アーカイブ:怪談YouTuber・黒天の記録

kuro.

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第31話「クラスLINE」

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「黒天だ。
今日は、ある視聴者から届いた体験談を語ろうと思う。
投稿してくれたのは、高校に通っていたひとりの少女。
彼女はただ、“あの子”が報われることを、心から願っていた――」


届いたのは、彼女からの長いメッセージと、数枚のスクリーンショット。
添えられた冒頭には、こう書かれていた。

「黒天さん……どうかこの話を残してください。
遥が、ほんの少しでも報われるように。
そして、もう誰も……同じようなことが起きないように」

――“遥”。
彼女は、投稿者の親友だった少女の名前だ。

無口で、大人しくて、けれど絵を描くのがとても上手で。
繊細で、人の心の痛みに敏感な、優しい子だったらしい。

でも、そんな遥は、学校で陰湿ないじめを受けていた。
直接的な暴力ではなく、LINEグループや裏アカでの晒し。
机に書かれた悪口、ロッカーへの嫌がらせ、無視、すれ違いざまの陰口。
“見えないナイフ”でじわじわと、心を切り裂かれるような日々。

投稿者は、そんな遥を守ろうとした。
「やめて」と言い続け、彼女のそばに居続けた。
けれど、クラスの空気は変わらなかった。
いや、それどころか、遥と親しくする投稿者まで疎まれたという。

――そして、ある日。遥は、突然姿を消した。
遺書もなく、目撃情報もない。
彼女のスマホも、所持品も、すべて部屋に置かれたまま。

“自殺”とされたが、確たる証拠はなかった。
警察も教師も口を濁し、学校は静かに蓋をした。

彼女の最後のメッセージは、LINEに残っていたという。

「ごめんね。全部、私が悪かったんだね」

――それは、“自分を呪うような言葉”だった。


遥が消えてから、数ヶ月。

事件が風化しかけたある日の深夜、投稿者は奇妙なことに気づいた。
――クラスLINEに、“遥の名前”があった。

グループの参加人数は変わっていない。
でも、トーク一覧に表示されたアイコンだけが、明らかに異質だった。
遥がかつて描いていた、青白い少女のイラスト。
他の誰とも違う、確かに“遥だけが描ける絵”だった。

震える指でトークを開いた瞬間、そこには――

「見てるよ」

という、たった一言のメッセージ。

クラスの誰もが騒ぎ始めた。

【誰だよふざけんな】
【こんなのアカウント乗っ取りだろ】
【てかこのアイコン……ガチじゃん】

だが、その翌日。
遥に酷く当たっていた田中くんが、“不自然な事故”で死亡した。

赤信号の交差点に脇目もふらずに飛び込み、そこに通りかかったトラックに跳ねられた。
周囲は「何かに追われていたようだった」と証言している。

そしてまた、クラスLINEに遥のアカウントからメッセージが届いた。

「佐々木さん、次はあなた」

佐々木は遥を無視し続け、陰口を言い、嘲笑っていた女子生徒。
その日の夜、彼女は自室の浴槽で発見された。
溺死だそうだ。
鍵は開いていたが、外部からの侵入は考えられなかった。

……このとき、投稿者はようやく気づいたという。
――遥は、彼女の怒りの深さ、“傷つけられた順番”に従って、裁きを下していたのだ。

そして次々に、遥の“記録”が投稿されていく。

「吉田くん、私のノート隠したよね」
「松浦さん、何も言わずに笑ってたよね」
「無視されたとき、本当に死にたかった」

誰も証拠が残っていないと思っていたこと。
誰もが“些細な悪意”として、忘れたふりをしていたもの。

でも、遥はすべてを覚えていた。
そして、それを“許していなかった”。

クラスの人数は、日を追うごとに減っていった。
死因はさまざま。
しかしすべてが、“不自然”だった。

投稿者は、遥をいじめたつもりはなかった。

むしろ、誰よりも彼女のそばにいた。
守ろうとしたし、声をかけ続けた。
でも――最後の瞬間、遥を引き留めることはできなかった。

彼女の最期を、“ただ見ていた”。

だから、遥のアカウントから届いたメッセージに、息が止まりそうになったという。

「あなたも、見てただけだったよね?」
「最後まで、一緒にいてくれなかった」

それから、投稿者は毎晩、遥に話しかけた。
描いた絵を見つめ、好きだった音楽を流し、泣きながら言葉を送った。

「ごめんね、遥……」
「私、本当はあなたに救われてたの」
「ずっと、ずっと、大切だった」

そうして迎えた、遥の四十九日。

その夜、遥のアカウントから――最後のメッセージが届いた。

「ごめんね、分かってるよ、ありがとう
いつも大切にしてくれて」

それを最後に、アカウントはグループから消えた。
アイコンも、名前も、メッセージの記録も残っていなかった。
あたかも最初から、いなかったかのように。

「……これは、ただの怪談じゃない。
人は、誰かを追い詰めることがある。
気づかぬふり、見て見ぬふり。
それが“命”を奪うこともあるんだ。

皆は、誰かの“遥”になっていないか?

もし、グループの片隅に“見覚えのないアイコン”が追加されていたなら――
そのLINEの向こうから、……見られているのかもしれない」
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