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島国の戦士
第45話 哀悼 ~鴇汰 1~
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葬儀のあと、巧に呼び出されて、麻乃と修治をのぞいた六人が軍部の会議室に集まった。
今朝、岱胡が部屋に来たときの話しでは、なにか大切な話しがあるらしいとのことだ。
(よりによって今日かよ。午後は仕込みに時間をかけようと思ってたのに……長引くと夕飯に間に合わなくなる)
時計を見た鴇汰の頭には、夕飯の献立のことしかない。
今、報告書をまとめているんだけど、と前ふりをしてから巧と穂高が話しを始めた。
「おとといのことなんだけどね、西浜にまた襲撃があったの」
「戦艦は一隻、砦に砲撃があっただけで、兵もおりてこないまま撤退していったよ」
「被害は砦が崩れただけだったけど、このところ、大陸の様子がおかしいと思わない?」
二人の話しに徳丸と岱胡がうなずいている。
「俺は先だっての怪我で今は休んでいるが、これまでの報告書は読んでいる。どれもこれも、大した被害は受けてないが、ここ十日ばかりでどの浜も襲撃を執拗に受けてるな」
「こっちは楽って言えば楽ッスけど、目的の見えてこない襲撃を何度も受けるのは、薄気味悪いスよね」
暇をもてあましたらしい岱胡は、カチャカチャと自分の銃を分解し始めた。
「それでね、ちょうど諜報の連中が大陸に出ている今、どんなささいなことでもいいから、できるだけ多くの情報を集めたいと思ってるの。その件では上層部にもかけ合ってみるつもりなんだけど……」
「大陸の状況以外にも、てことッスか?」
「そう。例えば、庸儀には今、際立って能力の高い武将や戦士はいるのかってことをね」
「しかしな、大陸に討って出るワケでもないのに、それほどの情報が必要か?」
みんなの同意を求める積極的な巧とは逆に、徳丸は賛成しかねる様子をみせた。
「いや、もしも大陸になにか大きな変化があって、僕らで対処できないような状況に変わっていたら、なにも知らないまま、ここでいつものように受けて立ったところで、防衛が可能とは言い切れないでしょ。先に情報をつかんでおけば、迅速に対処できることも多くあると思うよ」
「うん、情報はあって損はないと思うね。後手に回ってなにもできないまま、つぶされてしまうかもしれない。状況がわかっていれば、こっちも構えてすぐに動ける」
梁瀬と穂高が、巧を援護している。
「討って出るわけじゃないからこそ、情報が必要なのよ。ねぇ。防衛するってことは、受け身でいることとは違うでしょ?」
「そりゃあわかるけどな、詳細に情報を集めるとなると、長く大陸にいなけりゃならないだろう? そうなると諜報のやつらを危険にさらすことになるんじゃねぇのか?」
腕を組んで目を閉じたまま、徳丸の表情は明らかに渋っている。雲ゆきが怪しくなってきた気がして、鴇汰は徳丸と巧を交互に見た。
「別に長く潜り込ませる必要はないわよ。短期で少しずつでも新しい情報を集めれば、自ずといろいろみえてくるじゃない」
「だからって、なにをやらせてもいいってワケじゃねぇだろうが」
「私たち泉翔の人間は、なんのために十六まで武術を学んでいるのよ。いざともなれば、その身の一つくらいは自分で守れるようになるためじゃないの?」
「そうはいっても大陸だぞ? なにかあってもすぐに助けに行ける場所じゃねぇんだ。上層だってきっと、同じことを言うだろうよ」
「なによ? トクちゃんは反対だっていうの? このあいだは上層は現場に厳しいなんてぼやいていた癖に」
ついに巧と徳丸が睨み合った。
なにかことを起こすときには、いつも意見が合い、協力し合っている二人が、今は真っ向から対立している。
今にもどちらかが怒鳴り出しそうな雰囲気に、岱胡もすっかり飲み込まれているのか組上げ途中の銃をそっと机に置いた。
「ちょっと待てよ。これってだいじな話しなんだろ? 麻乃たち抜きで進めていいのかよ?」
それまで黙って聞いていた鴇汰は、二人のあいだに割って入った。喧嘩でもされたら、ますます帰る時間が遅くなる。そうなったら夕飯どころじゃなくなってしまう。せっかくのチャンスなのに冗談じゃない。鴇汰はそう思っていた。
「おとといの敵襲があったとき、あの二人、浜に駆けつけてくれてね、この話しをしたのよ。シュウちゃんも同じことを考えていたって言うし、麻乃も情報を集めるなら知りたい、って言ったわ」
「ふうん……そんなら俺は別に反対はしないよ。それに情報を集めるったって、今、諜報のやつらが調べてることに少し上乗せするくらいなんだろ?」
