眠りし魔女は未来に生きる

目覚め

　オルレシア王国の王族直轄地のとある山の中には人知れずひっそりと神殿が建っている。そこは歴代の王族とごく一部の官僚しか知らない。

　第ニ王女のリディアードは神殿の清掃に訪れていた。なんでも初代国王が建国の頃にここに神殿を築かせ代々の王族の女性が結婚するまでの間定期的に秘密裏に清掃を行うものとしたためだ。

　王族や貴族といった人種はそうじて清掃などは基本自分では行わないものだ。だがリディアードは幼い頃からやっているせいか清掃を苦としていない。ことこの神殿についてならむしろ積極的なぐらいだ。なぜならこの神殿にはずっと昔から、初代国王の言葉から推測するに建国時からあるのであろう聖女が入った聖なる結晶があり、それを眺めるのが好きだからだ。

　その結晶に眠る真っ白な衣装に身を包んだ聖女は昔からこの国を災厄から守ってくれてきたとされている。嵐がきたときはそれをしずめ、飢饉がおきたときは豊作が訪れ、災厄級の魔物が暴れたときは大量の落雷で退治されるなどがあったらしい。だが、不純な心で祈っても何も起こらず逆に破滅に陥ることもあったのだとか。

　だが、彼女は願いを叶えてくれるだとかそういうことに関係なくこの聖女のことを大切に思っていた。
　

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「……ふぅ。このぐらいですかね。綺麗に掃除することのなんと気持ちのいいことでしょうか」

　彼女は背をそらし腰をトントンと軽く叩く。

「それでは本日の清掃はこれで終わりにしましょう。ではおかたづけおかたづけ」

　清掃を代々続けてきたとはいえやる側は王城で育ってきた王女である。なので清掃道具は一般的なものではなく魔道具を用いるのだが彼女は簡単なものであればほうきや雑巾などで掃除を行おうとつとめていた。

　それらの清掃道具を所定の位置に片付けた後彼女は結晶で眠る聖女を眺めていた。

「はぁ、いつみてもお美しいです。いつかお目覚めになられるのでしょうか。もしそうなればお友達になれるといいのですが……」

　彼女は結晶を愛おしそうに撫でる。たとえそうしていても結晶から聖女が出てきてくれることはないとわかってはいるのだが、願いをききとどけるといわれているのだがらこうしていれば少しは変化があるのではないかと期待している自分を心のどこかで理解していた。

　そうして撫でていたがいつも通り少しの時間でやめて結晶のある空間から出て神殿をあとにしようとしたとき、背後から不思議な音がきこえてきた。それはまるで硬いものにヒビが生じてきているような……。

　そして何かあってはいけないと急いで音のもとへと向かうとそこは先ほどまでいた結晶のある場所であった。

　結晶の周囲には先ほど清掃を終えた時には確かに存在していなかったキラキラと光を辺りに反射しているものが散らばっており、中央に位置する結晶にヒビが入っていた。

「な！こ、これは……」

　彼女は理解できないながらももしかしたらと考えているかすかな期待に胸を膨らませてそれらを眺めていた。

　そしていかほどの時がたっただろうか。数分か、はたまた数時間か。

　全体の半分ほどにヒビが広がっていたとき、結晶が大きく光り輝いた。

　あまりにも眩しく彼女は目をとっさに隠し、光がやんだと判断してゆっくりと結晶に向かって目を向けた。

　するとそこには結晶はなく、中で眠っていた聖女が空中に浮いており、今ゆっくりと地に足をつけようとしていた。

　その美しい光景に見とれていたら、聖女がゆっくりと目を開き宝石のように澄んだ赤い瞳をあたりに彷徨わせている。そして私の存在に気づいたのか闇夜のようなとても長い黒髪を揺らしながらこちらへ歩いてくる。

「……はっ！い、いけません！足元には結晶の欠片が！ってあれ？ないです？」

　リディアードは夢にまでみた聖女の目覚めと想像以上の美しさに見惚れていたせいで停止していた脳が急な出来事の数々の処理に追われて軽くオーバーヒートしていた。

「君、大丈夫？」

　混乱していたリディアードを気遣うそのまた別格の美しさに彼女は思わず気絶してしまったのであった。