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1: 辺境の街 へブリッジで暮らす
戦士ギルド
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その街の外壁は、ところどころ影があるはちみつ色だった。水平に広がる若草色の草原には爽やかな初夏の風が吹いていて、壁を乗り越えて街中まで降りてきている。
そよ風が吹くへブリッジの街中はみっしりと多様な形の建物が詰まっていた。そして行き交い話し込む人々がいる。人族だけじゃなく目立つところではドワーフや獣人がいた。他にもどんな種族かわからないような不思議な人もいる。
余りじっと見ると失礼なので歩きながら、横目でチラリと追う。西に続く大きな街道に沿う街なので随分発展して賑やかみたいだ。初めて見る風景に本当に興味を引かれたけど、あまりキョロキョロしていたら馬鹿みたいだから出来るだけ自制していた。
僕は大通りを人に聞いたように歩いて、東通りの方に来ていた。東通りに入ってからすぐに、それはあった。
"戦士ギルド" "力こそ我が名なり"
入り口のドアの上にある細長い木の看板には、そう書かれていた。もちろん文字を読む力もあのお爺さんから受け継いでいる。
2本の交錯した剣が描かれた黒い旗が看板の横に揺れていた。今も何人かが出入りしている。
ゴクリと唾を飲み込む。すでにこの世界に来てから、何人かの人間とは接触しているがこのギルドでは個人情報を開示して、一人の人間として真剣に向き合う必要がある。最初に決めた通り、ここでしばらく働くのだから。
思いきって入り口に近づいていき、扉を開く。ギルドの中は適度にざわめいており、近くの机で話し込んでいた数人の戦士がこちらの方を振り向いた。
扉の近くで飲み物を手に持った大柄な男はまだ子どもの僕を見て不審そうな顔をした。しかし何気なく挨拶してきた。
「やぁ、おはよう」
「…お、おはようございます」
扉から離れてペコリと頭を下げる。男は、ちょっと困った表情だったが関わらないことに決めたのか再び仲間との話しに戻った。他の人もこちらをチラとは見ているが特に干渉はしてこない。
僕はひとまずほっとして、扉から進んで真っ直ぐ奥にある受付に歩いていった。先ほどの人たち以外にも何人かがこちらを見ているのがわかる。やはりこんなに背丈が小さい子どもだと少なからずぶしつけな注目を浴びてしまうようだった。
受付の前の3列のうち右に並び、順番を待つ。少し自意識過剰かもしれないが、ひたすらドキドキと心拍が上がっていた。場違いな場所にいる気がしてならなかった。
酷く長い時間に感じたが、やがて目の前の人達が少しずつ捌かれていき、自分の番になった。
受付の方に心許なく近づいていく。ちょうど顔のすぐ下ぐらいが受付の高さだった。受付嬢は赤髪の猫族の女性だ。彼女がとても美人なのは解ったけれど、どこか冷たく見えた。
「あの…」
「なんでしょう?」
彼女は眼鏡の枠を右手で直しながら、僕を見下ろした。丁寧な口調だったがどこか見定めているような雰囲気があった。
「戦士ギルドに登録したいと思っています。今、12歳なのですが…」
僕は一つ息を吸い込む。
「可能でしょうか?」
彼女は首を少し傾げてから、僕をじっと見据えた。
「15歳になるまでは基本的に仮登録までです。主に街中での業務となります。本格的に戦士として活動するには3年待つ必要があります。いかがなさいますか?」
事務的に淡々と教えてくれる。
「構いません。お願いします」
「ではこちらにどうぞ」
紙とペンを渡される。テーブルの位置が高いので少し書くのに困ったけど、何とか欄を埋めていく。
名前はセナ。年齢12歳。住所は…
「すみません」
「はい」
彼女は余りに落ち着いた態度で何を考えているのか読めない表情をしていた。
「まだ住居がないんですけど…」
「え…」
初めて解りやすい表情をこの女性が見せた。困惑した顔だ。やっぱり不味いんだろうか。
沈黙が続く。彼女は横を見て、何事か考えているようだった。
「君…親はどこにいる?」
事務的な口調は消え、どこか問い詰めるような態度だった。これは良くない流れだな。僕はペンを置き、少し身じろぎして受付から身体を離す。
「えっーと………いません…」
小声で吐息を漏らすように呟く。少なくともこの世界にはいないから嘘ではない。
彼女はふーと疲れたようにため息を付く。そして気だるそうな目付きで僕を睨んだ。
「厳しい話だが、ここは孤児院ではない」
このままだと早い話、叩き出されそうだ。もちろん僕だって只の子どもの来る場所じゃないことは解っている。僕は両手を軽く上に広げて、背筋を反らし彼女にやや大きな声で慌てて告げる。
「あー待って、待って下さい。僕は…」