「もちろんそうよ。定期的に、少しずつね。今は庸儀のことだけでも、急いで集めたいんだけど。トクちゃん、事態は急を要するかもしれないのよ」
今朝、岱胡が部屋に来たときの話しでは、なにか大切な話しがあるらしいとのことだ。
(よりによって今日かよ。午後は仕込みに時間をかけようと思ってたのに……長引くと夕飯に間に合わなくなる)
時計を見た鴇汰の頭には、夕飯の献立のことしかない。
今、報告書をまとめているんだけど、と前ふりをしてから巧と穂高が話しを始めた。
「おとといのことなんだけどね、西浜にまた襲撃があったの」
「戦艦は一隻、砦に砲撃があっただけで、兵もおりてこないまま撤退していったよ」
「被害は砦が崩れただけだったけど、このところ、大陸の様子がおかしいと思わない?」
二人の話しに徳丸と岱胡がうなずいている。
「俺は先だっての怪我で今は休んでいるが、これまでの報告書は読んでいる。どれもこれも、大した被害は受けてないが、ここ十日ばかりでどの浜も襲撃を執拗に受けてるな」
「こっちは楽って言えば楽ッスけど、目的の見えてこない襲撃を何度も受けるのは、薄気味悪いスよね」
暇をもてあましたらしい岱胡は、カチャカチャと自分の銃を分解し始めた。
「それでね、ちょうど諜報の連中が大陸に出ている今、どんなささいなことでもいいから、できるだけ多くの情報を集めたいと思ってるの。その件では上層部にもかけ合ってみるつもりなんだけど……」
「大陸の状況以外にも、てことッスか?」
「そう。例えば、庸儀には今、際立って能力の高い武将や戦士はいるのかってことをね」
「しかしな、大陸に討って出るワケでもないのに、それほどの情報が必要か?」
みんなの同意を求める積極的な巧とは逆に、徳丸は賛成しかねる様子をみせた。
「いや、もしも大陸になにか大きな変化があって、僕らで対処できないような状況に変わっていたら、なにも知らないまま、ここでいつものように受けて立ったところで、防衛が可能とは言い切れないでしょ。先に情報をつかんでおけば、迅速に対処できることも多くあると思うよ」
「うん、情報はあって損はないと思うね。後手に回ってなにもできないまま、つぶされてしまうかもしれない。状況がわかっていれば、こっちも構えてすぐに動ける」
梁瀬と穂高が、巧を援護している。
「討って出るわけじゃないからこそ、情報が必要なのよ。ねぇ。防衛するってことは、受け身でいることとは違うでしょ?」
「そりゃあわかるけどな、詳細に情報を集めるとなると、長く大陸にいなけりゃならないだろう? そうなると諜報のやつらを危険にさらすことになるんじゃねぇのか?」
腕を組んで目を閉じたまま、徳丸の表情は明らかに渋っている。雲ゆきが怪しくなってきた気がして、鴇汰は徳丸と巧を交互に見た。
「別に長く潜り込ませる必要はないわよ。短期で少しずつでも新しい情報を集めれば、自ずといろいろみえてくるじゃない」
「だからって、なにをやらせてもいいってワケじゃねぇだろうが」
「私たち泉翔の人間は、なんのために十六まで武術を学んでいるのよ。いざともなれば、その身の一つくらいは自分で守れるようになるためじゃないの?」
「そうはいっても大陸だぞ? なにかあってもすぐに助けに行ける場所じゃねぇんだ。上層だってきっと、同じことを言うだろうよ」
「なによ? トクちゃんは反対だっていうの? このあいだは上層は現場に厳しいなんてぼやいていた癖に」
ついに巧と徳丸が睨み合った。
なにかことを起こすときには、いつも意見が合い、協力し合っている二人が、今は真っ向から対立している。
今にもどちらかが怒鳴り出しそうな雰囲気に、岱胡もすっかり飲み込まれているのか組上げ途中の銃をそっと机に置いた。
「ちょっと待てよ。これってだいじな話しなんだろ? 麻乃たち抜きで進めていいのかよ?」
それまで黙って聞いていた鴇汰は、二人のあいだに割って入った。喧嘩でもされたら、ますます帰る時間が遅くなる。そうなったら夕飯どころじゃなくなってしまう。せっかくのチャンスなのに冗談じゃない。鴇汰はそう思っていた。
「おとといの敵襲があったとき、あの二人、浜に駆けつけてくれてね、この話しをしたのよ。シュウちゃんも同じことを考えていたって言うし、麻乃も情報を集めるなら知りたい、って言ったわ」
「ふうん……そんなら俺は別に反対はしないよ。それに情報を集めるったって、今、諜報のやつらが調べてることに少し上乗せするくらいなんだろ?」
「もちろんそうよ。定期的に、少しずつね。今は庸儀のことだけでも、急いで集めたいんだけど。トクちゃん、事態は急を要するかもしれないのよ」
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