プリーマヴェーラ春の夢

F.Marrj

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最終章

再会と其々の旅立ち

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   半年後。

ジル「あれから半年経ちますね」

麻衣「いくらなんでももう帰ってきていい頃よ…もしかして二人に何かあったのかしら?」

   考えて手で口を覆う

ジル「如何なされたのですか!?」

麻衣「そういえばミンティオ…」

ミンティオ(麻衣の回想)「しかしもし友の運命に死が待ち受けているのなら私も共に死のう」

麻衣「こう言っていたわ…と言うことは?」

   目眩を起こす。

ジル「ウラニア様!」

   麻衣を支える。

ジル「誰か!ウラニア様をお部屋にお連れして!」

   アルシンゴとシエネオが麻衣を運ぶ。


   寝室。麻衣、目を覚ます。

ジル「ウラニア様!」

麻衣「ここは?私…」

ジル「寝室ですわ。ウラニア様、お加減は如何でしょう?」

麻衣「あぁ…」

   悲しげ

麻衣「恐ろしい夢を見たのです。シヴェーノやミンティオ、愛するもの達がみんな私の前から消えて行く夢よ」

   手で顔を覆う

麻衣「もしもこれが正夢になるのではと思うと恐ろしくて息が詰まりそうだわ!もう私、死んでしまいそう!」

ジル「そんな!ウラニア様、お気を確かにお持ちください!」

   ミンティオとシヴェーノ。

シヴェーノ「母上!」

麻衣「ほら…こんな風にあの子の声の幻聴までが聞こえるようになってしまっているのですもの」

シヴェーノ「母上ったら!」

ジル「シヴェーノ様!」

   取り乱す麻衣を落ち着かせる。

ジル「ウラニア様!ウラニア様!出入り口をご覧下さいませ!」

麻衣「え?」

   シヴェーノを見る

麻衣「血まみれのあの子だわ…私はついに幻覚まで見るようになってしまったのね。それとも死んだあの子が私に会いに来たとでも言うの?」

   シヴェーノ、涙に微笑んで少しずつ近寄る

麻衣「シヴェーノ、早く母も連れていっておくれ…」

シヴェーノ「何をおっしゃいますか母上!お気を確かにお持ちください!」

   麻衣の手を握る。

シヴェーノ「私は死んでなどいません。今、生きてあなたの元へ帰って参りました」

麻衣「シヴェーノ?では、あなたは死んでないの?本当に生きているあなたなの?」

シヴェーノ「はい」

麻衣「あぁ…あなたが刺されたと言う知らせを聞いて、母はどれ程苦しめられた事か知れません!しかしよく生きて帰ってくれました」

   シヴェーノを強く抱き締めて口付ける。

麻衣「でもどうやって…」

シヴェーノ「ミンティオの支えがあったお陰です。彼が私を見捨てる事なく、最後まで付き添っていてくれたお陰なのです。彼がいなければ私は死んでいました」

麻衣「そうなの…ミンティオ、あなたに何といってお礼を言ったらよいか…」

ミンティオ「いえ、礼には及びません。シヴェーノは私にとって無二の親友です。苦しむ友を誰が見捨てましょう?当然の事です」

シヴェーノ「母上、私は決めました。近い内に改めてリシンガとの結婚披露パーティーを致します。そして彼女を正式に妻とし、改めてこの国を建て直します」

ミンティオ「私からもお願いがございます。姉君のウラルジアを正式に私の妻として迎えさせてください。きっと彼女を大切に致します」

   出入り口にリシンガとウラルジア。頬を染めて聞いている。

麻衣「いいでしょう。あなた方でしたらきっと娘を幸せにしてくださると信じております」

   微笑んでリシンガとウラルジアを見る。

麻衣「リシンガもウラルジアも幸福者ね」


   数ヵ月後。

全員「リシンガ様、ウラルジア様、おめでとうございます!」

   リシンガとシヴェーノ、ウラルジアとミンティオの結婚披露パーティー。麻衣、シヴェーノに戴冠する

麻衣「シヴェーノ、今日からあなたがこの国の新しい国主です。これからは戦や争い事のない国造りをしていってください。そしてこれからは慎ましく生きなさい、リシンガの事も頼みましたよ」