上手く話が進むようにと密かに願い、左手の人差し指に小さな火を灯した。
「魔術師なんです。魔術師の卵なんですよ」
目の前の美女は口元に手をあてて、身体を大きくたじろかせた。それが無口で無愛想な受付嬢、シャロリンとの出会いだった。
そよ風が吹くへブリッジの街中はみっしりと多様な形の建物が詰まっていた。そして行き交い話し込む人々がいる。人族だけじゃなく目立つところではドワーフや獣人がいた。他にもどんな種族かわからないような不思議な人もいる。
余りじっと見ると失礼なので歩きながら、横目でチラリと追う。西に続く大きな街道に沿う街なので随分発展して賑やかみたいだ。初めて見る風景に本当に興味を引かれたけど、あまりキョロキョロしていたら馬鹿みたいだから出来るだけ自制していた。
僕は大通りを人に聞いたように歩いて、東通りの方に来ていた。東通りに入ってからすぐに、それはあった。
"戦士ギルド" "力こそ我が名なり"
入り口のドアの上にある細長い木の看板には、そう書かれていた。もちろん文字を読む力もあのお爺さんから受け継いでいる。
2本の交錯した剣が描かれた黒い旗が看板の横に揺れていた。今も何人かが出入りしている。
ゴクリと唾を飲み込む。すでにこの世界に来てから、何人かの人間とは接触しているがこのギルドでは個人情報を開示して、一人の人間として真剣に向き合う必要がある。最初に決めた通り、ここでしばらく働くのだから。
思いきって入り口に近づいていき、扉を開く。ギルドの中は適度にざわめいており、近くの机で話し込んでいた数人の戦士がこちらの方を振り向いた。
扉の近くで飲み物を手に持った大柄な男はまだ子どもの僕を見て不審そうな顔をした。しかし何気なく挨拶してきた。
「やぁ、おはよう」
「…お、おはようございます」
扉から離れてペコリと頭を下げる。男は、ちょっと困った表情だったが関わらないことに決めたのか再び仲間との話しに戻った。他の人もこちらをチラとは見ているが特に干渉はしてこない。
僕はひとまずほっとして、扉から進んで真っ直ぐ奥にある受付に歩いていった。先ほどの人たち以外にも何人かがこちらを見ているのがわかる。やはりこんなに背丈が小さい子どもだと少なからずぶしつけな注目を浴びてしまうようだった。
受付の前の3列のうち右に並び、順番を待つ。少し自意識過剰かもしれないが、ひたすらドキドキと心拍が上がっていた。場違いな場所にいる気がしてならなかった。
酷く長い時間に感じたが、やがて目の前の人達が少しずつ捌かれていき、自分の番になった。
受付の方に心許なく近づいていく。ちょうど顔のすぐ下ぐらいが受付の高さだった。受付嬢は赤髪の猫族の女性だ。彼女がとても美人なのは解ったけれど、どこか冷たく見えた。
「あの…」
「なんでしょう?」
彼女は眼鏡の枠を右手で直しながら、僕を見下ろした。丁寧な口調だったがどこか見定めているような雰囲気があった。
「戦士ギルドに登録したいと思っています。今、12歳なのですが…」
僕は一つ息を吸い込む。
「可能でしょうか?」
彼女は首を少し傾げてから、僕をじっと見据えた。
「15歳になるまでは基本的に仮登録までです。主に街中での業務となります。本格的に戦士として活動するには3年待つ必要があります。いかがなさいますか?」
事務的に淡々と教えてくれる。
「構いません。お願いします」
「ではこちらにどうぞ」
紙とペンを渡される。テーブルの位置が高いので少し書くのに困ったけど、何とか欄を埋めていく。
名前はセナ。年齢12歳。住所は…
「すみません」
「はい」
彼女は余りに落ち着いた態度で何を考えているのか読めない表情をしていた。
「まだ住居がないんですけど…」
「え…」
初めて解りやすい表情をこの女性が見せた。困惑した顔だ。やっぱり不味いんだろうか。
沈黙が続く。彼女は横を見て、何事か考えているようだった。
「君…親はどこにいる?」
事務的な口調は消え、どこか問い詰めるような態度だった。これは良くない流れだな。僕はペンを置き、少し身じろぎして受付から身体を離す。
「えっーと………いません…」
小声で吐息を漏らすように呟く。少なくともこの世界にはいないから嘘ではない。
彼女はふーと疲れたようにため息を付く。そして気だるそうな目付きで僕を睨んだ。
「厳しい話だが、ここは孤児院ではない」
このままだと早い話、叩き出されそうだ。もちろん僕だって只の子どもの来る場所じゃないことは解っている。僕は両手を軽く上に広げて、背筋を反らし彼女にやや大きな声で慌てて告げる。
「あー待って、待って下さい。僕は…」
上手く話が進むようにと密かに願い、左手の人差し指に小さな火を灯した。
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