眠りし魔女は未来に生きる

甲斐 結城

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聖女リオン

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 結晶が砕ける音に目覚めたリオンは若干空中に浮いていたようで危ないと判断してとっさに重力を制御してゆっくりと降り立った。

 リオンは自身の封印にたいして細工をしていた。本当の封印では瞬きではるか時を経ているだなんてつまらないことになりかねなかったので、睡眠という形で結晶にこもっていたのだ。だから体感としては一晩明けた頃合いのようなものだった。

 ただ誤算だったのが、結晶が砕け散る際に圧縮していた時が光となって拡散してしまったのだ。流石のリオンも寝起きで目が辛かったのでゆっくりと目を開いて周囲の確認を行った。

 どうやら封印時のまま洞窟の中のようなのだが、目の前には見知らぬ人が立っていた。悪い存在ではなさそうなのでいろいろと話をきこうと近寄ると、

「……はっ!い、いけません!足元には結晶の欠片が!ってあれ?ないです?」

などといったのちに頭を抱えて唸り始めた。結晶の欠片はおそらく光の放出時に欠片も光を出して内包された全エネルギーを使用したからないのだろう。

 そう結論を出して歩み寄るとまだ頭を抱えていたので心配となり声をかけると突然倒れた。とっさに手を出して頭を打たない様抱えたが放置しておくわけにもいかないのでとりあえず安静にさせておくとする。


  ~~~


「……ぅん。うん?ここは……」

「おや、目が覚めたか。おはよう」

「……」

 目が覚めたようなのでこえをかけたが呆然としたかのように無反応である。

 みたところ無事そうなのどうしたのだろうかと首をかしげると彼女の顔にリオンの髪が少しかかってしまった。

「……はっ!こ、ここは……。あなたは……も、もしかして聖女様ですか!?」

「うん?聖女?よくわからないけど私の名前はリオンだよ。目覚めたら君がいたので声をかけたのだけど何やら突然倒れたんだよ。とりあえずこうして休ませているって感じだね」

「あ、そうでしたか。ありがとうございます。ところで、あの、なぜそんなに顔がちかいのでしょうか?」

「あぁ、今膝に頭をのせてるからね。ごめんね。おろすから少し待ってね」

 そうして頭をおろそうとすると突然身体を起こしてこちらに向かって頭を下げてきた。

「すすすすすみません!聖女様のお膝を借りただなんて……」

「いや構わないよ。あとわたしはリオンだよ。聖女様って何のこと?」

 勢いをつけずに筋肉のみで起き上がるとは。しかもあの速度で。この子はみかけによらず武闘派なのかな?とリオンはくだらないことを考えながら先程からおそらく自分を指すのであろう呼称についてきいてみる。

「はい。聖女様というのは、えっと、リオン様のことです。おそらく、ですが。確認ですが、先程までこの部屋の中央に結晶があったのですがリオン様はその中におられましたか?」

「うん、いたよ。え、じゃあ私が聖女って呼ばれてるの?なんで?」

 割と本気で不思議がっていた。昔というか、眠る前は魔女と呼ばれて恐れられていたから山に引きこもっていたのだ。それがなぜか聖女と呼ばれている。今の世の中では魔女を聖女と呼ぶのだろうか。

「それはですね、初代国王がそうお呼びしていたからだときいております。あと、この国の建国時から、結晶の中で眠っておられたリオン様に、国に危険が及んだときにこちらで助けていただくよう当時の国王陛下の方々が願う度に助けていただいたからです。それにこれまでの王族にはときに悪しき心の方もおられたそうですが、その場合は叶わずむしろ破滅へと進んだとか。そうして善の願いでこれまで国を助けていただいたので聖女と呼ばれている、と私は思っております。まぁ二つ目の理由は私の推測でしかないのですが」

 なるほど、と思いつつもそれ以上に不可解なのがなぜ私が彼らの願いを叶えていたのだろうか、と思考に耽る。

「……まぁ、アレだろうな。そういうことか」

とあたりを見渡した後小さく呟き納得したリオンは改めてリディアードをみる。

「ところで君は?きいた感じでは貴族、いや王族なのかな?」

「失礼しました。私はこの国の、いえ、ここオルレシア王国の第ニ王女のリディアード・オルレシアと申します」

「へぇーそうなんだ。私がいた頃にはオルレシア王国って名前はきいたことなかったなぁ。ここって建国してからどれぐらいなの?」

「えっと、300年ぐらいだったかと」

「んー、想定より少し短いかな。いや、最低でも300年か。だとしたらいいぐらいかな。よし」

 眠っていた理由を思い出し私は問う。

「ではとりあえず最後の質問を」

「はい、最後と言わずいくらでもどうぞ」

「それだと時間がもったいないからいいの。今の世の中の発展具合ってどんな感じ?特に魔法とかそのあたり」

 そう、リオンが自身を封印した理由は未来への期待だったはずだ。片方はどうやらかなっているようだが新しい魔法についてはどうなのだろうか。300年以上だったとしても体感では昨日なはずなのだがうまく思い出せないのだ。寝すぎると頭が痛くなるが、それのせいかな?と頭の片隅でかんがえる。

「どう、と問われましても……。その、リオン様の時代がどうだったのかがわからないのではっきりとはいえませんが、魔法の分野も含めていくつか新しいものが発見、開発されているはずです。それに我が国には周辺国家一と自負している学園があります。それに王城には研究者のための塔がたっていたりするのでリオン様のご要望にはお応えできると思います」

「そっか、よかった。ならこれからいろいろと楽しみがいっぱいだね」

 表面上冷静そうに振舞っているが内心では小躍りしているぐらいの情報である。あんなことをきいたが少なくとも技術の発達については既にわかっていた。魔法以外についてはあまり詳しくないが、リディアードの服装が明らかに封印の前よりも良質にみえる。王族だからかもしれないが最後にみた人間の王族よりも立派だろう。しかも、だ。学園や研究者のための塔だとかとても魅力的な単語がでてきて、今すぐにも飛んで行きたいくらいの気持ちなのだ。

 それらを知ってか知らずかリディアードは私に向かって無言でにっこりと微笑んだ。
 
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