シヴェーノ「はい、母上」

麻衣「そしてミンティオもウラルジアの事を頼みましたよ」

ミンティオ「お任せください」

シヴェーノ「皆のもの!今日から私は、このテュリュク族タルタラの帝国を、王国と改め、“アズノシュキン”と名付ける。これからはまだまだ人も少ないがみんなで国を一つに纏め上げて立派な国造りをしていこう!」

全員「はい、王様」

ミンティオ「では私はこの式典が終わり次第、西に立ちます。西にいって良い大工や石工を探して参りましょう」

アルシンゴ「私もこの国の存在を広めるために西に出向きます。そして力ある人材を探して連れてきましょう」

シエネオ「そういうことなら私も協力…といいたいが、そうすると元服を迎えた男は王様の周りに一人もいなくなる」

アルシンゴ「そうか。だったら私は行かぬから私の代わりにお前が西に行け。一応私はこの中でも一番の長老だ。故にここに居残る義務があるしな」

シエネオ「わかった。頼んだ」


   翌日。

麻衣「皆さん、本当に行ってしまわれるのですね」

ミンティオ「はい。しかし必ずや叉、ここに戻って参ります。その時には何倍もの人手を共に連れているでしょう」

麻衣「ミンティオはどちらへ?」

ミンティオ「私は、西にギリシアと言う国があると聞きましたのでその周辺へ行こうと思います」

シエネオ「私はエジプトと言う国があると聞いておりますのでその周辺へ行って参ります」 

麻衣「そうですか…ウラルジア、あなたもミンティオと共に行くのですね」

ウラルジア「えぇ母上様」

麻衣「体に気を付けてね。そしてどうか、私が生きている間には戻ってきてちょうだい」

ウラルジア「母上様…」

   麻衣とウラルジア、抱き合う。


   三人、旅立つ。


   25年後。ミンティオとウラルジアが帰国。多くの男女が一緒。麻衣とウラルジアとミンティオ、抱き合って再会を喜ぶ。


   3年後。麻衣、一羽の伝書鳩を受ける。

麻衣N「しかし、私の人生の終わりに訃報が届きました。エジプト周辺を廻っていたシエネオが重い病に倒れて、そのまま亡くなってしまったというのです。シエネオはこの国にもどってはくれませんでしたが、代わりに多くの新しい人をこの新しい国へ送ってくれたんです」

   国らしくなってかなり賑わっている。

麻衣N「彼らのお陰で国は大きな変化を見せていったわ。どんどん新しい町が出来て、国らしくなっていく…でももう私は80歳の高齢、この時代の人から見れば大長寿。だから国の完成まで見られるはずがないって分かっていたし、最期は近いとも分かっていたわ…」


   一年後。

麻衣「そして今日が私の満80歳の誕生日」

   麻衣、新しくなった城の寝室で横たわっている。

ウラルジア「母上様!」

麻衣「早いもんだわ…月日が流れるのって。思い返せば色々あった人生だった」

リシンガ「何を言っているのです!まだまだですわ!」

麻衣「いいえ…私はもう80歳にもなった老人ですもの、もう十分。これ以上長くは生きられないわ…とてもいい人生だった」

シヴェーノ「母上!」

麻衣N「そう…私はもう多分…これで死んで行く」

麻衣「シヴェーノ、ミンティオ、これからはあなたたちだけでこの国を纏めていくのです」

シヴェーノ「なりません!私はまだまだ未熟なのです!母上のお支えなしに…」

麻衣「何を弱気な事を言っているのです?あなたはもう立派な国王なのですよ?私なしでもあなたなら立派にやっていけます…二人とも残された娘や息子の事や孫の事を頼みました」

   目を閉じる

シヴェ・ウラ・リシ「母上!」

ミンティオ「ウラニア様!」


麻衣M「末期のガンによって死んだ私はこの世界に連れて来られた事によって、現世では決して体験できなかった“長生き”と“老衰”というものを体験した。そして今、一度死んだ私が旧石器の世で叉死のうとしている…あの日と同じプリーマヴェーラの日差しの中で。では、一体今までの私は何だったのでしょう?生きていたのか?死んでいたのか?それとも黄泉で私の魂が見ていた幻だったのか?」

   麻衣、光のトンネルの中で目を覚ます。

麻衣M「あの時と同じトンネルだわ…じゃあ私の魂は今、何処へ行こうって言うの?今度は何処へ連れてかれようとしているのかしら?」

   麻衣、トンネルの出口へと歩き出す。  


   アズノシュキン王国。人で賑わい、王国らしく栄えた国が出来上がっている。


          続。
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