働く!魔術師のidentity

ハイタカ

文字の大きさ
2 / 3
1: 辺境の街 へブリッジで暮らす

戦士ギルド

しおりを挟む
その街の外壁は、ところどころ影があるはちみつ色だった。水平に広がる若草色の草原には爽やかな初夏の風が吹いていて、壁を乗り越えて街中まで降りてきている。

そよ風が吹くへブリッジの街中はみっしりと多様な形の建物が詰まっていた。そして行き交い話し込む人々がいる。人族だけじゃなく目立つところではドワーフや獣人がいた。他にもどんな種族かわからないような不思議な人もいる。

余りじっと見ると失礼なので歩きながら、横目でチラリと追う。西に続く大きな街道に沿う街なので随分発展して賑やかみたいだ。初めて見る風景に本当に興味を引かれたけど、あまりキョロキョロしていたら馬鹿みたいだから出来るだけ自制していた。

僕は大通りを人に聞いたように歩いて、東通りの方に来ていた。東通りに入ってからすぐに、それはあった。

"戦士ギルド" "力こそ我が名なり"

入り口のドアの上にある細長い木の看板には、そう書かれていた。もちろん文字を読む力もあのお爺さんから受け継いでいる。

2本の交錯した剣が描かれた黒い旗が看板の横に揺れていた。今も何人かが出入りしている。

ゴクリと唾を飲み込む。すでにこの世界に来てから、何人かの人間とは接触しているがこのギルドでは個人情報を開示して、一人の人間として真剣に向き合う必要がある。最初に決めた通り、ここでしばらく働くのだから。

思いきって入り口に近づいていき、扉を開く。ギルドの中は適度にざわめいており、近くの机で話し込んでいた数人の戦士がこちらの方を振り向いた。

扉の近くで飲み物を手に持った大柄な男はまだ子どもの僕を見て不審そうな顔をした。しかし何気なく挨拶してきた。

「やぁ、おはよう」

「…お、おはようございます」

扉から離れてペコリと頭を下げる。男は、ちょっと困った表情だったが関わらないことに決めたのか再び仲間との話しに戻った。他の人もこちらをチラとは見ているが特に干渉はしてこない。

僕はひとまずほっとして、扉から進んで真っ直ぐ奥にある受付に歩いていった。先ほどの人たち以外にも何人かがこちらを見ているのがわかる。やはりこんなに背丈が小さい子どもだと少なからずぶしつけな注目を浴びてしまうようだった。

受付の前の3列のうち右に並び、順番を待つ。少し自意識過剰かもしれないが、ひたすらドキドキと心拍が上がっていた。場違いな場所にいる気がしてならなかった。

酷く長い時間に感じたが、やがて目の前の人達が少しずつ捌かれていき、自分の番になった。

受付の方に心許なく近づいていく。ちょうど顔のすぐ下ぐらいが受付の高さだった。受付嬢は赤髪の猫族の女性だ。彼女がとても美人なのは解ったけれど、どこか冷たく見えた。

「あの…」

「なんでしょう?」

彼女は眼鏡の枠を右手で直しながら、僕を見下ろした。丁寧な口調だったがどこか見定めているような雰囲気があった。

「戦士ギルドに登録したいと思っています。今、12歳なのですが…」

僕は一つ息を吸い込む。

「可能でしょうか?」

彼女は首を少し傾げてから、僕をじっと見据えた。

「15歳になるまでは基本的に仮登録までです。主に街中での業務となります。本格的に戦士として活動するには3年待つ必要があります。いかがなさいますか?」

事務的に淡々と教えてくれる。

「構いません。お願いします」

「ではこちらにどうぞ」

紙とペンを渡される。テーブルの位置が高いので少し書くのに困ったけど、何とか欄を埋めていく。

名前はセナ。年齢12歳。住所は…

「すみません」

「はい」

彼女は余りに落ち着いた態度で何を考えているのか読めない表情をしていた。

「まだ住居がないんですけど…」

「え…」

初めて解りやすい表情をこの女性が見せた。困惑した顔だ。やっぱり不味いんだろうか。

沈黙が続く。彼女は横を見て、何事か考えているようだった。


「君…親はどこにいる?」

事務的な口調は消え、どこか問い詰めるような態度だった。これは良くない流れだな。僕はペンを置き、少し身じろぎして受付から身体を離す。

「えっーと………いません…」

小声で吐息を漏らすように呟く。少なくともこの世界にはいないから嘘ではない。

彼女はふーと疲れたようにため息を付く。そして気だるそうな目付きで僕を睨んだ。

「厳しい話だが、ここは孤児院ではない」

このままだと早い話、叩き出されそうだ。もちろん僕だって只の子どもの来る場所じゃないことは解っている。僕は両手を軽く上に広げて、背筋を反らし彼女にやや大きな声で慌てて告げる。

「あー待って、待って下さい。僕は…」

上手く話が進むようにと密かに願い、左手の人差し指に小さな火を灯した。

「魔術師なんです。魔術師の卵なんですよ」

目の前の美女は口元に手をあてて、身体を大きくたじろかせた。それが無口で無愛想な受付嬢、シャロリンとの出会いだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...