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1: 辺境の街 へブリッジで暮らす
死後の世界にて
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今日も青い世界を瞳を閉じて漂っていた。僕には特にすることもない。あるとすれば生きていた頃を時々、思い返すくらいだ。
生まれたときからある重い病に掛かっていた。でも両親はとても優しかったから、決して不満だったことはない。ベッドの上では1日中、本を読んでいた。両親は歩けない僕のことを思って、僕が読書好きなことに気づいてから、次々に本をくれた。色々な本を読んでいて、それが幸せな時間だった。
でも人生とは残酷で僕は子どもの内に死んだ。
それから気ままに眠るように過ごしていたが、ふと気づくと今日は、不思議なことに誰かが目の前に居る。長く綺麗な白髪と幾重もの深いシワが顔にあるお爺さんだ。真っ白な衣服で全身を覆っている。清廉さと賢さがあった。
「お前は何を考えていたのかい」
それは、唐突な問い。老人の瞳には優しさがあって、真っ直ぐと僕を見ていた。
「生きていた頃…かな」
「ふむ…狭く短い人生か」
不思議な表情をして、彼を見返す。
「…それ僕のこと言ってる?」
「少しだけ覗かせてもらった。まだ君には心があるからね」
「…凄い。まさか生きてた頃、魔法使いだったりした?」
僕は少し冗談ぽく笑った。久しぶりの会話が嬉しくて賢そうな老人に興味もあった。
老人はその問いかけにすぐに答えなかった。静かに僕を見ていた。観察されているようでやや気色が悪い。思わず視線を反らして、周囲を見た。
もっともこのどこまでも青い広々とした世界では、時に死んだ他の魂に巡り合うことがあっても危害はない。それは誰に教わるでもなくこの静謐な世界の心地よさに信じることができた。
僕は彼の顔を再度、見つめた。視線が交錯する。何故かこのお爺さんをどこかで知っている気がした。
「あなたは誰?」
老人は1つ頷いた。
「私はデュドルフ・ベルカ。」
僕は息を呑んだ。その名前は知っている。印象に残っている名前だ。でも偶然のはずだけど。
「最果ての魔術師と呼ばれていた」
「…オラリスの人?」
「…あぁそうだが、なぜわかった?」
白髪のお爺さんは訝しげな表情で眉を潜めた。僕は驚いて大声をあげる。彼はビックリしたようだった。
「嘘!本のお話しが本当になってる!」
嬉しくなっておおはしゃぎで飛び回ると彼はなおさら困惑するのだった。
しばらくして、説明を終えると老人は何度か頷いた。
「なるほど。お前の世界の本に書かれた物語の主人公が私か。この世界は無数の世界に分かれているし、ある世界の虚構が実在することも時にはあるのだろうな」
「物語を書いた人は、あなたのことを知っていたのかな?」
「さぁな。わからん」
老人は小さな僕をその左手に取った。
「消えかけているな」
僕は同意する。
「この世界で僕の魂は分解されて、再び新しい魂になるんでしょう。もう後は待つだけだよ」
彼は微笑んだ。
「なるほど。だが、私の話を聞けば気が変わるかもしれんぞ」
「え?」
「私は今、生き返る術を持っている。もう一度生き返りたくはないかな」
彼は両手で丸い魂となった僕を支えて問いかけた。
存在することで新たな未知に会うことがある。可能性は常に存在に生じる。それはすでに諦めてしまった死者である僕にとって本当に新鮮な提案だった。
老人は沢山の話を僕にしてくれた。魔術師として生まれてから永遠に生きる方法を探していたこと。その過程で沢山の人に出会い、友情を育み、恋をして暮らしてきたこと。永遠の生こそ得られなかったが、仮の肉体を錬金術で形成することで何度も魂となってから蘇っていること。そして、彼はもう生きることに満足したこと。
「私の力を受け継げる者を探しているのだ」
彼は、そうして話を締めくくった。
「この世界でずっと探していた。本当の心を持つ者を。力には常に責任が伴う。だからこそ魂が露になるこの場所で待っていた。ふさわしい心を持つ者をね」
僕は今まで時々相槌を打ちながら黙って聞いていた。
「私の世界に興味はないか?少年」
「…もちろん興味はあるよ。でもあなたはどうするの?」
彼はおかしそうにクスクス笑った。
「もちろん、ここで終わりだ。しかし、決して生きることを諦めた訳じゃない。生きることに納得したからこそ、魂の死を受け入れたいのさ」
「…そう」
彼は黙って僕の返答を待っている。僕の心は慎重なようで既に心は奪われていた。正直に老人に言葉を紡ぐ。
「行きたい。僕にその資格があるか、自信はないけどその世界で生きてみたい」
「本当だな?」
「うん」
