たんぽぽ学園は、今日も平和(じゃない)です。

kuro.

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1年生編

閑話3「春の小さな冒険。」

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 朝の空気はまだ少し肌寒く、白い息がふわりと舞う。

 地元駅の小さなロータリーに、ゆいとつかさの姿があった。

 つかさは淡い色のニットとジーンズ、ゆいはカジュアルなパーカーにスカートと、いつもとは少し違う私服姿。

 肩にかけたトートバッグと小さな保冷バッグには、お母さんと一緒に作ったお弁当が入っている。

 少し早めに着いたため、ベンチに並んで座りながら、ゆいは時折、駅の入口へ顔を向ける。

「……そろそろかな?」

「大丈夫。集合時間より、まだちょっと早いし」

 そう答えたつかさも、つられて視線を上げたそのとき――

「ゆいちゃーんっ! つかさちゃーんっ!」

 遠くから、りんの元気な声が響いた。

 カジュアルなパーカーに大きなリュック。遠足気分満載の姿で、彼女は勢いよく駆け寄ってくる。

「ごめんねっ、ちょっと寝坊しちゃった~!」

「寝坊って、集合九時だよ?」

「春眠暁を覚えずってやつ!でも目覚めた今は、冒険モード全開だよーっ!」

 そんなりんの言葉に、ゆいもつかさも思わず笑ってしまう。

「……じゃあ、行こっか」

「うんっ!」

「いざ、出発ーっ!!」

 三人の「春の小さな冒険」が、今、始まった。

 最初に乗るのは、ローカル線の小さな電車。

 木造の駅舎を抜けると、すぐそこに田園風景が広がっていた。

「わあ……なんだか、遠くに行くって感じがするね」

 ゆいが窓の外を眺めながらつぶやく。

「でも、目的地まではまだまだ先でしょ?二回も乗り換えがあるって聞いたけど」

 つかさが時刻表アプリを確認する。

「大丈夫大丈夫っ!スイーツのためなら、どこまでもーっ!!」

 りんのテンションが上がったところで、電車はガタン、と動き出した。

 車内はのんびりムード。

 座席に並んで座った三人は、おしゃべりしたり、お菓子をつまんだり。

 最初のうちは順調だったけれど――

 ──1時間ほど経って、最初の乗り換え駅に到着。

「えーっと、次の電車は……あれ?これかな?」

 ゆいがホームの案内板を見て首をかしげる。

「え? ちょっと待って、それ逆方向じゃ――」

「えええええええっ!?!?乗る電車間違えた!?!?」

 りんが叫ぶ。

「落ち着いて。今の電車、発車までまだ少し時間あるから……」

 つかさが即座にスマホを操作し、なんとか正しいホームを特定。

 三人はホームを駆け抜け、ギリギリで正しい電車に飛び乗る。

「……っ、間に合ったぁぁぁ……」

「だから言ったのに……」

「いやぁー、これも旅のスパイスってことで……てへへっ」

 息を切らしながらも、なんとか乗り継ぎ成功。

 トラブルもあったけれど、三人のテンションはむしろ高まっていた。

「次は終点ー、春霞(はるがすみ)町ー」

 電車内にアナウンスが響く。

 到着したのは、ほどよく都会な隣町。

 駅を出ると、昔ながらの商店街が広がっていた。

 看板には『ベーカリー花のれん・限定スイーツフェア開催中!』の文字。

「着いたーっ!!」

「……ほんとに、冒険だったね」

「でも、ここからが本番だよ♪」

 三人は再び笑い合いながら、パン屋さんへ向かって歩き出す。

 商店街のアーケードを抜けた先に、目的の「ベーカリー花のれん」があった。

 白い木枠の看板にピンクの花模様。

 店頭には「春の限定・桜あんぱんフェア開催中!」と、手描きの温かな文字が掲げられていた。

 ウィンドウ越しに見えるのは、ふっくらと膨らんだ桜色のあんぱん。

 表面にはこんがりと焼き色がつき、中央には塩漬けの桜の花が飾られている。

「うわぁぁーーー! 見て見てっ、あの桜の花っ!」

 りんが目を輝かせてウィンドウにぴとっと張りつく。

「ひとつひとつ、丁寧に作られてるのが伝わってくる……」

 つかさも、ガラス越しに見入っていた。

「はやく……!入ろっ!!売り切れる前に……っ!」

 ゆいは緊張と興奮で手をきゅっと握りしめながら、店の扉を押した。

 店内は、バターと小麦と、ほんのり桜の香りが混ざる、優しい空間。

「すみませんっ! 桜あんぱん、3つ……!」

 りんが元気にオーダーすると、店員さんがにっこり微笑んで、焼きたてを包んでくれる。

「わぁ……まだ温かい……」

 ゆいが包みを胸に抱き、ほっと頬をゆるませる。

「春霞町まで来てよかったね」

 つかさがぽつりと言うと、みんな、うんうんとうなずき合った。

 そして――  桜並木の遊歩道へ。

 ふくらんだ蕾と、ちらほら咲き始めた花びらが、春の訪れを告げている。

「お弁当、ここで食べよっか!」

 ゆいがレジャーシートを広げて、お弁当を取り出す。

「じゃあ、デザートはこれで決まりだね」

 つかさがふわりと笑った。

 三人で輪になって腰を下ろし、春風の中でお弁当タイム。

 おにぎりや卵焼きを頬張りながら、笑い声がこぼれる。

 そして、ついに――

「いっただっきまーすっ!!」

 りんの合図で、三人は同時に桜あんぱんにかじりつく。

「……あまっ……やさしい……」

 ゆいがぽわんと頬をゆるめ、

「んー、桜の香りがふわっと……これ、優勝」

 つかさもうっとりと目を閉じる。

「おかわりしたいっ!!え、ここでバイトすれば食べ放題!?」

 りんのテンションは最後まで絶好調だった。
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