰められた。迦具土の圧倒的な力と小夜の執拗な攻撃に挟まれ、もはや反撃する余力も残されていない。
「くそ……この程度の力では……」
理玖の視界が霞んできた。このままでは、本当に死んでしまうかもしれない。
その時――。
「やめてください!」
鈴凪の声が戦場に響いた。
慎吾の制止を振り切り、鈴凪が理玖の前に立ちはだかったのだ。
「鈴凪、逃げろ!」
理玖が叫んだが、鈴凪は動かなかった。首に掛けられた理玖の鈴が、警告を発するようにリン、リンと小さく鳴り響いている。
「理玖様」
鈴凪は振り返り、理玖を見つめた。その瞳には、もはや恐怖はなかった。あるのは、深い愛情と不屈の意志だけだった。
「私、やっと分かりました」
迦具土と小夜が一瞬攻撃を止め、鈴凪を見つめた。
「昨夜から胸の奥で感じていたこの力。それが何なのかを……」
鈴凪の体から、金色の光がより強く輝き始めた。
「これは百合様の記憶から来る力ではありませんでした。私自身の、愛する気持ちから生まれる力なのです」
「鈴凪……」
理玖の瞳が見開かれた。
「私はもう怖くありません。理玖様を失うこと以上に、怖いことなどありません」
鈴凪は両手を広げ、理玖を庇うように立った。
「だから、理玖様を傷つける人は、誰であろうと私が許しません」
金色の光が鈴凪を包み、その光は迦具土の炎すら圧倒する輝きを見せた。
「なんだと……?」
迦具土が眉をひそめた。
「人間の小娘が、この私の力を……」
「馬鹿な」
小夜も驚愕していた。
「人間がそんな力を持てるはずが……」
迦具土が驚愕するも、鈴凪の力は本物だった。金色の光が結界となって理玖を包み込み、迦具土の炎も小夜の封術も跳ね返してしまう。
「鈴凪……君は……」
理玖は鈴凪の後ろ姿を見つめていた。その背中は小さいのに、今はとてつもなく大きく、頼もしく見えた。
(鈴凪はもう、守られているだけの存在じゃない。今の鈴凪は……)
一方、少し離れた場所で見ていた慎吾は、複雑な表情を浮かべていた。
「鈴凪さん……」
慎吾の胸に、諦めと同時に新たな感情が芽生えていた。それは失恋の痛みを超えた、純粋な願いだった。
「君はもう本当に、僕の知っている君じゃないんだな……」
慎吾は自分の武器を地面に置いた。
「でも、それでも君を護りたい。君が選んだ道を、君が愛した人を護りたい」
慎吾は理玖たちの方へ歩き始めた。朧月会の制服を着ていながら、その瞳には迷いがなかった。
「慎吾さん……」
鈴凪が振り返ると、慎吾は苦しそうな、でも穏やかな笑みを浮かべていた。
「君の幸せが、僕の幸せだ。だから……」
慎吾は理玖の隣に立った。
「一緒に戦わせてくれ」
理玖は慎吾を見つめ、やがて頷いた。
「ありがとう、真壁」
三人の絆が、新たな力を生み出そうとしていた。迦具土の圧倒的な力と小夜の狂気に対して、愛と友情で立ち向かう――それは絶望的に見えて、希望に満ちた光景だった。
「面白い」
迦具土が再び笑みを浮かべた。
「人間と妖が手を組むか。だが、愛だの友情だのという綺麗事で、この私を倒せると思うのか?」
迦具土の全身から、さらに強烈な炎が噴き出した。要塞の天井が完全に溶け落ち、夜空が見えるほどの破壊力だった。
「今度こそ、お前たちをまとめて灰にしてやる」
最後の戦いが、始まろうとしていた。
鈴凪は理玖の手を握った。その手は、もう震えていなかった。
「理玖様。今度は二人で、一緒に戦いましょう」
「ああ」
理玖も鈴凪の手を握り返した。
「鈴凪と一緒なら、どんな敵でも恐くない」
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