こうして僕は再び生きることになった。これは僕が転生し、新しい世界で暮らす僕自身の物語だ。僕はもう物語の読み手ではなくなって、物語のキャラクターとなって未知の宇宙オラリスを生きていく。生きることをいつの日か理解するために。
生まれたときからある重い病に掛かっていた。でも両親はとても優しかったから、決して不満だったことはない。ベッドの上では1日中、本を読んでいた。両親は歩けない僕のことを思って、僕が読書好きなことに気づいてから、次々に本をくれた。色々な本を読んでいて、それが幸せな時間だった。
でも人生とは残酷で僕は子どもの内に死んだ。
それから気ままに眠るように過ごしていたが、ふと気づくと今日は、不思議なことに誰かが目の前に居る。長く綺麗な白髪と幾重もの深いシワが顔にあるお爺さんだ。真っ白な衣服で全身を覆っている。清廉さと賢さがあった。
「お前は何を考えていたのかい」
それは、唐突な問い。老人の瞳には優しさがあって、真っ直ぐと僕を見ていた。
「生きていた頃…かな」
「ふむ…狭く短い人生か」
不思議な表情をして、彼を見返す。
「…それ僕のこと言ってる?」
「少しだけ覗かせてもらった。まだ君には心があるからね」
「…凄い。まさか生きてた頃、魔法使いだったりした?」
僕は少し冗談ぽく笑った。久しぶりの会話が嬉しくて賢そうな老人に興味もあった。
老人はその問いかけにすぐに答えなかった。静かに僕を見ていた。観察されているようでやや気色が悪い。思わず視線を反らして、周囲を見た。
もっともこのどこまでも青い広々とした世界では、時に死んだ他の魂に巡り合うことがあっても危害はない。それは誰に教わるでもなくこの静謐な世界の心地よさに信じることができた。
僕は彼の顔を再度、見つめた。視線が交錯する。何故かこのお爺さんをどこかで知っている気がした。
「あなたは誰?」
老人は1つ頷いた。
「私はデュドルフ・ベルカ。」
僕は息を呑んだ。その名前は知っている。印象に残っている名前だ。でも偶然のはずだけど。
「最果ての魔術師と呼ばれていた」
「…オラリスの人?」
「…あぁそうだが、なぜわかった?」
白髪のお爺さんは訝しげな表情で眉を潜めた。僕は驚いて大声をあげる。彼はビックリしたようだった。
「嘘!本のお話しが本当になってる!」
嬉しくなっておおはしゃぎで飛び回ると彼はなおさら困惑するのだった。
しばらくして、説明を終えると老人は何度か頷いた。
「なるほど。お前の世界の本に書かれた物語の主人公が私か。この世界は無数の世界に分かれているし、ある世界の虚構が実在することも時にはあるのだろうな」
「物語を書いた人は、あなたのことを知っていたのかな?」
「さぁな。わからん」
老人は小さな僕をその左手に取った。
「消えかけているな」
僕は同意する。
「この世界で僕の魂は分解されて、再び新しい魂になるんでしょう。もう後は待つだけだよ」
彼は微笑んだ。
「なるほど。だが、私の話を聞けば気が変わるかもしれんぞ」
「え?」
「私は今、生き返る術を持っている。もう一度生き返りたくはないかな」
彼は両手で丸い魂となった僕を支えて問いかけた。
存在することで新たな未知に会うことがある。可能性は常に存在に生じる。それはすでに諦めてしまった死者である僕にとって本当に新鮮な提案だった。
老人は沢山の話を僕にしてくれた。魔術師として生まれてから永遠に生きる方法を探していたこと。その過程で沢山の人に出会い、友情を育み、恋をして暮らしてきたこと。永遠の生こそ得られなかったが、仮の肉体を錬金術で形成することで何度も魂となってから蘇っていること。そして、彼はもう生きることに満足したこと。
「私の力を受け継げる者を探しているのだ」
彼は、そうして話を締めくくった。
「この世界でずっと探していた。本当の心を持つ者を。力には常に責任が伴う。だからこそ魂が露になるこの場所で待っていた。ふさわしい心を持つ者をね」
僕は今まで時々相槌を打ちながら黙って聞いていた。
「私の世界に興味はないか?少年」
「…もちろん興味はあるよ。でもあなたはどうするの?」
彼はおかしそうにクスクス笑った。
「もちろん、ここで終わりだ。しかし、決して生きることを諦めた訳じゃない。生きることに納得したからこそ、魂の死を受け入れたいのさ」
「…そう」
彼は黙って僕の返答を待っている。僕の心は慎重なようで既に心は奪われていた。正直に老人に言葉を紡ぐ。
「行きたい。僕にその資格があるか、自信はないけどその世界で生きてみたい」
「本当だな?」
「うん」
こうして僕は再び生きることになった。これは僕が転生し、新しい世界で暮らす僕自身の物語だ。僕はもう物語の読み手ではなくなって、物語のキャラクターとなって未知の宇宙オラリスを生きていく。生きることをいつの日か理解するために。
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